10年後

ーーわが輩の名は暴風鷹……母国語ではファルコ・ウラガーノと言う。
わが輩の主様は、スペルビ・スクアーロと言う。
女だてらに、マフィアとして前線に立って活躍するすごい人なのだ。
同僚である霧烏は、主様のことを男装の麗人などと呼んでいた。
意味はよくわからぬが、つまり主様はカッコいいということなのだろう。
さて、わが輩は今、ナミモリチョウと言う町の空を翔んでいる。
主様に頼まれたのだ。
『先に戦場の様子を見てきてくれ。もし、仲間がピンチだったら、助けてやってくれ』と。
主様に頼まれたのだから仕方がない。
わが輩は高貴な鷹なのだから、下賤な者共を助けてやるのは不本意なのだが、親愛なる主様の命令ならば、喜んで従う!
……むぅ?
ようやく戦場についたと思ったら、何やら様子がおかしいではないか。
先についていた……ひ、ひ、……ヒヨコ?とか言う肉食獣のような男や、主様が慕う主……ええい、ややこしい!あのザンザスとか言う男のいる近くに、何だか得体の知れない巨人が立っているぞ?

「GHOST……」

風に乗って聞こえてきた言葉。
きっとそれがあの巨人の名前なのだろう。
GHOST……?変な名だ。
奴からは、何だかとってもいやぁーな感じがする……。
首の辺りがゾワゾワするような感じ、酷く危険な、恐ろしい気配を感じる。
なんて恐ろしい奴だろう!
アイツを放っておいたら、何だかとってもまずそうな気がする。
もしも主様に何かあったら……。
ああ、わが輩がどうにかしなくては!!
そう言えば主様に何か不思議なものを託されていた!!
確かこの小さな水晶……に雨の炎を注入したモノ!
『いざって時に敵の周りに落として、このスイッチを押すんだ』と言っていたな!
よし、では早速撒くぞ!!
わが輩は地を生きる獣とは違って前足がないから、取り出すのに多少手間取ったが、胴に巻き付けた袋から何とかバラバラと水晶を出すことに成功した。
よし、あとはスイッチを押せば……!

―― カチッ

嘴でスイッチを押すと、次の瞬間、水晶を蒔いた辺りを中心に、青い炎が渦巻き、お椀のように広がった。
あのGHOSTと言う巨人以外の者達が、その炎にぶつかって遠くの方へ吹っ飛ばされていくではないか。
さすが主様の作った物だ。
しかし、確かこれはばりあーとかいう代物で、敵の攻撃を妨害するものだったんじゃ……?

ふとわが輩は主様の『いいか、これは何個もばらまいたらダメだからな。一度に1つだけだ』という言葉を思い出す。
そ、そう言えば、そんなことも言われていたかも……。

「ぎゃっ!何この炎!?」
「あー!これスクアーロのだよ!ほらアレ、スクアーロの匣兵器!!」

む?あ、あれはまさか、自分で自分をオージとか言ってる主様の後輩のバカ!!

「スクちゃんすぐに来るってことかしら~?助かるわぁ!!」
「ガットネロが……?また遅いご登場ですね」
「師匠ー、うちの隊長バカにしないでくださいよー。あの人いないだけで仕事の6割止まるんですからー」
「……ヴァリアーはそれで大丈夫なんですか?」

……何だか、今とってもあのトゲトゲ頭の男を襲わなければならないような気がしたぞ。
本能が命じるのだ!!
あの男を殺せと!!

「クフっ!?なんですかこのアホ鳥は!!」
「鳥まで怒らせるとかー、師匠どれだけ歪んだ性格してるんですかー」

トゲトゲ男を襲った後は、手招きをするオカマのもとに翔んでいった。
アイツはわが輩にも丁寧に接するいい奴なのだ。

「あらまあ、スクちゃん特製の雨の結界ね。一気に発動させちゃったから真6弔花も纏めて吹っ飛ばされちゃったみたいねぇ。でもお陰で助かったわぁ」
「しし、あの触手みてーなの、なんかヤバそうだったし、何より、炎が吸収されてるしな」

た、確かに、何だか体の力がどんどん抜けていくぞ……。
わが輩はオカマの腕に水晶の入ったカバンを渡し、そのまま主様のもとへ戻るべく飛び立った。
GHOSTから触手のようなものが飛んでくるが、わが輩のスピードには追い付けず華麗に躱して空高くまで舞い上がった。
うむ、主様はもう近くまで来ているようだな!
わが輩は主様の元へと滑るように翔んでいったのだった。
29/39ページ
スキ