プロローグ:ゆりかご~マレ・ディアボラ編

マレ・ディアボラ、その迎賓館の周辺。
見張りの男二人が倒れている真ん中に、オレたちは悠然と構えていた。

「残念だわー。もっと時間があったら、たーっぷり楽しめたのに」
「しししっ」

見張りを殺った二人は表情を変えることもなく、いつも通り楽しげに会話を交わす。
彼らが実際に戦うところは久々に見たが、その腕前は以前より格段にレベルアップしている。

「しかし……、元軍人だけあってすげぇ装備だな」
「うん、下手なマフィアじゃ歯も立たないだろうね」
「マーモン、残りの人数と配置を教えてくれ」
「現場でのナマ情報は別料金だよ」
「……後でザンザスに請求しろぉ」

こいつは全く、金にうるさいことを除けば本当に頼りになる同胞なのだが。
人の足元を見て金を要求してくるから、本当に質が悪い。
当のマーモンはオレの言葉に満足そうに頷くと、ローブの中から紙片を取りだし、思い切り鼻をかんでいた。
粘写、遠くのターゲットの情報を写しとる術だ。
……鼻水汚えとか、紙がトイレットペーパーみてえだとか、言っちゃダメなんだろうな。
そんなオレの生暖かい視線には気付かないマーモンは、ム、と声をあげる。

「聞いていたより人数がいるね」
「何人だぁ?」
「建物の外にいるのが八人、中には十人だね」
「十八人か……」

確かに情報よりも少し多い、が、まだ想定の範囲内だ。
作戦にはなんの影響もない。

「一人でも逃がしたりすると厄介だよ」
「そうだな。助かったぞマーモン。Grazie」
「ム、礼なら形で現してほしいね」

素直に礼くらい受け取ってくれりゃ良いのに。
苦笑ぎみに口角を上げ、しかしすぐに気持ちを切り替える。

「ベルはオレについてこい。ルッスーリアとレヴィは、外にいる見張りの奴らを全部片付けろ。逃げようとする奴の始末も頼むぞぉ。マーモン、事前に伝えていた通り、お前は館の電源室に向かえ」
「りょーぉかい」
「私に、お・ま・か・せ♪」
「与えられた仕事はこなすさ」

大人しく頷くベルとルッスーリア。
いつもこうなら言うことなしである。
マーモンもまた、いつも以上に冷静で落ち着いている。
これならば、何とかなるだろう。
だがいつも通り、オレの言うことを聞かない奴が一人いる。

「待て、何故、オレが外で見張りの後片付けなどしなければならん」

レヴィがオレを睨み付けてきているのがこの暗闇の中でもハッキリわかる。
だがそれも予測済み、8年もの間、ボンゴレという荒波を乗り越えてきたオレに死角などないのだ。

「レヴィ、お前の技は対多数に使う大技だ。中には人質が大勢いるからなぁ。一気に敵を殲滅できるお前の技より、小回りのきくオレやベルの方が向いている」
「た、確かにオレの技は多数に向けて使うものだが……」
「お前の力が最も引き出せる配置だとオレは思うぞぉ?」
「だが……!何故それをお前に指示されねばならないのだ!?よもやスクアーロ、貴様オレに手柄をとられまいとして……!」
「なに言ってやがる……、むしろオレは涙を飲んでその配置をてめえに譲ったんだぜぇ」
「な、何を言って……」
「お前の技なら、ここからでも、ボスに、よく見えんだろぉなぁ」
「!!」
「オレの活躍はボスに見てもらえることはねえだろうが……」

そこで、レヴィの胸板に軽く拳を当てる。

「ここは、頼んだぞぉ、レヴィ」
「当たり前だ!貴様に言われんでもオレはやり遂げる!!見ていてください、ボス……!」

うむ、これで一件落着である。
つってもザンザスの奴はオレ達の仕事になんて、きっと目もくれねぇだろうがな。
ニヤリと悪い笑みを浮かべていると、マーモンと目があった。

「……なかなかやるじゃないか」
「ったりめぇだぁ。これくらいできなきゃヴァリアーみてぇな個性的すぎる集団、まとめられねぇだろ」
「ああ、そこは確かに、納得だね」
「後はルッスーリアに任しときゃ問題ねぇ」

ルッスーリアのような、女性的な柔軟さを持ったやつなら、レヴィとも上手くやるだろう。
マーモンも納得したようにフムフムと頷く。
さて、時間もない、そろそろ行くか。

「行くぞお前らぁ!」

作戦第二段階の始まりだ。
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