10年後

「じゃあ私は帰るわね。戦闘は出来ないし、ここにいても邪魔になるだけでしょうから」

そう言って、綱吉達を森へと誘導した彼女は、どこかへと去っていった。
皆が引き留め、その身の安全を心配していたが、彼女もヴァリアーの一員だ。
戦闘能力はないようだが、その分敵を撒く方法には長けているのだろう。

「明日の朝、真6弔花や白蘭達と戦うことになるんだね……」
「不安ですか?沢田さん」
「そりゃもちろん不安だよ!……でも、平和な過去に戻るためにも、絶対勝つんだ」

綱吉の目に灯る、強い覚悟に、ユニは優しく微笑んで言った。

「やっぱり、沢田さんは優しい方ですね」
「……あの、それでも、オレと白蘭って似てる、の?」

ユニの様子を横目で窺いながら、綱吉はそう聞いた。
『ある意味では沢田さんと白蘭も似ていますけど』という、ユニの言葉を受けてのものであることは言うまでもない。
不安そうな様子の綱吉に、ユニはもう一度微笑んだ。

「あなた達はとてもよく似た力を持っていると、私は思います。その力を発揮する方向は、全く違いますが……」
「そうなんだ……」
「それと……、あの時はああ言いましたが、白蘭に最も似ているのは私でも、沢田さんでもありません」
「え?」

他に白蘭に似ている恐ろしい人がいるのか、と綱吉の顔が驚きと恐怖で歪む。
ユニは今度は微笑むことなく、俯きながら、その名を口にした。

「スペルビ・スクアーロさんです」
「えーっ!スクアーロ!?」
「はい、あの人は白蘭にとてもよく似ている。力ではなく、その中身がです」
「中身……性格がってこと?全然違うような気がするけど……」

今度は困惑顔になった綱吉に、思わずと言った様子でユニが笑った。
コロコロと表情の変わる綱吉は、見ていて飽きない。
不満そうに頬を膨らませた綱吉に一言謝り、ユニはどこが似ているのかを説明した。

「性格もそうです。これと決めたことは曲げないところも、本音を人に中々見せないところも。ですが何より似ているのは、その魂の在り方だと思います……」
「魂?」
「はい。……似ている、と言うか、……ある意味では正反対とも言えるのですが。白蘭は全ての世界に根を張っている。ですが反対に、スクアーロさんは、全ての世界から『浮いている』……」
「……よくわからないけど、それって似てるの?」
「どちらも非常に危ういんです。白蘭は根を張ってはいても、その深さは非常に浅い。剥がれた途端に飛んでいってしまいそうな不安定さがある……。スクアーロさんは、今にもどこかへと飛んでいってしまいそうで……」

膝の上で手を組み合わせ、悲しげに瞳を伏せて語るユニを、心配そうに綱吉が見つめる。

「誰かが、掴んでいてあげなければならないんです。二人とも、その見ていて怖くなるくらいの不安定さが、とてもよく似ている。私に……どうにか出来るのなら、良いのですけれど……」
「なら、それならきっと、大丈夫だよ!」
「え?」

大丈夫、そう綱吉は言った。
決してその場限りの方便ではなく、確信に満ちた瞳をしていた。

「スクアーロはヴァリアーの人たちがちゃんと掴んでくれてる。山本も……ディーノさんもいる!白蘭だって、真6弔花がいるし何より……ユニはこんなに二人のことを心配しているんだから!!」
「沢田さん……。はい!そうですね!!
きっと……大丈夫」

綱吉の言葉に、笑顔を取り戻したユニが、自身に言い聞かせるように大丈夫と繰り返す。

「それにしても……」

人の魂の問題を「それにしても」で済ませた綱吉少年は、きゅるきゅると切ない音を出す腹を押さえて、呟いた。

「お腹、減ったなぁ……」

森の夜は、深々と更けていった。
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