継承式編

「そんな……!!シモンファミリーが!?」
「……先代から、何か聞いては?」
「……シモンについては、大昔に友好があったが、自ら海外に向かったファミリーだとしか」
「……」

その時の心情を表すには、『呆れた』の一言だけで足りる。
わけのわからんファミリーを、下調べもせずにホイホイ呼ぶの、本当にやめてほしい。

「シモンファミリーの子達と綱吉君達は友達じゃ……。できることなら、思い過ごしであれば……」
「もし、思い過ごしでなかったら?」
「……継承式の日まで、待ってみよう。彼らがどう動くか、君が、見守っていてくれ」
「……」
「それに、主犯が彼らかどうかはまだわからないんだろう?」
「……可能性は高いと思う」
「もしかしたら、彼らを操る黒幕がいるかもしれない。君はその可能性も考えて、もう少し探ってみておくれ」
「……では、継承式の警護について、練り直しておく。それと……」
「なんじゃね?」
「……沢田綱吉とリボーンに話が聞きたい。構わないか」
「ああ、勿論だよ。好きなときに……」
「9代目、お話し中失礼します!綱吉様がお見えです」
「ああ、噂をすればだね。君も来るかい?」
「……はい」

二人が客間へと入ると、そこには既に、沢田綱吉とリボーンがいた。


 * * *


「……では継承式は中止とする」

部屋の隅に立ちながら、その言葉を耳にしたオレは、誰にも聞こえないようにひっそりとため息をこぼした。
色々やってきたこと、全部無駄になんのか……。
まあ、継承式が開かれなければ、罪や、ボンゴレの重要人物が狙われることも減るだろうし、そういう意味では一安心なんだろうが。

「すみません、9代目……」
「気にすることはない、わしから一方的にお願いしたのじゃからな」
「……はあ」

いやいや、気にしてほしい。
この継承式のためにいくら費やしたことか。
オレだって睡眠時間削って働いたってのに。

「ボンゴレのボス以外の仕事でも、君ならきっとうまくやれるはずじゃ。君はダメツナなんかじゃない。自信を持ちなさい、綱吉君」
「9代目……」
「甘ぇな」
「それに、わしはまだ諦めたわけでは……」

まだ諦めてねーのかよ!
オレがヘルメットの中で眉間に深いシワを刻んだ、その時だった。

「ご歓談中失礼!綱吉様にお電話です。ファミリーの獄寺隼人からです。緊急を要するとのことです」
「え?」

9代目の霧の守護者、クロッカン・ブッシュが会話に割って入る。
困惑しながら、沢田が電話に出た。

「もしもし獄寺君。オレだけど……え?山本?山本がどうしたって?」

聞こえてきた名前に、少し反応する。
山本が、どうかしたのか?

「……!……うん、……うん。中央、病院……。わかった、すぐ行く……」

沢田の顔色が急激に悪化する。
病院ってことは、何かあったのか!?

「どうしたツナ。山本が、どーかしたのか?」
「オレ、病院に!!」

だっと駆け出した沢田に、リボーンも何かを察したのか、オレも行くと声をかける。
オレはと言えば……。

「……!!あ、あなたは?」
「送っていく」
「頼んだよ、アクーラ」
「……」

ドアに向かう沢田の前に立ち塞がった。
車を使った方が断然早い。
オレも、山本のことは気になるしな。

「え?うわっ!?」

呆然としている沢田の腰に手を回し、脇に抱える。
肩にはリボーンが乗り、オレはそのまま、真っ直ぐ窓へと歩いていく。
こっちの方が、エレベーターよりずっと早い。
窓を開け、窓枠にフックを付ける。
そしてそのまま、オレ達はホテルの最上階から、落下していった。

「ひっ!!まさか、……うわぁぁああ!?」

……普段からビュンビュン空飛んでるような奴が、この距離落ちていくのにこんな悲鳴をあげるものなのか。
沢田を抱えてない方の手で、上に引っ掛けておいたフックに繋がるワイヤーを操作し、徐々にスピードを緩める。
一般人に見られるとヤバいからな。
一応幻術で姿はくらましてる。
そしてものの数十秒で地上に降り立ったオレは、沢田を地面に下ろした。

「おい、ツナ。山本がやられたんだな?どこでだ」
「ぅあ……や、野球部の、部室だって……」

落下の衝撃と山本が病院に運ばれたことのショックで震えながらも、沢田はリボーンの質問になんとか答える。

「オレは先にそこへ向かう。容態は聞いたか……?」
「………………、獄寺君の声が……震えてた……」

あの爆弾小僧の声が震えるほど……。
相当の重体なのか?
車に向かいながら、拳を握り締めた。
くそ、シモンの仕業か!?
ならこれは、間違いなくオレの失態だ。
惑わされずに、あいつらを、殺していれば良かった……。

「乗れ」
「あ、はい」

二人を車に乗せ、発進させる。
学校と病院なら、沢田を途中まで送り、そのあとリボーンを学校まで送り届ければいいか。

「……おい、お前、スクアーロだな」
「……は?」
「……何なんだぁ、唐突に」

助手席に座ったリボーンから、唐突に話を切り出された。
沢田は目を丸くしている。

「それがどうしたぁ」
「やっぱりそうだったんだな。最近幾つかのファミリーや殺し屋を潰したのもお前か?」
「……そうだ」

ヘルメットを取る。
団子にして結んでいる銀髪が露になり、沢田が息を飲む音が後部座席から聞こえた。

「ガットネロは本当にボンゴレの人間だったんだな」
「ふん……」

その後の会話は続かない。
電話ではねっちょり聞くとか言ってたが、そんな場合じゃなくなっちまったな。

「……山本、どうしてこんな……」

沈黙に、堪えきれなくなったんだろう。
不安を一つ溢したら、次から次へと、不安が増えていく。

「山本まさか、死んだりなんか、しないよな……!?オレ、どうしたら……」
「……予測でモノを語ったところでどうにもなりゃしねーだろぉ。とにかくお前は病院に迎え。仲間達の傍にいろ」

本当は、シモンに気を付けろと言いたかったが、この様子では言わない方が良さそうだ。
病院の少し前で沢田を降ろし、オレとリボーンは学校へ向かう。

「良かったのか?山本のところに行かなくて」
「オレが行ったところで、何もできねえだろ。それより、少しでも犯人の手掛かりを掴む方が重要だぁ」

ハンドルを掴む手に力が入る。
リボーンが、更に会話を続けた。

「犯人に心当たりはねーのか?」
「……ある」
「誰だ?」
「シモンファミリー……恐らく、山本と同じ部活だった、水野薫」
「なんだと!?」
「継承式参加ファミリーの中で、一番可能性が高い……。古里炎真に接触したが、ギーグファミリーの件とも関わりがありそうだ」
「なんでそれを報告しなかった」
「9代目には報告したぜぇ。だが確たる証拠もなく、本当に奴らが独自の判断で行っているのかも判然としねぇ。継承式の時にもし、何かしでかすようならオレが殺すつもりだったが、……遅かったようだな」
「……病院には、シモンファミリーも来てるだろうな。ツナに話さないでおいたのは正解だぞ。アイツが真実を知って、隠し通せるとは思えねーしな」
「それもあるが、今の沢田にこの事を言えば、それこそ錯乱してどうなるかわかんねぇだろぉ」
「……確かにそうだな」
「シモンファミリーには一人ずつに監視をつけていたぁ。水野の犯行が確定したら、その時は、奴らを殺す」
「ああ……」

学校につき、野球部の部室へとリボーンが行く。
オレは混乱する教師に軽い幻術を掛けて、パニックを収めて回った。
野次馬には、教師のフリをして嘘の事情説明をし、情報操作を行う。
マスコミやら、他のマフィアへの対応は9代目に頼む。
オレだけだとそこまで手が回らねーからな。

「何か手掛かりはあったか?」
「……これを見ろ」
「ああ?」

リボーンが指差した先には、血で何かを塗り潰したような跡、そして……。

「でり、とと……?」
「なんだと思う?」
「でりとと……でり、とと……。でり……と。!!デリット、delittoだ!」
「デリット……罪だと?」

罪、やはり……シモンが?

「スクアーロ、水野につけてた監視はどこだ?」
「……それが、さっきから探しているんだが、姿がねぇ。呼んでも全く現れねぇんだ」
「……消された、か?」

監視の烏は、恐らく殺された……。
それは山本が襲われた、前と後、どちらだろう。

「カメラの映像は別の場所に残っている。オレはそっちを確認しに戻る」
「わかったぞ。オレは病院に向かう。敵の目的が罪なら、継承式を開かねーと敵も出てこねえ。ツナ達に全部話して決断させなきゃな」

野球部の部室に広がる血の海は幻術で覆い隠し、一先ずオレ達はその場で別れた。
後片付けは後程、ファミリーの人間が
車を飛ばしてアパートの部屋に戻る。
だが部屋の中でオレを待っていたのは、思いもかけない光景だった。

「なっ……!!」

烏……オレが監視用に放った烏達の死骸。
ぐちゃぐちゃに壊された機材の数々……。
監視カメラの映像が記録されている機械は、それを入れたスーツケースごと、粉々に壊されている。
そんなまさか……オレのことが完璧にバレている!?
衝撃に一瞬、脳ミソが固まった気がした。
だがハッと気付き、すぐにその部屋から飛び出した。
オレの居場所がバレたってことは、いつ敵が殺しに来てもおかしくねえ!!
むしろ部屋の中に潜んでる可能性だってあるんじゃないか!?
きっと、犯人はあの嫌な気配の持ち主だ。
昨日沢田の家にいなかったシモンの奴、……加藤ジュリーかSHITT・P。
だがSHITT・Pにあの嫌な感じはなかった……。
一番性格が掴めなかったのは、加藤ジュリー……あの男が!?

「クソッ!!」

とにかく、こちらの動きが把握されている状態で戦いたくはない。
今は退く!!
9代目のいるホテルならば、100%敵にはバレてんだろうが、そこまで逃げれば、継承式を成功させたい敵からすれば、襲うことは難しくなるはず……!!
車を使うわけにはいかねえ。
あんなん使ったら殺してくれっつってるようなもんだろ!
ブレーキ壊すとか、とにかくこう、色々と殺される可能性が高くなる!
走って逃げるその背後から、粘りつくような気配が迫る。

「ぐっ!?」

嫌な予感を感じ、横に避ける。
腕を何かが掠めた。
殺気がぶわりと辺りに広まる。
とにかく走って、走って走って、暗闇からの攻撃を避け続けて、9代目たちのいるホテルに辿り着いたのは、既に深夜だった。
スイートルームのドアを蹴破るようにして転がり込む。

「な、なんだっ!?」
「どうしたんだねアクーラ!?」

その声に答える余裕などない。
荒く息をしながら、傷を負った腕を押さえる。
敵がいないかどうか、炎をレーダーのように広げることで確認し、ようやくオレは体から力を抜いた。

「怪我をしているじゃないか!!一体何があったんじゃ!?」
「……敵にバレました。オレの居所も、監視していたことも。……殺され掛けた」
「なに!?」

もしかしたら、アクーラ=スペルビ・スクアーロだと言うことも、既にバレているかもしれねぇ。
迂闊に行動できなくなったな……。
しかも、敵は間違いなくオレよりもずっと格上。
いや、逃げ切れたのだし、戦闘力自体はそこまででもないのか?
でも、あれが本気の本気だったとも思えねぇ。
まるで、猫がネズミを弄ぶような感覚を受けた。
少なくとも、シモン相手に下手に攻撃に出ることはできねぇ。
ならば、明日。
万全の準備を整えた状態で迎え撃つ。
警備の体制を練り直すために、オレはボンゴレIX世に向き直った。
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