継承式編

「さむ……」

朝方、一度アパートの一室に戻り、部屋の隅にうずくまる。
継承式の間だけ借りた部屋。
家具も、何も置いてはいない。
コートの襟をかき寄せて丸くなり、仮眠を取る体勢になる。
継承式までは、あと2日……。
調べが終わっていないファミリーは、後一つ。
シモンと言ったか、そのファミリーは沢田綱吉達に協力的であるとの話だが。
良い顔をして近付いてくる奴ほど、胡散臭い。
9代目は友達になってほしいなんて言っていたけれど、自分としては信用ならない。
何よりも、ついさっき調べに行ったときに感じた、不気味な気配。
アレは一体……。
数時間前、シモンファミリーを調べに行った。
いつも通り、死角に潜んで、気配を殺し、聞き耳を立てる。
だが、すぐに嫌な気配を感じて、その場から抜け出した。
あの気配、殺気ではなかったが、じっとりと纏わりつくような粘着質な気配。
きっと、オレが潜んでいることを気付いていた。
明日、もう一度調べに行こう。
だがいつも以上に慎重に、いつも以上に警戒しなければ。
そして同時に、今日になって知らされた情報を思い出す。
あの、ギーグファミリーが、ボンゴレに敵対するものに負けたという情報。
何度も敵についての情報を教えろと言ったのにも関わらず、最後まで教えなかったギーグファミリー。
それだけ負ける気はなかったのだろうけれども、結果は惨敗。
敵についての情報を教えずに、死んじまっては元も子もねえ。
……敵の正体を突き止められないオレが、言えることではないが。
だが、シモンファミリーが何らかの形で、関わっているのは確かだろう。
中学生のガキばかりだし、ボンゴレに仇なす動機も、まだ見つかってはいないが……。
と、いうか、シモンについては情報があり得ないほど少なかった。
小さなファミリーだというのもあるのだろう。
だが少なくとも、初代の頃には浅からぬ付き合いのあったファミリーなのだ。
ボンゴレ内にもまったく情報がないのは、どう考えてもおかしい。
色々と調べてみなければならない。
……ファミリー構成員一人ひとりの経歴についても、探ってみるか。
これからのスケジュールを頭の中で組み立てながら、うとうとと眠りについた。

「……寒い」

イタリア語で呟かれた言葉が、真っ暗な部屋を漂った。
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