10年後
草木を薙ぎ倒し、地面を削り、沢田と白蘭の戦いは激しくなる一方だった。
炎を出しつくし、ガス欠のオレ達に出来ることなどろくになく、ただ見守るだけのもどかしい時間が始まった。
白蘭曰く、GHOSTはパラレルワールドの彼自身。
GHOSTが……平行世界の白蘭が吸収した炎は、白蘭自身の物となっている。
アイツには、GHOSTが吸収したオレ達全員分の炎があるのだ。
対して沢田は、度重なる戦いで疲労も溜まっていることだろう。
それでも、白蘭を倒そうと必死に攻撃を繰り返す沢田を、固唾を飲んで見守る。
自分が戦いに加われないことが、もどかしく、悔しい。
どれだけ拳を握り締めたって、それを敵に当てる術がないなんて……。
そして、沢田の渾身の力を込めた必殺技も、白蘭のただの拍手で相殺されてしまった。
なんて、実力の差だ……。
「ハハハッ、ボンゴレ匣、破れたり~♪白拍手はどんな攻撃も絶対粉砕する無敵の防御技なんだ。どうだい綱吉クン?いまだかつてこれほど圧倒的な力の差を感じた戦いはないんじゃない?……怖いだろう」
白蘭の視線に射抜かれて、沢田の体が一瞬硬直したのが、外から見ている自分達にもわかった。
その隙をついて、ついに白蘭が攻撃に出る。
「マフィアのボスといってもまだ中学生なんだもん。別に恥じることはないよ」
「沢っ……!」
白蘭の拳が沢田の左腕を打つ。
思わず声が出る。
沢田は勢いに耐えきれずに、受け身もろくに取れないまま地面に激突した。
「ここでちびったっていい」
「がっ!?」
「死んだって、」
四つん這いになって起き上がった沢田の、背後に回り込んだ白蘭の腕が、その細い首に伸びる。
「いいんだよ♪」
ゴキリッ、と鈍い音がなる。
あのままだと首が折られるっ!
「ハハハ、綱吉クン!!なんて君は非力なんだろう。こんな細い首簡単に折れちゃうよ♪」
「ぐあっ!」
抵抗しようとしているようだが、あれでは力も入らない。
助けに行かなくては……!
駆け出そうとしたその時、巨大なプレッシャーを感じて、オレの足が止まった。
白蘭が、何故か白蘭がオレを見ていた。
ただの殺気で、こんなプレッシャーを?
いや、それよりも、何故、沢田との戦いの途中にも関わらず、こちらを見てくる……?
「もう少しらいい勝負になると思ったんだけど、つまんないなあ。リングから放たれる炎の大きさは、覚悟の大きさだよ。君の、みんなを過去に帰そうとする覚悟はこんなものかい?」
「ぐっ!」
沢田の炎が大きくなっていく。
そこで、オレは疑問を抱く。
白蘭の目的は、ユニの捕獲とトゥリニセッテの収集のはず。
ならばさっさと沢田を殺して、ボンゴレリングを回収し、ユニの元へ行った方が良いのではないのか?
何かを企んでいる……?
少しずつ、少しずつ強さを増す炎に、突如ピンと来た。
「待て沢田ぁ!!罠だ!炎を収めろぉ!!」
「遅いよ。ほら、きた♪」
二人のいる場所から、カアァーン、カアァーンと鐘の音が鳴り響く。
「何の音だ?」
「沢田と白蘭のリングが鳴り響いている!」
「炎の形状も変わった!!一体どうなってんだ!?」
そして一瞬の逡巡の後に、跳ね馬が1つの答えにたどり着いた。
「……リングが、共鳴してるのか?」
遠くから、小さく同じ鐘の音が聞こえた気がした。
その音の正体を掴む間もなく、二人が発する炎がドーム状になり、木々を薙ぎ倒しながらオレ達の方へと迫ってきていた。
「全員下がれ!!炎に巻き込まれるぞ!!」
近くにいた跳ね馬や、ザンザスの服を引っ掴んで、力一杯引きずって炎のカゴから遠ざける。
持っていた小刀で攻撃をしても、弾き返されるばかりで、炎の広がりを止めることはできなかった。
「み、見ろっ!!向こうから同じ炎の玉が!!」
「なに!?」
「!!」
「炎の玉の中にいるのって!!ユニ!!?」
空を見上げると、小さな炎で出来た球体が近付いてきている。
その中に、外に出ようと壁を叩くユニを見付けた。
あの遠くの鐘の音はユニだったのか!!
「自ら白蘭に接近するとは、あの娘何を考えとるんだ!!」
「ちげぇぞぉ!恐らくユニの意思に関係なく引っ張られてるんだぁ!!」
「ボンゴレリングに、マーレリングに、アルコバレーノのおしゃぶり……。トゥリニセッテのそれぞれの大空が集結しようとしている。リングへの波動の過負荷により、引力が発生しているのか?」
六道骸が冷静に分析しているが、そんな場合じゃねえ!!
跳ね馬の掛け声で、ザンザス、獄寺、山本が一斉に攻撃し、大空の炎の結界からユニを出そうとする。
「ダメだ!!歯が立たねぇ!!」
そうして悪戦苦闘しているうちに、ユニがついに白蘭の前に、他2つの大空の結界と合流してしまう。
くそっ!これが白蘭の目的だったのか!!
誰にも邪魔をされない、ユニと二人っきりの舞台!!
しかも、あの結界ができた時点で沢田は用済み……、あとは殺されるのを待つだけってことなんじゃないか!?
「ようこそユニちゃん♪」
「ユニ……!来ちゃ……ダメだ……」
「沢田さん!!」
結界の中の声は、不思議と外までよく通って聞こえるし、よく見える。
オレの予想通りに、白蘭が綱吉を殺そうと力を込めるその様子も、はっきりと見ることができた。
「やめて!!」
「んー?今更やめてなんて、どの口が言ってるのかな?自分を守らせるために、ボンゴレの連中に命をかけさせたのは、ユニちゃんじゃないか。相手は絶対に勝ち目のない僕だと、最初からわかっていたはずだよ?何のあてもなく逃げまくって、やみくもに犠牲者を増やすだけの逃走劇を仕組んどいて、自分勝手にもほどがあるよ♪」
ユニだって、自分勝手についてを自身の願望で世界を破壊してきた白蘭に言われたくはないだろう。
少し冷静に心の内でつっこみながら、ユニを結界から出すための策を練る。
つったって!どうすればいいのか考えもつかねぇ!!
ザンザスの炎でもびくともしねぇ、この結界をどうやって壊すか。
一度に全員の攻撃を纏めて一ヶ所に当てられでもすればあるいは、とも思うが……。
「結局は自分のために多くの人間が動く姿を見てみたかった。そんな興味本位から逃げてみようなんて考えたんじゃないのかい?アルコバレーノのお姫様」
ユニがそんな人間でないことは、パラレルワールドで何度も見てきたアイツが、一番よくわかっているはずなのに、なんて意地の悪い質問をするのか。
そして、ふと白蘭が何かに気づいた様子で声色を変える。
「何だい今のは?何かをマントの内側に隠しているね」
「ダメです……、まだダメ……!」
まだ?一体どういう意味なのだ?
白蘭の言うように、確かにマントの内側で何かが蠢いている。
そしてそれらが、ユニの腕から零れ落ちるようにして、地面に落ちた。
「あれは、アルコバレーノのおしゃぶり!!」
「いやっ!」
「あれは!!」
「おしゃぶりの表面から何か飛び出している!!」
そう、確かに、おしゃぶりの表面から何か……布だったり、眼鏡だったりプラスチックだったり、髪の毛だったりが飛び出していた。
それに対して、ユニを追って漸く駆けつけたリボーンが見解を述べる。
「アルコバレーノの肉体の再構成がはじまろーとしてんな」
「再構成!?」
「わかりやすく言えば、復活(リ・ボーン)だ」
「復活!?」
「まさか、最強の赤ん坊達が生き返るのか!!」
そうか、それで、復活までの時間を稼ぐために、ユニは逃げていたんだな!!
アルコバレーノが復活すれば巨大な戦力になる。
だが復活までにはまだ時間が……!
「でもその様子じゃ、アルコバレーノが復活するのには、へたすりゃあと1時間はかかりそうだね」
「!!」
「図星だね」
「がっ!」
白蘭が微笑むと同時に、腕に力を入れて、沢田の首を捻る。
どさりと沢田の体が崩れ落ちた。
額の炎が消える。
くそ……ここからじゃ死んでるかどうかもわからねぇ!!
「この頑丈な結界の中にはもう誰も来やしないよ。これで君は僕のもの♪」
「……!!」
「泣いても叫んでも無駄だよ。もうアルコバレーノも僕を倒してはくれない」
「その通りだ」
ユニを追い詰める白蘭の動きを止めたのは、こんな状況でもまだ冷静なリボーンの言葉だった。
「お前を倒すのはアルコバレーノじゃねぇ。オレの生徒――、ツナだ」
倒れた沢田は、動かないままである。
炎を出しつくし、ガス欠のオレ達に出来ることなどろくになく、ただ見守るだけのもどかしい時間が始まった。
白蘭曰く、GHOSTはパラレルワールドの彼自身。
GHOSTが……平行世界の白蘭が吸収した炎は、白蘭自身の物となっている。
アイツには、GHOSTが吸収したオレ達全員分の炎があるのだ。
対して沢田は、度重なる戦いで疲労も溜まっていることだろう。
それでも、白蘭を倒そうと必死に攻撃を繰り返す沢田を、固唾を飲んで見守る。
自分が戦いに加われないことが、もどかしく、悔しい。
どれだけ拳を握り締めたって、それを敵に当てる術がないなんて……。
そして、沢田の渾身の力を込めた必殺技も、白蘭のただの拍手で相殺されてしまった。
なんて、実力の差だ……。
「ハハハッ、ボンゴレ匣、破れたり~♪白拍手はどんな攻撃も絶対粉砕する無敵の防御技なんだ。どうだい綱吉クン?いまだかつてこれほど圧倒的な力の差を感じた戦いはないんじゃない?……怖いだろう」
白蘭の視線に射抜かれて、沢田の体が一瞬硬直したのが、外から見ている自分達にもわかった。
その隙をついて、ついに白蘭が攻撃に出る。
「マフィアのボスといってもまだ中学生なんだもん。別に恥じることはないよ」
「沢っ……!」
白蘭の拳が沢田の左腕を打つ。
思わず声が出る。
沢田は勢いに耐えきれずに、受け身もろくに取れないまま地面に激突した。
「ここでちびったっていい」
「がっ!?」
「死んだって、」
四つん這いになって起き上がった沢田の、背後に回り込んだ白蘭の腕が、その細い首に伸びる。
「いいんだよ♪」
ゴキリッ、と鈍い音がなる。
あのままだと首が折られるっ!
「ハハハ、綱吉クン!!なんて君は非力なんだろう。こんな細い首簡単に折れちゃうよ♪」
「ぐあっ!」
抵抗しようとしているようだが、あれでは力も入らない。
助けに行かなくては……!
駆け出そうとしたその時、巨大なプレッシャーを感じて、オレの足が止まった。
白蘭が、何故か白蘭がオレを見ていた。
ただの殺気で、こんなプレッシャーを?
いや、それよりも、何故、沢田との戦いの途中にも関わらず、こちらを見てくる……?
「もう少しらいい勝負になると思ったんだけど、つまんないなあ。リングから放たれる炎の大きさは、覚悟の大きさだよ。君の、みんなを過去に帰そうとする覚悟はこんなものかい?」
「ぐっ!」
沢田の炎が大きくなっていく。
そこで、オレは疑問を抱く。
白蘭の目的は、ユニの捕獲とトゥリニセッテの収集のはず。
ならばさっさと沢田を殺して、ボンゴレリングを回収し、ユニの元へ行った方が良いのではないのか?
何かを企んでいる……?
少しずつ、少しずつ強さを増す炎に、突如ピンと来た。
「待て沢田ぁ!!罠だ!炎を収めろぉ!!」
「遅いよ。ほら、きた♪」
二人のいる場所から、カアァーン、カアァーンと鐘の音が鳴り響く。
「何の音だ?」
「沢田と白蘭のリングが鳴り響いている!」
「炎の形状も変わった!!一体どうなってんだ!?」
そして一瞬の逡巡の後に、跳ね馬が1つの答えにたどり着いた。
「……リングが、共鳴してるのか?」
遠くから、小さく同じ鐘の音が聞こえた気がした。
その音の正体を掴む間もなく、二人が発する炎がドーム状になり、木々を薙ぎ倒しながらオレ達の方へと迫ってきていた。
「全員下がれ!!炎に巻き込まれるぞ!!」
近くにいた跳ね馬や、ザンザスの服を引っ掴んで、力一杯引きずって炎のカゴから遠ざける。
持っていた小刀で攻撃をしても、弾き返されるばかりで、炎の広がりを止めることはできなかった。
「み、見ろっ!!向こうから同じ炎の玉が!!」
「なに!?」
「!!」
「炎の玉の中にいるのって!!ユニ!!?」
空を見上げると、小さな炎で出来た球体が近付いてきている。
その中に、外に出ようと壁を叩くユニを見付けた。
あの遠くの鐘の音はユニだったのか!!
「自ら白蘭に接近するとは、あの娘何を考えとるんだ!!」
「ちげぇぞぉ!恐らくユニの意思に関係なく引っ張られてるんだぁ!!」
「ボンゴレリングに、マーレリングに、アルコバレーノのおしゃぶり……。トゥリニセッテのそれぞれの大空が集結しようとしている。リングへの波動の過負荷により、引力が発生しているのか?」
六道骸が冷静に分析しているが、そんな場合じゃねえ!!
跳ね馬の掛け声で、ザンザス、獄寺、山本が一斉に攻撃し、大空の炎の結界からユニを出そうとする。
「ダメだ!!歯が立たねぇ!!」
そうして悪戦苦闘しているうちに、ユニがついに白蘭の前に、他2つの大空の結界と合流してしまう。
くそっ!これが白蘭の目的だったのか!!
誰にも邪魔をされない、ユニと二人っきりの舞台!!
しかも、あの結界ができた時点で沢田は用済み……、あとは殺されるのを待つだけってことなんじゃないか!?
「ようこそユニちゃん♪」
「ユニ……!来ちゃ……ダメだ……」
「沢田さん!!」
結界の中の声は、不思議と外までよく通って聞こえるし、よく見える。
オレの予想通りに、白蘭が綱吉を殺そうと力を込めるその様子も、はっきりと見ることができた。
「やめて!!」
「んー?今更やめてなんて、どの口が言ってるのかな?自分を守らせるために、ボンゴレの連中に命をかけさせたのは、ユニちゃんじゃないか。相手は絶対に勝ち目のない僕だと、最初からわかっていたはずだよ?何のあてもなく逃げまくって、やみくもに犠牲者を増やすだけの逃走劇を仕組んどいて、自分勝手にもほどがあるよ♪」
ユニだって、自分勝手についてを自身の願望で世界を破壊してきた白蘭に言われたくはないだろう。
少し冷静に心の内でつっこみながら、ユニを結界から出すための策を練る。
つったって!どうすればいいのか考えもつかねぇ!!
ザンザスの炎でもびくともしねぇ、この結界をどうやって壊すか。
一度に全員の攻撃を纏めて一ヶ所に当てられでもすればあるいは、とも思うが……。
「結局は自分のために多くの人間が動く姿を見てみたかった。そんな興味本位から逃げてみようなんて考えたんじゃないのかい?アルコバレーノのお姫様」
ユニがそんな人間でないことは、パラレルワールドで何度も見てきたアイツが、一番よくわかっているはずなのに、なんて意地の悪い質問をするのか。
そして、ふと白蘭が何かに気づいた様子で声色を変える。
「何だい今のは?何かをマントの内側に隠しているね」
「ダメです……、まだダメ……!」
まだ?一体どういう意味なのだ?
白蘭の言うように、確かにマントの内側で何かが蠢いている。
そしてそれらが、ユニの腕から零れ落ちるようにして、地面に落ちた。
「あれは、アルコバレーノのおしゃぶり!!」
「いやっ!」
「あれは!!」
「おしゃぶりの表面から何か飛び出している!!」
そう、確かに、おしゃぶりの表面から何か……布だったり、眼鏡だったりプラスチックだったり、髪の毛だったりが飛び出していた。
それに対して、ユニを追って漸く駆けつけたリボーンが見解を述べる。
「アルコバレーノの肉体の再構成がはじまろーとしてんな」
「再構成!?」
「わかりやすく言えば、復活(リ・ボーン)だ」
「復活!?」
「まさか、最強の赤ん坊達が生き返るのか!!」
そうか、それで、復活までの時間を稼ぐために、ユニは逃げていたんだな!!
アルコバレーノが復活すれば巨大な戦力になる。
だが復活までにはまだ時間が……!
「でもその様子じゃ、アルコバレーノが復活するのには、へたすりゃあと1時間はかかりそうだね」
「!!」
「図星だね」
「がっ!」
白蘭が微笑むと同時に、腕に力を入れて、沢田の首を捻る。
どさりと沢田の体が崩れ落ちた。
額の炎が消える。
くそ……ここからじゃ死んでるかどうかもわからねぇ!!
「この頑丈な結界の中にはもう誰も来やしないよ。これで君は僕のもの♪」
「……!!」
「泣いても叫んでも無駄だよ。もうアルコバレーノも僕を倒してはくれない」
「その通りだ」
ユニを追い詰める白蘭の動きを止めたのは、こんな状況でもまだ冷静なリボーンの言葉だった。
「お前を倒すのはアルコバレーノじゃねぇ。オレの生徒――、ツナだ」
倒れた沢田は、動かないままである。