10年後
あの後……、気を失ったオレは、ルッスと笹川の晴れの炎の治療を受けながら、急遽アジトへと運び込まれた。
頭を打っていたのが不味かったらしい。
目を覚ましてからもしばらくは、頭の揺れるような気持ち悪さが抜けなかった。
「暫くは安静ね」
ブスくれて毛布を被りふて寝するオレに、毒サソリが絶対安静を言い渡す。
「ただでさえボロボロなところに跳ね馬の飛び突きが効いたわね。あなた今回の戦いで一番の重症よ」
「……」
「いつまでふて腐れてるつもりなの?確かに周りの男達が五月蝿いことはわかるけど、ふて腐れたって何も変わらないじゃない」
「そりゃそうだけどよぉ……」
モゾモゾと座り直して、体育座りをする。
オレの意識が戻ったとき、まず始めに目に入ったのは跳ね馬の顔だった。
オレの目が覚めたことに安心したのか、手が滑ったのか、無いとは思うが殺す気だったのかは知らないが、奴はオレの首に抱きつき、のし掛かってきたのだ。
お陰で窒息しそうになるわ、吐きそうになるわでさんざんだった……。
一瞬、遠くに川的なものと地獄的なものが見えたんだが、寸でのところでロマーリオに助けられ、事なきを得る。
跳ね馬は、ビアンキにより病室出入り禁止令を受けた。
「とにかく、あなたは暫くは絶対安静よ。いい?仕事なんかしたらダメだからね」
「……」
「わかった?」
「……おう」
むっつりとしたまま頷いた。
目覚めた後に、書類仕事をしているところを見つかったせいで、オレには仕事禁止令が発令されたのだった。
その仕事を持ち込んできたヴァリアーも出入り禁止になり、ついでに言えばオレを馬鹿にしに来た六道骸も出入り禁止になっていた。
「私は少し外すわ。大人しくしてるのよ?」
「ガキじゃねーんだからそんなに言わねえでも……」
「言うことを聞かないんだから、ガキと同じよ」
そう言って出ていったビアンキと入れ替わりに、入り口からひょこりと山本が顔を出した。
「よっ!スクアーロ!元気か?」
「元気じゃねえ」
「元気そーだなー!」
「……元気じゃねえ」
話を聞かない山本が、ニコニコしながらベッドに近付いてくる。
渋々椅子を出してやり、座るようにすすめる。
「オレ達今日で帰るんだ。だから帰る前にスクアーロに挨拶しとこーと思ってさ!!」
「けっ!やっと帰んのかぁ。清々するぜえ!」
「えー?本当はオレがいなくて寂しいんじゃねーの?」
「ハッ!ありえねーなあ!!」
ベッドに胡座をかいて座り、近くに置いてある見舞いのフルーツの中からリンゴをとる。
皮を剥く……ことが出来なかったため、そのまま山本に手渡した。
オレの腕はもう、片方しかない。
リンゴの皮剥きすら出来ないとは、情けねぇな。
「お、サンキュー!!」
「それ食ったら帰れよ」
「んー」
山本が自分で切ったリンゴを、かじる音だけが病室に響く。
時折、オレの様子を窺うように見ているのがわかった。
「……言いたいことがあるなら、ちゃんと言え」
「へっ!?」
「チラチラと……さっきから煩わしい」
「アハハ~!やっぱ敵わねーな!」
最後の一口を口に放り込み、山本はモゴモゴと喋り始めた。
「ふくはーおは……」
「飲み込んでから話せ」
「んぐっ、スクアーロが女だってさ、あれ、本当の本当、なんだよな?」
「……本当だぁ」
あの戦いの後から、来るもの来るもの、全員がこの話だった。
「なんで、男のフリなんてしてたんだ?」
「……そりゃ、あー……、長くなるが、簡単に言うと家の都合だ」
「ふーん?」
もう何度も説明を繰り返してるせいで、説明がぞんざいになっているのは仕方がない。
山本はわかったんだかわかってないんだかどっち付かずの態度で頷いた。
「そっかー、だからかもな」
「何がだ?」
「スクアーロといるとさ、なんか凄い懐かしいような感じがして……。それってきっとスクアーロがお袋みてぇだったからだな!!」
「ぶふっ!?」
お、おおお、お袋っ!?
オレが、オレのどこがオフクロっ!?
吹き出して咳き込むオレの背中を、朗らかに笑いながら山本が擦る。
「大丈夫かー?」
「だ、大丈夫じゃねえ!!誰がお袋だとっ!?」
「スクアーロってさ、面倒見いいし、めんどくさいとか良いながら何だかんだでやさしーだろ?一緒にいると何か安心するしー……だからお袋みたいだなーってよ!」
「っざけんなぁ!!」
「おわっ!?」
拳を振り回して殴りかかるが、軽く避けられてしまう。
ケラケラと笑いやがって……こいつ本当ふざけてやがる!!
「怒んなってー!!」
「怒るに決まってんだろぉ!!だれがっ、誰が母親だ!誰が!!」
「落ち着けって!!絶対安静じゃねーのかよ!?」
「知るかぁ!!」
ごちんっとやっと拳が当たる。
いてーっ!と蹲った山本をさっさと追い出し、ようやく静かになった部屋で大きくため息をついた。
アイツらが戻った先にいる、10年前のオレは、きっと酷く苦労することになるのだろうな……。
マーレリングは封印されるし、世界も安定しはするのだろうけど……。
遠い遠い過去のオレ自身を思って、せめて過労で倒れてくれるなとだけ祈る。
「スクアーロー!!会いたかったぜーっ!!」
「うるせーぞアホ馬ぁ!!」
「なんだよー、オレ達信じあってるんだろー!?このままちょっと愛し合おうぜっ!!」
「くたばれっ!!」
とにかく今は、このバカをぶちのめすことだけ考えるっ!!
飛び掛かってくる跳ね馬を避けて、腹に肘鉄を決めながら、そう心に決めたのだった。
頭を打っていたのが不味かったらしい。
目を覚ましてからもしばらくは、頭の揺れるような気持ち悪さが抜けなかった。
「暫くは安静ね」
ブスくれて毛布を被りふて寝するオレに、毒サソリが絶対安静を言い渡す。
「ただでさえボロボロなところに跳ね馬の飛び突きが効いたわね。あなた今回の戦いで一番の重症よ」
「……」
「いつまでふて腐れてるつもりなの?確かに周りの男達が五月蝿いことはわかるけど、ふて腐れたって何も変わらないじゃない」
「そりゃそうだけどよぉ……」
モゾモゾと座り直して、体育座りをする。
オレの意識が戻ったとき、まず始めに目に入ったのは跳ね馬の顔だった。
オレの目が覚めたことに安心したのか、手が滑ったのか、無いとは思うが殺す気だったのかは知らないが、奴はオレの首に抱きつき、のし掛かってきたのだ。
お陰で窒息しそうになるわ、吐きそうになるわでさんざんだった……。
一瞬、遠くに川的なものと地獄的なものが見えたんだが、寸でのところでロマーリオに助けられ、事なきを得る。
跳ね馬は、ビアンキにより病室出入り禁止令を受けた。
「とにかく、あなたは暫くは絶対安静よ。いい?仕事なんかしたらダメだからね」
「……」
「わかった?」
「……おう」
むっつりとしたまま頷いた。
目覚めた後に、書類仕事をしているところを見つかったせいで、オレには仕事禁止令が発令されたのだった。
その仕事を持ち込んできたヴァリアーも出入り禁止になり、ついでに言えばオレを馬鹿にしに来た六道骸も出入り禁止になっていた。
「私は少し外すわ。大人しくしてるのよ?」
「ガキじゃねーんだからそんなに言わねえでも……」
「言うことを聞かないんだから、ガキと同じよ」
そう言って出ていったビアンキと入れ替わりに、入り口からひょこりと山本が顔を出した。
「よっ!スクアーロ!元気か?」
「元気じゃねえ」
「元気そーだなー!」
「……元気じゃねえ」
話を聞かない山本が、ニコニコしながらベッドに近付いてくる。
渋々椅子を出してやり、座るようにすすめる。
「オレ達今日で帰るんだ。だから帰る前にスクアーロに挨拶しとこーと思ってさ!!」
「けっ!やっと帰んのかぁ。清々するぜえ!」
「えー?本当はオレがいなくて寂しいんじゃねーの?」
「ハッ!ありえねーなあ!!」
ベッドに胡座をかいて座り、近くに置いてある見舞いのフルーツの中からリンゴをとる。
皮を剥く……ことが出来なかったため、そのまま山本に手渡した。
オレの腕はもう、片方しかない。
リンゴの皮剥きすら出来ないとは、情けねぇな。
「お、サンキュー!!」
「それ食ったら帰れよ」
「んー」
山本が自分で切ったリンゴを、かじる音だけが病室に響く。
時折、オレの様子を窺うように見ているのがわかった。
「……言いたいことがあるなら、ちゃんと言え」
「へっ!?」
「チラチラと……さっきから煩わしい」
「アハハ~!やっぱ敵わねーな!」
最後の一口を口に放り込み、山本はモゴモゴと喋り始めた。
「ふくはーおは……」
「飲み込んでから話せ」
「んぐっ、スクアーロが女だってさ、あれ、本当の本当、なんだよな?」
「……本当だぁ」
あの戦いの後から、来るもの来るもの、全員がこの話だった。
「なんで、男のフリなんてしてたんだ?」
「……そりゃ、あー……、長くなるが、簡単に言うと家の都合だ」
「ふーん?」
もう何度も説明を繰り返してるせいで、説明がぞんざいになっているのは仕方がない。
山本はわかったんだかわかってないんだかどっち付かずの態度で頷いた。
「そっかー、だからかもな」
「何がだ?」
「スクアーロといるとさ、なんか凄い懐かしいような感じがして……。それってきっとスクアーロがお袋みてぇだったからだな!!」
「ぶふっ!?」
お、おおお、お袋っ!?
オレが、オレのどこがオフクロっ!?
吹き出して咳き込むオレの背中を、朗らかに笑いながら山本が擦る。
「大丈夫かー?」
「だ、大丈夫じゃねえ!!誰がお袋だとっ!?」
「スクアーロってさ、面倒見いいし、めんどくさいとか良いながら何だかんだでやさしーだろ?一緒にいると何か安心するしー……だからお袋みたいだなーってよ!」
「っざけんなぁ!!」
「おわっ!?」
拳を振り回して殴りかかるが、軽く避けられてしまう。
ケラケラと笑いやがって……こいつ本当ふざけてやがる!!
「怒んなってー!!」
「怒るに決まってんだろぉ!!だれがっ、誰が母親だ!誰が!!」
「落ち着けって!!絶対安静じゃねーのかよ!?」
「知るかぁ!!」
ごちんっとやっと拳が当たる。
いてーっ!と蹲った山本をさっさと追い出し、ようやく静かになった部屋で大きくため息をついた。
アイツらが戻った先にいる、10年前のオレは、きっと酷く苦労することになるのだろうな……。
マーレリングは封印されるし、世界も安定しはするのだろうけど……。
遠い遠い過去のオレ自身を思って、せめて過労で倒れてくれるなとだけ祈る。
「スクアーロー!!会いたかったぜーっ!!」
「うるせーぞアホ馬ぁ!!」
「なんだよー、オレ達信じあってるんだろー!?このままちょっと愛し合おうぜっ!!」
「くたばれっ!!」
とにかく今は、このバカをぶちのめすことだけ考えるっ!!
飛び掛かってくる跳ね馬を避けて、腹に肘鉄を決めながら、そう心に決めたのだった。