継承式編

「これより、I世の時代より受け継がれしボンゴレボスの証である小瓶を、ボンゴレIX世より、ボンゴレX世へ継承する」

継承式が、ついに、始まった。
イヤホンから流れてくる声に集中する。
隣の広間が会場なのだが、広い廊下と分厚いドアのせいで、向こうの声がよく聞こえないため、ルッスーリアに預けた無線から聞こえてくる音声を聞くしかないのだ。
イヤホンを持っているのがオレなので、ベルとマーモンはそれぞれ左右から、オレの耳にくっついて音を聞いている。
……少し可愛いと思ってしまった。

「では……継承を」
「受け継いでもらうよ、X世」

何かを動かす音、 衣擦れの音。
恐らく9代目が罪を手にし、沢田に差し出したのだ。
そして継承が行われる直前……。

―― キイィィイ

耳を劈く、鋭い音。
続けざまに聞こえてきたのは破壊音。
敵襲だ。

「構えとけ、ベル、マーモン!!」
「わかってるし!」
「ムム、何か来るよ、スクアーロ」

会場の方はルッスーリアがうまくやってくれているだろう。
今度ばかりは証拠だの確証だのとは言ってられねえ。
奴らはここで叩かなければ。
カメラには何も映ってねーが……。
やはり向こうには幻術使いがいるのか。
静かに、ドアが開き、煙と共に誰かの足が踏みいってきた。
そして、ドアに仕掛けてあった第一の仕掛けが、作動する。

―― ドガァンッ!!

「……」
「……スクアーロ、まさか君」
「爆弾トラップくれぇ当然だろ?」

二人に引かれた顔をされた。
さっきの取り消し、やっぱり可愛くねぇ。

「うひゃ~!激しいなもー!!」
「みんな、大丈夫?」
「問題ないわ、炎真のおかげでね」

声が聞こえた。
覚えのある声……シモンの奴らの声。
そして聞こえたと同時にオレとベルは走り出す。
バカが……暗殺者の前で声を出すことは、

「殺してくれっつってるようなもんだぜぇ」

爆煙の中の、誰かの首を剣でかっ切る。
だが、横に振った剣は固いものに当たり、人を弾き飛ばした感覚だけが腕に残った。
ベルの方も殺り損ねたらしい。
間髪を入れずに、煙が薄れて見え始めたシモンファミリーの、帽子の男、加藤ジュリーを狙ってナイフを投げた。
勿論、ナイフにはワイヤー付きだ。
避けられてもワイヤーが奴を襲う。
だがナイフは敵に届く前に見えない壁に弾き返されるようにして床に落ちる。

「炎真、お前は先に罪を!」
「ム、させないよ」
「!?」

待機していたマーモンが幻術で敵を捕らえんと進み出る。
一度は古里炎真を捕らえた。
だが古里を捕らえた触手は弾け飛び、破片が砂のようになって、今度は逆にマーモンを捕らえる。

「ムグッ!?」
「この赤ん坊はオレちんが抑えとくぜ♪」
「ありがとうジュリー!!」
「ちっ!」

古里が金庫に近付く。
マーモンは動けねーな。
オレは袖からスイッチを出し、2つ押した。
一つは奴らの名札につけた電気ショックのスイッチ。
こちらは気付かれて捨てられでもしたのか、反応なし。
もう一つは、壁に仕掛けたトラップのスイッチ。

「ベル、マーモン!!避けろぉ!!」
「ししっ!了解!!」
「ちょっ!そんないきなり!?」

壁から、正確には天井のすぐ下に仕掛けた装置から、鋭い矢の穂先のようなものが飛び出す。
数が多いため、全ては弾き飛ばせなかったらしい。
金庫付近の幾つかが反対側の壁まで届き、穂先に付いていたワイヤーがピンと張って行く手を塞ぐ。

「この程度で、僕の邪魔にはならないよ」

オレは飛んできた氷の槍を避ける。
また、見えない力にワイヤーが弾き飛ばされる。
だが、トラップはそれだけではない!!
金庫の目の前に、古里が足をおいた瞬間、カチリと音が鳴る。

「……!!」
「爆ぜろ!」

地雷が、古里を襲う。
実を言うと金庫を守るトラップはあれが最後なのだ。
祈るような気持ちで、加藤ジュリーに向けて銃弾を撃ち込み、その隙にマーモンをベルが回収する。

「……どう?スクアーロ。殺れた?」
「わからねぇ。が、まだ6人いる。マーモンは後ろで援護しろぉ。ベル、行くぞぉ!!」
「しし、オッケー」

マーモンの幻覚がシモンを襲い、その隙からオレ達が攻撃を繰り出す。
シモン側も、加藤ジュリーの幻術返しや氷の攻撃、葉のような炎の攻撃など……、見たこともない多彩な術を扱い、反撃してくる。
そして数十秒後、バキリという不気味な音が聞こえてきた。

「あなたたちのせいで、思ったより、時間が掛かったよ。でも、手に入れた……」

古里炎真の声だ。
そう認識するが早いか、オレとベルは見えない手に突き飛ばされ、壁に衝突していた。

「!!た……大変です!!金庫が破られています」

やっと9代目ファミリーが来たのか!?
だがアイツらじゃ勝てねぇ。
案の定、ガナッシュが氷の槍に襲われる。
金庫があの見えない力で爆発し、晴れた煙の向こうから、シモンの奴らが、姿を見せた。

「シモン」
「エンマ……君?」

その手には、しっかりと罪の小瓶が握られていた。
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