10年後
「え?綱吉クンが僕を倒すと言ったのかい?」
こんな状況にも関わらず放たれた、リボーンの言葉。
白蘭は理解できないとでもいうように、瞳に嘲りの色を浮かべていた。
「そうだ」
「何を見てたの?リボーンクン。綱吉クンは今完全に壊したよ!」
「ツナの死ぬ気をなめんじゃねえ。第一、勝てるかどうかなんて言ってんじゃねーぞ。ツナ、お前は白蘭を倒さなきゃならねーんだ」
倒れ伏し、動かない沢田を見ても、リボーンは頑なだった。
こうして、今まで困難を乗り越えてきたのだろうか。
六道骸との戦いでも、オレたちヴァリアーとの戦いでも。
「ぷっ、アッハハハ!ビックリだな!!何を言い出すかと思えば、このご時世に『ねばならぬ』のド根性精神論かい!?」
「これがオレのやり方だ。いいかツナ、死ぬ気で戦ってんのはお前だけじゃねぇ。ユニも、お前たちを平和な過去に帰すために、命を捧げるつもりなんだぞ」
リボーンの口から、アルコバレーノ復活についての真実が語られ始める。
アルコバレーノ復活には、全身全霊をかけた『命の炎』を燃やす必要があること、『命の炎』を燃やすことには、死の危険が伴うことを。
「……ふーん、そんなバカげたこと、ますますやめさせなきゃね。ユニちゃんの命は、僕のためにあるんだもん」
ユニの命は自分のもの。
まるで、オモチャの所有権を主張する、子供のような物言いだった。
白蘭という男はーーこれはずっと思っていたことだがーー酷く幼稚な思考の持ち主らしい。
子供のような中身だからこそ、こんな残酷なことができる、人を人と思わない所業が行えるのかもしれない。
無邪気な悪。
どうしようもない、子供だった。
「さあ……、」
「げほっ!」
白蘭がユニにまた一歩近付いた時だった。
咳き込む声とともに、沢田綱吉が起き上がった。
だが、息が粗い。
体も、恐怖で震えていて、まるで戦えそうにはない。
気力だって使い果たしてしまって、このままでは、立ち上がることだってできないのではないか……?
「まずい……、ツナの死ぬ気モードがとけている……。とても戦える精神状態じゃない!!」
白蘭が震える沢田を見て嗤う。
「こんな恐ろしい状況で目覚めちゃうとはアンラッキーだったね。あ!でも綱吉クンの場合、中学生になってから不幸の連続か~。君のことはよく知ってるんだよ。君は、運動も勉強もダメで、不登校なただの中学生だったのに、ある日突然すご腕の殺し屋がやってきて、巨大マフィアのボス候補だと告げられ、恐ろしい裏社会に放り込まれてしまう。それからは命懸けだ。争い事なんて大嫌いなのに、抗争やらボスの座の争奪戦に巻き込まれちゃうんだからね」
物知りを自慢する子供のように、自分の持つ情報をひけらかすように、沢田の過去を得意気に語る。
沢田は、そんな白蘭から目を逸らすことなく話を聞いていた。
「そして、最大の不運は、この世界に来ちゃったことだよねー。こんなところに連れてこられなければ、こんなひどい目に遭わなかったって、自分の運命を呪っちゃうだろ?」
んね♪と、機嫌良くまとめた白蘭は、まるでその言葉に同意してほしいみたいで、全部わかっているのだと、言いたいみたいで。
きっと、白蘭はきっと……
「いいや……それは、少しちがう気がする……」
はっと、息を飲む音さえも聞こえてきそうなほど、痛い沈黙が場を覆う。
「そりゃ、確かに……、未来は、恐くて、痛くて……不安ばかりで、心から楽しい時間なんてほんのちょっとだったけど、……今なら、今なら少し……わかってきた気がするんだ。いいとか、悪いとかじゃない。……未来でのことは……、全部大事なオレの時間だって……」
沢田の言葉に、白蘭は苦笑とも言えるような笑みを浮かべて、言う。
「へー、君は変わった物事の捉え方をするねー。でもよーく考えてみてほしいな。殺されちゃったら、そんなの負け惜しみだよ♪」
くそ、やっぱり殺す気か!!
獄寺が攻撃するも、結界はびくともせず、白蘭の放った小さな龍のダーツが、沢田の左胸をえぐった。
沢田が倒れ、彼の名を呼ぶ声が幾つも響く。
「さあ、ユニちゃん。君の救世主はいなくなったよ」
「い、いってー!!」
再びユニに向かった白蘭を、また、声が振り向かせる。
沢田が起き上がり、ビリビリと己の服……矢の刺さった左胸の部分を裂く。
「このリングは!!……ランチアさん!!」
「首にまいたリングに助けられただって?」
リングには白龍の矢が深々と刺さっていて、あれが沢田の命を助けたのだと窺い知れた。
「やっぱり、そうなんだ……。オレは全部に支えられている……」
「?」
「この未来にきて、なくてよかったものなんて一つもないんだ。つらいことも、苦しいことも、楽しかったことも……。そしてみんながいたから、オレは、ここにいるんだ……。未来で手にいれた、技も、武器も、ただじっとしてたら完成しなかったし、みんながいなきゃ完成しなかった……。オレ、不運どころか……ついてるよ……」
沢田の目に、じょじょに、じょじょに、力が戻ってくる。
辛い修行も、ばか騒ぎした日々も、頭を悩ませた時も、誰かを守るために戦った瞬間も、全てが、力となって、今があるのだ。
普通、こんなでたらめで理不尽な目に遭って、そんなこと言えるか?
だからオレは、沢田をある意味で尊敬しているし、何より……怖いとも、思っているのだ。
「みんなと未来にいた時間は、オレの宝だ……。オレの炎は……お前が支配するこの時代だからこそ生まれた、みんなの炎だ!!むやみに人を傷つけたために倒されることを、後悔しろ!!」
沢田の額に、再び炎が灯る。
持ち直したか!
だが、また同じように戦うだけでは……。
「ハハハ!!いい気分のところ悪いけど、何の解決もしてないよ綱吉クン!!結局、僕と君の力の差は、君が倒された時から何も変わってない!!」
――どうだろうな――
白蘭の言葉に返したのは、沢田でも、ユニでも、ましてやここにいる誰でもなかった。
「おい、リングが!!」
山本の声に振り返り、あまりの驚きに開いた口が塞がらなくなった。
ボンゴレの守護者達の持つ、ボンゴレリングから現れたのは、オレの記憶に間違いがなければ、――初代、ボンゴレファミリー守護者……!!
――あの子、言ってることがボスと同じだ――
――血は争えないでござるな――
――究極に良い奴ではないか――
――残念です。ボンゴレに不要な軟弱な思考ですよ――
――興味ないな――
――……。てめえの好きにすりゃあいいさ。いつものようにな――
――そうだな……G――
頭の中に直接響くような声が七つ……。
そして最初に聞こえた声が、ボンゴレ10代目を呼ぶ。
――X世よ、お前の考えにオレも賛成だ――
「どこだ!?誰の声だ!?」
初めて聞く、慌てたような白蘭の声。
そして全てを理解し、その上で驚いているようなユニの眼差し。
――オレの真の後継者に力を貸してやりたいが、あいにくそれはできない。そのかわり――
沢田のリングの前に、沢田によく似た男と、ボンゴレの紋章が現れる。
そして、男はこう言った。
――枷を、はずしてやろう――
ボンゴレリングが強く、輝き出した。
こんな状況にも関わらず放たれた、リボーンの言葉。
白蘭は理解できないとでもいうように、瞳に嘲りの色を浮かべていた。
「そうだ」
「何を見てたの?リボーンクン。綱吉クンは今完全に壊したよ!」
「ツナの死ぬ気をなめんじゃねえ。第一、勝てるかどうかなんて言ってんじゃねーぞ。ツナ、お前は白蘭を倒さなきゃならねーんだ」
倒れ伏し、動かない沢田を見ても、リボーンは頑なだった。
こうして、今まで困難を乗り越えてきたのだろうか。
六道骸との戦いでも、オレたちヴァリアーとの戦いでも。
「ぷっ、アッハハハ!ビックリだな!!何を言い出すかと思えば、このご時世に『ねばならぬ』のド根性精神論かい!?」
「これがオレのやり方だ。いいかツナ、死ぬ気で戦ってんのはお前だけじゃねぇ。ユニも、お前たちを平和な過去に帰すために、命を捧げるつもりなんだぞ」
リボーンの口から、アルコバレーノ復活についての真実が語られ始める。
アルコバレーノ復活には、全身全霊をかけた『命の炎』を燃やす必要があること、『命の炎』を燃やすことには、死の危険が伴うことを。
「……ふーん、そんなバカげたこと、ますますやめさせなきゃね。ユニちゃんの命は、僕のためにあるんだもん」
ユニの命は自分のもの。
まるで、オモチャの所有権を主張する、子供のような物言いだった。
白蘭という男はーーこれはずっと思っていたことだがーー酷く幼稚な思考の持ち主らしい。
子供のような中身だからこそ、こんな残酷なことができる、人を人と思わない所業が行えるのかもしれない。
無邪気な悪。
どうしようもない、子供だった。
「さあ……、」
「げほっ!」
白蘭がユニにまた一歩近付いた時だった。
咳き込む声とともに、沢田綱吉が起き上がった。
だが、息が粗い。
体も、恐怖で震えていて、まるで戦えそうにはない。
気力だって使い果たしてしまって、このままでは、立ち上がることだってできないのではないか……?
「まずい……、ツナの死ぬ気モードがとけている……。とても戦える精神状態じゃない!!」
白蘭が震える沢田を見て嗤う。
「こんな恐ろしい状況で目覚めちゃうとはアンラッキーだったね。あ!でも綱吉クンの場合、中学生になってから不幸の連続か~。君のことはよく知ってるんだよ。君は、運動も勉強もダメで、不登校なただの中学生だったのに、ある日突然すご腕の殺し屋がやってきて、巨大マフィアのボス候補だと告げられ、恐ろしい裏社会に放り込まれてしまう。それからは命懸けだ。争い事なんて大嫌いなのに、抗争やらボスの座の争奪戦に巻き込まれちゃうんだからね」
物知りを自慢する子供のように、自分の持つ情報をひけらかすように、沢田の過去を得意気に語る。
沢田は、そんな白蘭から目を逸らすことなく話を聞いていた。
「そして、最大の不運は、この世界に来ちゃったことだよねー。こんなところに連れてこられなければ、こんなひどい目に遭わなかったって、自分の運命を呪っちゃうだろ?」
んね♪と、機嫌良くまとめた白蘭は、まるでその言葉に同意してほしいみたいで、全部わかっているのだと、言いたいみたいで。
きっと、白蘭はきっと……
「いいや……それは、少しちがう気がする……」
はっと、息を飲む音さえも聞こえてきそうなほど、痛い沈黙が場を覆う。
「そりゃ、確かに……、未来は、恐くて、痛くて……不安ばかりで、心から楽しい時間なんてほんのちょっとだったけど、……今なら、今なら少し……わかってきた気がするんだ。いいとか、悪いとかじゃない。……未来でのことは……、全部大事なオレの時間だって……」
沢田の言葉に、白蘭は苦笑とも言えるような笑みを浮かべて、言う。
「へー、君は変わった物事の捉え方をするねー。でもよーく考えてみてほしいな。殺されちゃったら、そんなの負け惜しみだよ♪」
くそ、やっぱり殺す気か!!
獄寺が攻撃するも、結界はびくともせず、白蘭の放った小さな龍のダーツが、沢田の左胸をえぐった。
沢田が倒れ、彼の名を呼ぶ声が幾つも響く。
「さあ、ユニちゃん。君の救世主はいなくなったよ」
「い、いってー!!」
再びユニに向かった白蘭を、また、声が振り向かせる。
沢田が起き上がり、ビリビリと己の服……矢の刺さった左胸の部分を裂く。
「このリングは!!……ランチアさん!!」
「首にまいたリングに助けられただって?」
リングには白龍の矢が深々と刺さっていて、あれが沢田の命を助けたのだと窺い知れた。
「やっぱり、そうなんだ……。オレは全部に支えられている……」
「?」
「この未来にきて、なくてよかったものなんて一つもないんだ。つらいことも、苦しいことも、楽しかったことも……。そしてみんながいたから、オレは、ここにいるんだ……。未来で手にいれた、技も、武器も、ただじっとしてたら完成しなかったし、みんながいなきゃ完成しなかった……。オレ、不運どころか……ついてるよ……」
沢田の目に、じょじょに、じょじょに、力が戻ってくる。
辛い修行も、ばか騒ぎした日々も、頭を悩ませた時も、誰かを守るために戦った瞬間も、全てが、力となって、今があるのだ。
普通、こんなでたらめで理不尽な目に遭って、そんなこと言えるか?
だからオレは、沢田をある意味で尊敬しているし、何より……怖いとも、思っているのだ。
「みんなと未来にいた時間は、オレの宝だ……。オレの炎は……お前が支配するこの時代だからこそ生まれた、みんなの炎だ!!むやみに人を傷つけたために倒されることを、後悔しろ!!」
沢田の額に、再び炎が灯る。
持ち直したか!
だが、また同じように戦うだけでは……。
「ハハハ!!いい気分のところ悪いけど、何の解決もしてないよ綱吉クン!!結局、僕と君の力の差は、君が倒された時から何も変わってない!!」
――どうだろうな――
白蘭の言葉に返したのは、沢田でも、ユニでも、ましてやここにいる誰でもなかった。
「おい、リングが!!」
山本の声に振り返り、あまりの驚きに開いた口が塞がらなくなった。
ボンゴレの守護者達の持つ、ボンゴレリングから現れたのは、オレの記憶に間違いがなければ、――初代、ボンゴレファミリー守護者……!!
――あの子、言ってることがボスと同じだ――
――血は争えないでござるな――
――究極に良い奴ではないか――
――残念です。ボンゴレに不要な軟弱な思考ですよ――
――興味ないな――
――……。てめえの好きにすりゃあいいさ。いつものようにな――
――そうだな……G――
頭の中に直接響くような声が七つ……。
そして最初に聞こえた声が、ボンゴレ10代目を呼ぶ。
――X世よ、お前の考えにオレも賛成だ――
「どこだ!?誰の声だ!?」
初めて聞く、慌てたような白蘭の声。
そして全てを理解し、その上で驚いているようなユニの眼差し。
――オレの真の後継者に力を貸してやりたいが、あいにくそれはできない。そのかわり――
沢田のリングの前に、沢田によく似た男と、ボンゴレの紋章が現れる。
そして、男はこう言った。
――枷を、はずしてやろう――
ボンゴレリングが強く、輝き出した。