プロローグ:ゆりかご~マレ・ディアボラ編

――人工島、マレ・ディアボラ
その迎賓館近くの海を、一隻のボートが疾走する。
灯りを1つもつけずに進むボートの中には、ヴァリアーの幹部5人が各々違った面持ちで座っていた。

「ゔお゙ぉい、マーモン、目眩ましと探知に問題はねえかぁ?」
「大丈夫、問題はないよ。君はただ真っ直ぐ進んでいれば良い」
「そぉか」

マーモンの術は完璧だ。
少なくともこの島を占拠している連中に、これを見破れる者はいないだろう。

「さっすがねぇ、マモちゃんの術は。このまま白いベールに包まれて、島まで一直線ってとこかしら」

ボートを包む一面の霧がオレたちを覆い隠している。
その霧に見とれ、感動した様子を見せたルッスーリアにベルフェゴールがポツリと呟く。

「いーや、そうカンタンにはいかねんじゃね?なーんかイヤな予感すんだよね、王子的に」

その不安にオレ自身も心の中で同意する。
必ず上手くいく任務などない。
99%成功する確率があっても、失敗する確率は確かに1%あるのだ。

「安心しろぉ、上手くはいかずとも、作戦は1つじゃねぇ。必ず成功させるぞぉ」

作戦が1つ失敗したとしても、それを補うことができるよう、様々な可能性を考慮し、策を用意している。
必ず上手くいくなんてことはないだろうが、必ず成功はさせる。
背後の仲間に不敵な笑みを向けると、クスクスと笑い声が漏れ聞こえてきた。

「ししっ、オレは敵が殺せりゃそれで良いし」
「……殺すのは構わねぇが、人質に怪我させんなよぉ?」
「えー」
「文句言うなぁ!!」

舌打ちしたい衝動を何とか抑え込み、ボートのハンドルを握り直す。
……本当に成功させられるのか、オレは。
固いはずの決意が、僅かに揺らぐ。
敵の殲滅は出来そうだが、人質の命が心配になってきた。
漸く見えてきた岸にボートを横付けし、またも、揉め始めた面々から目を逸らす。
少しの間だけ、明日の朝食のメニューを考えて現実逃避をする。
明日はチャイでも用意してみるかな。
そんなオレ達を横に、予定通りに放たれたレヴィの雷が、島の迎賓館を不気味に照らし、オレ達にその館の重たい影を落としていた。
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