10年後

暴風鷹が戻ってきた。
匣に収めて、先を急ぐ。
暴風鷹に着けていた機械から、大体の状況は把握できた。
思った以上に状況は不味いようだ。

「スクアーロ、オレ先に行ってるのな!!」
「ああ、気を付けろよぉ」

オレは跳ね馬に肩を貸していたし、怪我人以外で一番早いのは山本だ。
一刻も早く駆けつけた方がいいと判断し、先に行かせる。

「オレ達も急ごう!」

脚を必死に前へと出し、オレ達も先を急ぐ。
向かう先からは、怒号や悲鳴が聞こえて来ている。
傷に響かないように、しかし急いで駆けつけた先、木々の開けた小さな広場のようなところには、多くの敵味方が入り乱れていた。
先に到着していた山本は、既に抜刀して獄寺や笹川を庇っている。

「話には聞いてたが、この炎の吸収……、想像以上だぜ……。みるみる疲労してく」
「それでもなんとか、あの巨人を止めねーとな!!」
「跳ね馬にスクアーロ!!」

跳ね馬から手を離し、ざっと戦場を見渡す。
GHOSTとかいう奴……、見境なく炎を吸収してやがるのか。
自分のリングから勝手に流れる炎を見て顔をしかめる。
そして顔を上げた時、オレよりも早く到着していたらしいザンザスと目があった。

「おせーぞ、カスが!!」
「すまねーなぁ」

イラついたその様子に、苦笑を浮かべて返す。
ああ、こんな風にどやされるのも久々だと、少し嬉しくも感じる。
オレに向かってくるGHOSTの触手の幾つかを躱して、後ろにいた草壁とロマーリオに指示を出した。

「ゔお゙ぉい!お前らまだ動けるなぁ!?今なら真6弔花が弱ってる。とにかくまずはあいつらを捕縛するぞぉ!」
「はい!」
「おう!」

何とか動いていると言った様子の真6弔花、ザクロとブルーベル、桔梗をワイヤーで捕まえて、GHOSTから遠ざけるように引っ張る。
修羅開匣のせいで、炎が空っぽになった真6弔花達を、無理に追いかけようという気はないのか。
GHOSTの触手は必要以上に追い縋ってくることはなかった。

「てめーあん時の!!」
「だ、誰よあんた!?」
「スペルビ・スクアーロ……何故?」

彼らの問いに答えている暇はない。
コイツらには大量の部下がいるそうだから、それについて後で聞かなければならないというそれだけの理由である。
生きて捕まってもらわねば、オレ達が困るのだ。

「GHOSTの電撃が激しくなっている!!」
「ユニのもとへ飛ぶ気だぁ!オレたちじゃ対抗手段がねぇ……。沢田はまだかぁ!?」

奴はここに突然現れたという。
恐らくだが、瞬間移動の能力があるのだ。
またそれを使われたらまずい!!
だが、GHOSTが動く前に、風を切る音が聞こえ、オレ達は空を見上げた。
上空から沢田が飛び込んできている。
間に合ったか!
沢田は空を飛んだまま、独特の構えをとる。

「あの構えは、敵の炎を奪い取る!」
「死ぬ気の零地点突破改!!」
「沢田殿も炎を吸収する気だ!!」

凄まじい炎の押収。
だがしかし、GHOSTが悲鳴をあげた直後、沢田の手の中にその体を吸い込まれて消滅した。

「吸ったー」
「GHOSTって炎の塊かよ」
「さすが……10代目!!」
「沢田……」
「すげっ!」

皆が口々に沢田を誉めるが、何人かは気付いたようだ。
何かがおかしいことに……。

「極限によくやったぞ沢田!!」
「くるな」
「なぬ!?」

誉めながら沢田の元へと駆け寄ろうとした笹川を、沢田自身が鋭く制する。
オレも近くにいた山本の前に手を出し、動きを制していた。

「おかしい……」

オレの口からも疑問が声になって出た。
沢田の零地点突破改は、相手の炎を自分のエネルギーに変える力だ。
相当量のエネルギーを吸収したはずなのに、沢田の様子に変化はない。
一体、どういうことなんだ?
全員が疑問を抱き、場に戸惑いが広がる。
だが、疑問を解決する間もなく、奴の声が、オレ達の中に割り入ってきた。

「いやあ、すごいすごい!!GHOSTを倒しちゃうなんてさ♪」

白蘭!
声を追い上空に目を向けると、そこには白蘭が立っていた。
疑問は解けず、沢田以外の殆どの者たちは満身創痍のまま、ついに全ての出来事の黒幕が現れたのである。
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