10年後
「ねえちょっと……、何してくれてんのさ?やっと見つけたパズルのピースの、最後の1ピースが死んじゃったよ……。全ておじゃんじゃないか……」
ユニのマントに包まれ、アルコバレーノのおしゃぶりたちは、復活までの暫しの時を待っている。
そして、白蘭は、瞳孔を開き、完全に「イって」しまった状態で、フラりと踏み出した。
「トゥリニセッテを覚醒させ、時空を越えた覇者になる僕の夢は……、君たちのくだらないお友達ごっこのせいで散ったんだ……。この意味が……わかっているのか!!!」
オモチャを取り上げられた子供のように、怒りを隠すことなく怒鳴った白蘭に、沢田の炎の波動が当たる。
「ぬっ、ぐあっ!」
「誰が、ユニを殺したと思っているんだ。お前がこんな世界にしたから……ユニは、……死んだんだ!!」
沢田の目に涙が溜まる。
沢田の怒りに呼応するように、これまで以上の炎が燃え上がった。
なんて、優しい炎だろう。
それは全てを包むように暖かな橙色をしていて、そしてその炎は、怒りを以て白蘭へと向けられていた。
「オレはお前を許さない!!!白蘭!!!」
「んー?許さない?ほほーう、ぷくく!!ハハハ!ナンセンスだよ!!君という人間は何て茶番なんだ!!あの娘に装置としての強烈な意味を見出だすのならわかる!!なんせユニは、僕が全知全能フルオプション付きの神になるためのスーパーアイテムだったのだからね!!だがユニをあたかも一人の女の子として扱い尊び、ヒューマニズムで僕に楯突こうなんてのは一時のホルモン分泌に踊らされた陶酔だよ!人のつくる利己的な社会に生きる子供の答えとしては5重ペケさ!!」
怒りのままに、白蘭は結界を拳で叩き割る。
ユニが消えたせいで脆くなっていたのか。
それとも単純に白蘭が強いだけなのか。
結界は軽い音を立て、あっけなく割れた。
「ユニは死んだ。いなくなっちゃった。……でもこの世界は僕のものだ。君たちを殺して、僕が支配する。あっ、そーだ!ユニの代わりに『君』を、僕の隣においてあげるよ……!」
グリンッと振り向いた白蘭の姿が掻き消える。
はっとして、身構えようとした。
だが次の瞬間、オレの体は地面に引き倒され、固く踏みしめられた土に強かに頭を打ち付ける。
布で吊っていた左腕の上に、奴の足が乗せられていた。
「ね?スクアーロクン……いや、スクアーロちゃん、かなぁ?」
にんまりと唇を吊り上げて、歪に笑った白蘭は、オレの腕をグリグリと踏みつけた。
「ぐっ!ふ、うぅぅ……っ!!!」
「アハハハ!無理して耐えなくて良いんだよスクアーロちゃん?ここ、ザクロに折られたのかなー?痛いよね?叫んで良いんだよ?泣いたって良いんだよ?」
「白蘭っ、お前!!」
「そいつを離せ白蘭!!」
沢田と、跳ね馬が見える。
だが、攻撃を受けるより先に、目の前の景色が急転し、それと同時に左腕に激痛が走った。
「うぐっ!あ、ぅあっ!!」
「フフッ、よく耐えてるね。今君の左腕に全体重が乗ってるんだ……。骨は折れてるからね。もしかしたら千切れちゃうかな?」
足元に、赤と橙の閃光が走った気がした。
いや、どうだろう。
本当はどうなのか、よくわからない。
頭の中を花火が弾け、視界は暗転したり、白く染まったりを繰り返す。
「ねえ、スクアーロちゃん。僕、ずっと君と話がしたかったんだ。だって君は、全ての世界で、一人だけ浮いていたからねっ!」
「な、に……いって……」
「じゃあ1つだけ聞こっか?君っていったい……『誰なんだい』?」
最後の言葉を、精神に刷り込むように耳元で囁く。
「オレは、……スペルビ、」
「いいや、違うね。君に名前はない。名無しの誰かさん、『スペルビ・スクアーロ』というのは、君の死んだお兄さんの名前なんでしょう?」
「……え?」
ヴァリアーと、ディーノ以外の者たちが、全員驚愕の表情を浮かべる。
「すぐにおかしいなって思ったんだよ。他の世界のスペルビ・スクアーロは、大体が身長180㎝を越える男だったし、何て言うのかなぁ、もっと力押しのバカだったんだ」
白蘭がオレを掴んだ右手を高くあげたことで、オレの顔と、白蘭の顔が同じ位置になる。
「君は女の子だね」
「ちが……」
「違わないよ!書類上でこそ男になってたけど、僕だっていろんな手を使って確かめたんだよ?その結果、君は間違いなく女の子!しかも調べてみたら、本物のスペルビ・スクアーロは君が生まれる前に既に死んでいたなんて、驚いちゃったよ!!」
「どういうことだ!?」
「おい白蘭っ!適当なこと言ってんじゃねーぞ!!」
下で、ガキどもが騒いでる。
違う、違うんだ。
こいつの言ってることは……全部間違いなくほんとう……。
でも、なんでそれで、オレが、こいつのとなりに、おかれなければ、ならない……?
「女の子のスペルビ・スクアーロも、いたんだよ?でも、彼女達はちゃんと女の子として生きてたし、やっぱり君とは違かった。教えてあげるよ。全ての世界において、真6弔花を出し抜いたのは、君一人だけなんだ」
どうようが、なかまたちのあいだを、はしる。
だが、それがなんだというのか。
いみが、わからない……。
「意味わかんないって顔だね♪あのね君、これってスゴいことなんだよ。技の攻略法を教えた真6弔花のみんなに、君はただ一人、知力で優ったんだからね。他のスペルビ・スクアーロ達は負けちゃってたし、君一人だけ、なんだか他の世界とは違うから、興味がわいてきたんだ。だから特別、ユニの代わりに君を僕のオモチャにしてあげる♪」
「てめー白蘭!!」
「怒らないでよ、ディーノクン。それとも、君達ってもしかしてそういう関係だったのかい?」
でぃーの、ディーノのこえが、聞こえた。
「言っとくけど、オモチャには拒否権も何もないからね。まあXANXUSクンの横で永遠パシりやらされるよりはマシなんじゃない?」
「……カスザメ」
ザンザス、オレの主が、よんでいる……。
霞んで、飛びかけていた意識が、オレを呼ぶ声に揺り起こされて、戻ってきた。
目の前にある白蘭の顔を見る。
歪な笑みが、そこにはあった。
「おい、カスザメ」
首を捻って下を見る。
こちらを向いて、堂々と立っている男がいた。
「戻ってこい」
ああ、すぐに戻るさ。
オレはお前の犬だから。
でも少しだけ、少しだけ待ってくれ。
視線を横にずらし、ディーノを見る。
今にも飛び出してきそうな様子に、こんな状況にも関わらず、笑いそうになってしまった。
一瞬視線が絡まり、そして外れる。
「白蘭……悪いが、オレは、戻る」
「戻る場所なんてないくせに、何言ってんだい?みんなを騙して、勝手にスペルビ・スクアーロの位置に入り込んでた偽物に、居場所なんかあるわけない!」
「そんなことない!!」
「黙れ!!」
白蘭の瞳に、オレと、小さく沢田が映っている。
そうか、オレが邪魔で、攻撃できねーんだな。
でも、大丈夫。
すぐにいなくなるから。
目の前の白蘭が、首を傾げた。
「何が、おかしいんだい?」
気付かぬ内に、オレは笑みを浮かべていたらしい。
怒ったような白蘭の瞳の奥に、見覚えのある色を見た気がする。
「おかしくなんか、ねーよ。ただ……、お前の気持ちが、よくわかんだぁ」
「へー、……何がわかるっていうんだい?」
「……居心地が、悪いんだよ、な。ここにいては、いけないような気がして、少しでも居心地よくするために、もがいてみても、結局なにも、変わらねえ……。だったら全部壊してしまえ、ってよ、思うよな。こんなところ、望んでなかったって……」
「そう、君は、そんなこと考えてたんだね」
「オレだけ、じゃないだろう。お前は、オレだ。いや、……お前はオレだった。……白蘭、あのな」
オレは、そっと白蘭の頬を人差し指でなぞった。
酷く、穏やかな気分だ。
これからすることを考えると、普通なら足が竦むような気がするのに。
「お前にとってオレは異質でも、この世界のスペルビ・スクアーロは間違いなくオレなんだ。自分が自分であると、今のオレなら、ちゃんと言える。そう思わせてくれる仲間が、側にいる。だから、だから……ごめんな」
白蘭は、ポカンと口を開けて間抜け面を晒すばかりで、何もしてはこなかった。
オレは白蘭の頬から手を離し、そのまま、右手を横に引いた。
そして袖から出した幅の広いサバイバルナイフを、左腕の、骨折した箇所に向けて、突き立てた。
―― ぶ つ っ
嫌な音を立てて、オレの体は空中に解放された。
オレの左肘から先は、白蘭の手の中に、残した、まま、だった……。
ユニのマントに包まれ、アルコバレーノのおしゃぶりたちは、復活までの暫しの時を待っている。
そして、白蘭は、瞳孔を開き、完全に「イって」しまった状態で、フラりと踏み出した。
「トゥリニセッテを覚醒させ、時空を越えた覇者になる僕の夢は……、君たちのくだらないお友達ごっこのせいで散ったんだ……。この意味が……わかっているのか!!!」
オモチャを取り上げられた子供のように、怒りを隠すことなく怒鳴った白蘭に、沢田の炎の波動が当たる。
「ぬっ、ぐあっ!」
「誰が、ユニを殺したと思っているんだ。お前がこんな世界にしたから……ユニは、……死んだんだ!!」
沢田の目に涙が溜まる。
沢田の怒りに呼応するように、これまで以上の炎が燃え上がった。
なんて、優しい炎だろう。
それは全てを包むように暖かな橙色をしていて、そしてその炎は、怒りを以て白蘭へと向けられていた。
「オレはお前を許さない!!!白蘭!!!」
「んー?許さない?ほほーう、ぷくく!!ハハハ!ナンセンスだよ!!君という人間は何て茶番なんだ!!あの娘に装置としての強烈な意味を見出だすのならわかる!!なんせユニは、僕が全知全能フルオプション付きの神になるためのスーパーアイテムだったのだからね!!だがユニをあたかも一人の女の子として扱い尊び、ヒューマニズムで僕に楯突こうなんてのは一時のホルモン分泌に踊らされた陶酔だよ!人のつくる利己的な社会に生きる子供の答えとしては5重ペケさ!!」
怒りのままに、白蘭は結界を拳で叩き割る。
ユニが消えたせいで脆くなっていたのか。
それとも単純に白蘭が強いだけなのか。
結界は軽い音を立て、あっけなく割れた。
「ユニは死んだ。いなくなっちゃった。……でもこの世界は僕のものだ。君たちを殺して、僕が支配する。あっ、そーだ!ユニの代わりに『君』を、僕の隣においてあげるよ……!」
グリンッと振り向いた白蘭の姿が掻き消える。
はっとして、身構えようとした。
だが次の瞬間、オレの体は地面に引き倒され、固く踏みしめられた土に強かに頭を打ち付ける。
布で吊っていた左腕の上に、奴の足が乗せられていた。
「ね?スクアーロクン……いや、スクアーロちゃん、かなぁ?」
にんまりと唇を吊り上げて、歪に笑った白蘭は、オレの腕をグリグリと踏みつけた。
「ぐっ!ふ、うぅぅ……っ!!!」
「アハハハ!無理して耐えなくて良いんだよスクアーロちゃん?ここ、ザクロに折られたのかなー?痛いよね?叫んで良いんだよ?泣いたって良いんだよ?」
「白蘭っ、お前!!」
「そいつを離せ白蘭!!」
沢田と、跳ね馬が見える。
だが、攻撃を受けるより先に、目の前の景色が急転し、それと同時に左腕に激痛が走った。
「うぐっ!あ、ぅあっ!!」
「フフッ、よく耐えてるね。今君の左腕に全体重が乗ってるんだ……。骨は折れてるからね。もしかしたら千切れちゃうかな?」
足元に、赤と橙の閃光が走った気がした。
いや、どうだろう。
本当はどうなのか、よくわからない。
頭の中を花火が弾け、視界は暗転したり、白く染まったりを繰り返す。
「ねえ、スクアーロちゃん。僕、ずっと君と話がしたかったんだ。だって君は、全ての世界で、一人だけ浮いていたからねっ!」
「な、に……いって……」
「じゃあ1つだけ聞こっか?君っていったい……『誰なんだい』?」
最後の言葉を、精神に刷り込むように耳元で囁く。
「オレは、……スペルビ、」
「いいや、違うね。君に名前はない。名無しの誰かさん、『スペルビ・スクアーロ』というのは、君の死んだお兄さんの名前なんでしょう?」
「……え?」
ヴァリアーと、ディーノ以外の者たちが、全員驚愕の表情を浮かべる。
「すぐにおかしいなって思ったんだよ。他の世界のスペルビ・スクアーロは、大体が身長180㎝を越える男だったし、何て言うのかなぁ、もっと力押しのバカだったんだ」
白蘭がオレを掴んだ右手を高くあげたことで、オレの顔と、白蘭の顔が同じ位置になる。
「君は女の子だね」
「ちが……」
「違わないよ!書類上でこそ男になってたけど、僕だっていろんな手を使って確かめたんだよ?その結果、君は間違いなく女の子!しかも調べてみたら、本物のスペルビ・スクアーロは君が生まれる前に既に死んでいたなんて、驚いちゃったよ!!」
「どういうことだ!?」
「おい白蘭っ!適当なこと言ってんじゃねーぞ!!」
下で、ガキどもが騒いでる。
違う、違うんだ。
こいつの言ってることは……全部間違いなくほんとう……。
でも、なんでそれで、オレが、こいつのとなりに、おかれなければ、ならない……?
「女の子のスペルビ・スクアーロも、いたんだよ?でも、彼女達はちゃんと女の子として生きてたし、やっぱり君とは違かった。教えてあげるよ。全ての世界において、真6弔花を出し抜いたのは、君一人だけなんだ」
どうようが、なかまたちのあいだを、はしる。
だが、それがなんだというのか。
いみが、わからない……。
「意味わかんないって顔だね♪あのね君、これってスゴいことなんだよ。技の攻略法を教えた真6弔花のみんなに、君はただ一人、知力で優ったんだからね。他のスペルビ・スクアーロ達は負けちゃってたし、君一人だけ、なんだか他の世界とは違うから、興味がわいてきたんだ。だから特別、ユニの代わりに君を僕のオモチャにしてあげる♪」
「てめー白蘭!!」
「怒らないでよ、ディーノクン。それとも、君達ってもしかしてそういう関係だったのかい?」
でぃーの、ディーノのこえが、聞こえた。
「言っとくけど、オモチャには拒否権も何もないからね。まあXANXUSクンの横で永遠パシりやらされるよりはマシなんじゃない?」
「……カスザメ」
ザンザス、オレの主が、よんでいる……。
霞んで、飛びかけていた意識が、オレを呼ぶ声に揺り起こされて、戻ってきた。
目の前にある白蘭の顔を見る。
歪な笑みが、そこにはあった。
「おい、カスザメ」
首を捻って下を見る。
こちらを向いて、堂々と立っている男がいた。
「戻ってこい」
ああ、すぐに戻るさ。
オレはお前の犬だから。
でも少しだけ、少しだけ待ってくれ。
視線を横にずらし、ディーノを見る。
今にも飛び出してきそうな様子に、こんな状況にも関わらず、笑いそうになってしまった。
一瞬視線が絡まり、そして外れる。
「白蘭……悪いが、オレは、戻る」
「戻る場所なんてないくせに、何言ってんだい?みんなを騙して、勝手にスペルビ・スクアーロの位置に入り込んでた偽物に、居場所なんかあるわけない!」
「そんなことない!!」
「黙れ!!」
白蘭の瞳に、オレと、小さく沢田が映っている。
そうか、オレが邪魔で、攻撃できねーんだな。
でも、大丈夫。
すぐにいなくなるから。
目の前の白蘭が、首を傾げた。
「何が、おかしいんだい?」
気付かぬ内に、オレは笑みを浮かべていたらしい。
怒ったような白蘭の瞳の奥に、見覚えのある色を見た気がする。
「おかしくなんか、ねーよ。ただ……、お前の気持ちが、よくわかんだぁ」
「へー、……何がわかるっていうんだい?」
「……居心地が、悪いんだよ、な。ここにいては、いけないような気がして、少しでも居心地よくするために、もがいてみても、結局なにも、変わらねえ……。だったら全部壊してしまえ、ってよ、思うよな。こんなところ、望んでなかったって……」
「そう、君は、そんなこと考えてたんだね」
「オレだけ、じゃないだろう。お前は、オレだ。いや、……お前はオレだった。……白蘭、あのな」
オレは、そっと白蘭の頬を人差し指でなぞった。
酷く、穏やかな気分だ。
これからすることを考えると、普通なら足が竦むような気がするのに。
「お前にとってオレは異質でも、この世界のスペルビ・スクアーロは間違いなくオレなんだ。自分が自分であると、今のオレなら、ちゃんと言える。そう思わせてくれる仲間が、側にいる。だから、だから……ごめんな」
白蘭は、ポカンと口を開けて間抜け面を晒すばかりで、何もしてはこなかった。
オレは白蘭の頬から手を離し、そのまま、右手を横に引いた。
そして袖から出した幅の広いサバイバルナイフを、左腕の、骨折した箇所に向けて、突き立てた。
―― ぶ つ っ
嫌な音を立てて、オレの体は空中に解放された。
オレの左肘から先は、白蘭の手の中に、残した、まま、だった……。