継承式編
――……夢を、見ていたんだ。
夢の中で、僕は最強無敵の魔王様。
最強の赤ん坊、アルコバレーノだって、綱吉クンだって、それこそ赤子の手を捻るように簡単に倒せちゃう。
ユニだって、僕の思うがまま。
僕に手に入らないものはなんにもなかった。
楽しいゲームも、おいしいマシマロも、可愛い女の子も、なんだって言うことを聞いてくれる部下も、たくさんの武器も、人間も、世界だって、僕のモノ。
でも、全部ぜんぶを手に入れたとき、僕のナカミは空っぽになってしまった。
僕の手の中には、たくさんのモノがある。
でも、でも、僕が本当に欲しかったものは、……ない。
もう全部がどうでもよくなっちゃって、全部に絶望した僕は、何をするでもなく、ただずーっとうずくまり続けた。
空を見上げてたんだ。
空は大きくて、青くって、僕を飲み込んでしまうんじゃないかってくらいに、近かった。
こんなに近いのに、なんであの空は、僕を飲み込んではくれないんだろう?
空が僕を飲み込むのを、僕はずーっと待っていた。
一体、どれくらい経ったのかな。
一面空だけの僕の視界に、あの子が現れたのは、僕が空を待ち始めて、すぐだったような、ずっとあとだったような……。
あの子は僕の顔を覗き込んで、聞いた。
「何をしてるんですか?」
僕はそれに、空を待っているって答えた。
「空を?」
空が、僕を飲み込んでくれるのを、待ってるんだよって、答えたんだったかな。
その子は僕の隣に座って、空を見上げる。
「きれいな空ですね」
そうかな、どうかな。
あの空がきれいだなんて、この子は変わってるね。
そう思ったけど、僕はなんにも言わなかった。
その子は、空から目を逸らして、今度は遠い地平線を見た。
「空もきれいですけど、あの森も、あの海も、ほら、太陽も。きらきら輝いて、とってもきれいです」
興味ないよ。
僕は空から目を逸らさない。
待ってるんだ、あの空がもっと近くなるのを。
「白蘭、あなたの夢は、きれいですね。でも、私たち以外、誰もいません。ここは、少し寂しいです」
寂しい……。
僕には、よくわからないよ。
膝を抱える僕の手に、暖かい何かが触れた。
「一緒にお散歩しませんか?」
僕は初めて、その子の顔をじっと見た。
その子は……ユニは、僕の手を掴み、引っ張った。
されるがままに、僕は立ち上がり、歩き出した。
ユニは楽しそうな軽い足取りで土を踏みしめる。
「あ!あそこにリスがいますよ!!可愛いです」
引っ張られるままに、森を歩く。
木漏れ日の中を進んで、森の中の泉に着く。
澄んだ青緑の水。
ユニはその泉の水を掬い、微笑んだ。
「冷たくて、気持ち良いですよ」
ユニの手が、僕の手を泉に導く。
冷たい……。
泉の水が、僕の空っぽの体を、満たしていくようだった。
泉から、手を引き抜く。
冷えてしまった僕の手を、ユニが両手で包んでくれた。
ユニの手は、スゴく、スゴく、暖かくって。
「白蘭、みんな待っていますよ」
ユニが、僕に微笑みかけた。
木漏れ日が、顔にあたる。
空を見上げた。
空は大きくて、大きくて。
そして、ずっとずっと、遠くにあった。
太陽の光が眩しくて、目をぎゅっと閉じる。
次に開けたとき、僕の手を握っていたのはユニじゃなかった。
でも、僕を呼ぶその声が暖かくって、僕は安心して、もう一度、夢に落ちていった。
「こんにちは、白蘭」
「うん、こんにちは、ユニちゃん」
夢の中で、僕は最強無敵の魔王様。
最強の赤ん坊、アルコバレーノだって、綱吉クンだって、それこそ赤子の手を捻るように簡単に倒せちゃう。
ユニだって、僕の思うがまま。
僕に手に入らないものはなんにもなかった。
楽しいゲームも、おいしいマシマロも、可愛い女の子も、なんだって言うことを聞いてくれる部下も、たくさんの武器も、人間も、世界だって、僕のモノ。
でも、全部ぜんぶを手に入れたとき、僕のナカミは空っぽになってしまった。
僕の手の中には、たくさんのモノがある。
でも、でも、僕が本当に欲しかったものは、……ない。
もう全部がどうでもよくなっちゃって、全部に絶望した僕は、何をするでもなく、ただずーっとうずくまり続けた。
空を見上げてたんだ。
空は大きくて、青くって、僕を飲み込んでしまうんじゃないかってくらいに、近かった。
こんなに近いのに、なんであの空は、僕を飲み込んではくれないんだろう?
空が僕を飲み込むのを、僕はずーっと待っていた。
一体、どれくらい経ったのかな。
一面空だけの僕の視界に、あの子が現れたのは、僕が空を待ち始めて、すぐだったような、ずっとあとだったような……。
あの子は僕の顔を覗き込んで、聞いた。
「何をしてるんですか?」
僕はそれに、空を待っているって答えた。
「空を?」
空が、僕を飲み込んでくれるのを、待ってるんだよって、答えたんだったかな。
その子は僕の隣に座って、空を見上げる。
「きれいな空ですね」
そうかな、どうかな。
あの空がきれいだなんて、この子は変わってるね。
そう思ったけど、僕はなんにも言わなかった。
その子は、空から目を逸らして、今度は遠い地平線を見た。
「空もきれいですけど、あの森も、あの海も、ほら、太陽も。きらきら輝いて、とってもきれいです」
興味ないよ。
僕は空から目を逸らさない。
待ってるんだ、あの空がもっと近くなるのを。
「白蘭、あなたの夢は、きれいですね。でも、私たち以外、誰もいません。ここは、少し寂しいです」
寂しい……。
僕には、よくわからないよ。
膝を抱える僕の手に、暖かい何かが触れた。
「一緒にお散歩しませんか?」
僕は初めて、その子の顔をじっと見た。
その子は……ユニは、僕の手を掴み、引っ張った。
されるがままに、僕は立ち上がり、歩き出した。
ユニは楽しそうな軽い足取りで土を踏みしめる。
「あ!あそこにリスがいますよ!!可愛いです」
引っ張られるままに、森を歩く。
木漏れ日の中を進んで、森の中の泉に着く。
澄んだ青緑の水。
ユニはその泉の水を掬い、微笑んだ。
「冷たくて、気持ち良いですよ」
ユニの手が、僕の手を泉に導く。
冷たい……。
泉の水が、僕の空っぽの体を、満たしていくようだった。
泉から、手を引き抜く。
冷えてしまった僕の手を、ユニが両手で包んでくれた。
ユニの手は、スゴく、スゴく、暖かくって。
「白蘭、みんな待っていますよ」
ユニが、僕に微笑みかけた。
木漏れ日が、顔にあたる。
空を見上げた。
空は大きくて、大きくて。
そして、ずっとずっと、遠くにあった。
太陽の光が眩しくて、目をぎゅっと閉じる。
次に開けたとき、僕の手を握っていたのはユニじゃなかった。
でも、僕を呼ぶその声が暖かくって、僕は安心して、もう一度、夢に落ちていった。
「こんにちは、白蘭」
「うん、こんにちは、ユニちゃん」