プロローグ:ゆりかご~マレ・ディアボラ編

作戦は簡単だ。
マーモンが幻術で隠れて電源室に向かう。
その間にオレとベルは空調ダクトから人質のいるホールに近づく。
そしてマーモンがホールの電源を切った隙にオレ達が襲撃する。
敵は6人。
防弾装備に自動小銃を構え、油断なく人質を見張っている。
だがまさか、外からの敵の攻撃が既に始まっているとは思いもよらないだろう。
冷静に動けば、何も問題はない。
ベルが隣でまだかまだかと待ちわびている気配がする。
オレ自身も、久々のヴァリアーとしての任務に血が滾る。
この制服を来て働くことが、仲間と肩を並べて歩けることが、嬉しくてたまらない。
殺すのが楽しいとは思わない。
だがそれでも、難敵を攻略するのは、胸が踊った。
まだか、マーモン……!
そう思った直後。
豪華なシャンデリアを始めとしたホールの明かりが、いっせいに消えた。
見張りの男達の間にも、動揺が走ったのが感じ取れる。
ベルに指で合図し、ワイヤーを使った仕掛けで扉を開かせる。
突然に動いた扉を、数多の銃弾が襲った。
狩りの、合図だ。

「ししっ」

銃声に紛れて、笑い声を1つ漏らしたベルが敵に向かっていく。
オレはその反対方向へ駆けていく。
銃声が一人分、二人分、少しずつ減っていく。
暗闇に慣れていない連中が、声で様子を確認している。
馬鹿が、そりゃあ殺してくれって言ってるようなもんだ。
居場所がバレバレだぜ。
まあ、声を出してようが出してなかろうが、オレ達暗殺者から身を隠そうなんて無駄以外の何物でもねぇんだがな。
即座に獲物の位置を確認したオレ達は、静かに、素早く、一人一人丁寧に命を刈り取っていく。
お互いに三人を片付けたところで、マーモンに合図し、照明をつけてもらった。

「6人全員倒したなぁ」
「そうみたい、なーんか思ってたよりぜんぜん呆気ないってカンジ?」
「外の奴らみたいに暗視装置をつけてなかったからなぁ」

あっという間に終わった敵の制圧に、ベルは物足りなさそうな顔をし、人質となっていたマフィア達は唖然としている。

「ゔお゙ぉい、よく聞けぇ!!この島を占領した雑魚どももまともに片付けられねぇ役立たずに代わって、てめぇらを助けたのは、ボンゴレ独立暗殺部隊ヴァリアー!そのリーダーのXANXUSだぁ!」
「何それ、宣伝?」
「ったりまえだぁ、宣伝もしねぇで帰って、ここを奪還した奴がわからねえなんて話になったら、それこそ元も子もねぇ。オレ達が助けたっつー証言が必要だろぉ?」
「しし、なぁーるほど」

驚きざわめき立つ一同に、満足げに笑う。

「いいかぁベル。オレは今から奥にいる残りのやつらを殺りに行く。てめぇはここに残ってこいつらを守ってろぉ。頼んだぞぉ!!」
「んー、りょーぉかぁーい」

ベルに背を向けて、早足に奥へと向かう。
その背後から不吉な言葉が聞こえてくる。

「ぜんぶ片付くまでのヒマつぶしに……、王子と目ン玉くりぬきゲームして遊ばない?」

そりゃあ、ゲームじゃなくて拷問だろぉ!
口から出かかったツッコミを飲み下し、更に速度を上げてその場を去った。
早く片して帰ってこよう。
そう固く心に決めて。


 ***


――ガガガガガガガッ!!!
「チッ!」

敵の気配を確認しながら、物陰を隠れて移動する。
そして廊下の柱の影から出ようとした瞬間。
自動小銃が火を吹き、目の前の柱の角を削り取っていった。
やはり既に迎撃体勢は整えていたか。

「腐ってもプロ、ってことかぁ?」

冷静になれ。
相手は飛び道具を使うが、力量的にはオレが上。
相手は何人だ?
確認しろ、見極めろ、考えろ、そして、動け!

「うお"おぉっ!!!っらあ"‼」

怒声と、剣から放った小型の爆薬で相手の動揺を誘う。
直後に隠れていた場所から飛び出し、兎に角走った。
脚を止めるな、頭も動かせ、敵から目を逸らすな。
縦横無尽に駆けて、敵の弾丸を躱し、怯んだ敵のその急所に向けて、渾身の突きを繰り出す。

「ゔるぁあ!!」

本来女であるオレに、男ほどの力はない。
オレはそれをスピードで補ってきた。
だから、スピードだけは誰にだって負けない、負けるわけにはいかない。
例え相手が、元軍人でも、自動小銃でも!

「ザンナ・ディ・スクアーロぉっ!!!」

オレの放った牙は、自動小銃を、敵の腕を、首を、胴体を、削り食らう。

「はっ!他愛ねぇ」

絶命した三人の男を見下ろし、眉をしかめる。
あと一人、いるはずだ。
恐らくそいつが持っている。
軍の開発した、強襲兵器、モスカの完璧な設計図を!

「ゔお゙ぉい!!いるんだろぉマーモン!残りの一人を追うぞぉ!!」

その声に反応して、廊下の暗がりの中からマーモンがその姿を現す。

「いつから、気が付いていたんだい?」
「秘密だぁ!!」
「ムム、まぁいいさ。これ以上血に狂った獣を刺激して、噛みつかれたくはないからね」

マーモンの言葉に眉をひそめる。
そんなに狂暴な顔をしていただろうか。

「ほら、早く行かないと逃げられちゃうよ」
「ん、あ"あ」

急かされて、またオレは走り出す。
因みにマーモンはフヨフヨと浮きながら着いてくる。
楽そうで羨ましい限りである。

「なぁ、オレも浮かせらんねえのかぁ?」
「……馬鹿なこと言ってる内に、もうついたよ。ほら君は後ろに回って」
「……了解」

最後の一人は、今まさに船に乗り込もうとしているところだった。
マーモンが幻術で気をそらしている間に、オレが背後から斬りつける。
前のめりに倒れた男の胸元に手を突っ込みまさぐれば、探し物は直ぐに見付かった。

「それが完全版モスカの開発レポート……」
「……設計図じゃねえのか?」
「同じようなものだけど……。君、時々天然だよね」
「天然だぁ?んなこたぁ初めて言われたぞぉ」
「いや、誰も言えないだけじゃ……、もう良いや」

マーモンが溜め息をつく。
よくわからねぇが、こいつが良いと言うんなら良いのだろう。

「とりあえずマーモン、お前は先にそれもってザンザスと合流してろぉ。そっちのが早いだろぉ」
「わかった」

マーモンが霧に包まれて消える。
オレは他の奴らと合流するため、迎賓館の中へと戻った。
ベルが下手なことをしてなけりゃあ良いが……。
ヴァリアー邸へと帰ったら、まだまだやることはたくさんある。
あのときのような、勢いで行動することはもうない。
作戦を練ろう。
裏の裏まで手を回そう。
出来る限りの武器を用意しよう。
ザンザスがそれを望むのならば。
一度解き放たれてしまったアイツを、オレはもう止める気はない。
ただ全力で、尽くすのみ。
静かなる闘志を秘め、血に飢えた鮫は王者の元へと帰りつく。
……なんて、格好いい話にはやっぱりならず。

「ゔお゙ぉいザンザス!!てめぇやりすぎだぁあ!!調べもしねぇでいきなり殺したらジジィどもへの心象が、わぶべほぉっ!!?」
「うししし、スクアーロの奴、ボスの投げた拳銃まともに顔面で受けなかった?」
「あ、でも起き上がったよ」
「丈夫よねースクちゃんも!」
「ふん、ボスを呼び捨てになどするからそんな目に合うのだ!!」
「あ、今度はモスカの破片飛んできた」
「ム、あれは痛そう……」

その場にいたほとんどの人間を殺しても暴れたりないのか、ザンザスはしばらくオレ相手に八つ当たりをし続けたという次第である。
流石に鋼鉄の破片を投げ付けられるのは痛かった……。
8/8ページ
スキ