10年後

「へぁっぷしっ!!いってぇ!!」
「大丈夫?とりあえず応急処置はできたわ」
「十分だぁ。助かったぜぇ」

崩れかけたアジトから診察室を見つけ、そこから救急箱や道具を取って比較的無事な部屋を見つけた彼らは、そこでスクアーロの腕の手当てをしていた。
部屋について座った途端に、スクアーロがワイルドに左腕の隊服を破り手当てを始めようとしたせいで、彼らに戦慄が走ったりもしたわけだが、そこは余談であろう。

「それで、沢田達は無事逃げ切れたんだなぁ?」
「ええ、川平という不動産屋に匿ってもらっているわ」
「……その場所が割れるのも時間の問題かもなぁ。白蘭がどのようにしてパラレルワールドのことを知るのかはわからねーが、その能力でユニを追ってくるに違いねえ」

吊っていて使えない左腕を、忌々しげに睨み付けながらそう言ったスクアーロは、横で作業をするジャンニーニに問いかけた。

「ゔお゙ぉい、システムは復旧できそうかぁ!?」
「なんとか出来そうですが、……今日明日では無理そうですねー」
「ちっ、そうかぁ」

スパナは地下のラボにモスカを作りに行ってしまったし、山本は水や食料の確保に行かせた。
無線を使ってユニ達の居場所や状況を知れたら良いのだが、手持ちの機器では傍受される可能性があり厄介だ……。
日も暮れてきたし、今日はアジトで過ごすことになりそうだった。

「どっちにしろ、私達が行っても戦うことはできないし……、あなたもガス欠で戦闘力にはならないでしょう。山本は一人で戻る気はないようだし、せめてあなたが回復するまでは、ここでじっとしているしかないわね」
「その様だな……、っ!!」

ビアンキに諌められた、その時だった。
唐突にスクアーロが立ち上がり、右手にナイフを構えた。

「どうしたの!?」
「誰かがアジトに入った……」
「ええっ!?」

スクアーロの言葉を受け、ビアンキも自身の持つリングに炎を灯す。
戦えないジャンニーニは、その巨体に似合わぬ素早さで瓦礫の影に身を隠す。
一気に空気が張り詰めた。
だが、ピリピリとした空気に割って入ってきたのは、敵ではなかった。

「おい!誰かいるか……」
「てめぇかよ跳ね馬ぁあ!!」
「うぎゃっ!!」

入口からひょこりと顔を出したディーノの顔に、次の瞬間にはスクアーロのブーツがめり込んでいた。
どしゃっと倒れたディーノを踏みつけにして、ヒバリが入ってくる。
続けてロマーリオ、草壁も現れ、その後ろからは食料探索に行っていた山本も顔を出した。

「大丈夫かボス?」
「ぐっ、なんとか……!」
「スクアーロ、言うの忘れてたけどヒバリたち、あのデイジーってやつに勝ったんだって!!」
「なんで忘れてたんだ……」

そう言えば、草壁が人間サイズの何かが入ったずた袋を持っている。
ヒバリはキョロキョロと辺りを見回していたかと思うと、積み上げられた瓦礫の山の上に胡座をかいた。

「うぅ……ヒデーな恭弥。わざわざ踏むことねーだろ」
「僕の前に転がってたのが悪いんだよ」
「スクアーロは責めねーのかボス?」
「いつものことだし……」

それでいいのかという視線がディーノに向けられたが、それには気付かず、ディーノは起き上がる。

「毒サソリ、オレと恭弥、怪我してんだ。治療をしたいんだが、道具ないか?」
「あるわ、今さっきもスクアーロの手当てをしたところだし」
「スクアーロ怪我したのかっ!?」
「……ただの骨折だぁ」

驚いて叫んだディーノに、これ以上ないほど嫌そうな顔をして答えたスクアーロは、とにかく今は二人の手当てだと言い、二人を揃えて座らせた。

「どこだ」
「オレは腹で……、恭弥は顔を思いっきり殴られてたな」
「そうか」

ヒバリはビアンキが、ディーノはロマーリオが治療するらしい。
ヒバリの傷は大したことないようだったが、ディーノの傷を見て、スクアーロが顔をしかめた。

「腹が抉れてるな」
「ああ、デイジーの修羅開匣にやられてな……」
「修羅、開匣……?」
「ああ、実は真6弔花の胸には、それぞれ匣が埋められていてな」

ロマーリオから、修羅開匣とやらの説明を受ける。
その説明を聞くには、修羅開匣というのは、人間の体と他の動物の体を掛け合わせることで能力を掛け算し、肉体そのものを兵器に変える能力のことなのたそうだ。
力も、常の数倍に跳ね上がる。

「……異種交配のようだなぁ」
「異種交配?」

修羅開匣について聞いたスクアーロが、ポツリと呟いた。
それにディーノが疑問符を返す。

「例えばライオンとトラが交配……つまり子供を作った場合、ライガーっつうライオンとトラ、どちらもの特徴を持つ子供が生まれる。その子供は成体になると、どちらの親よりも大きく強い体になるんだぁ。他にもラバなんかが有名だが……、基本的に雑種は強いと言われている」
「スクアーロよく知ってるのな!」
「てめー山本……今の話理解できたのか?」
「全然わかんねーけど、つまり修羅開匣ってすげー強くなるってことだろ?」

間違ってはいないが大雑把すぎる。
そう言いたそうな顔をしながらも、それだけわかっていれば良いかと無理矢理納得し、スクアーロは頷いた。

「デイジーは蜥蜴だったそうだが、もしとんでもなく凶悪な動物と掛け合わされたら、それこそ手がつけられなくなるぜぇ」
「なるほどな」

全員の目がずた袋に向けられる。
全員の気持ちが一致しただろう。
ずばり、「こいつ、どうしよう。」である。

「とにかく、沢田達にそれは伝えたんだな?」
「ああ」
「ならオレ達は回復に努める。日も暮れたし今日はもう動かない方がいいだろうな。明日、日の出と共にここを出るぞ」
「ああ、ツナ達は真6弔花の襲撃を受けたが、何とか追い払って今は並盛郊外の森にいるって話だぜ」
「森か、悪くねぇ」

トントン拍子に話が決まっていく。
そしてビアンキとジャンニーニ、スパナが残ることが決まったその時、ぐぎゅるるるぅ~……と、間抜けな音が話を遮った。
全員の視線が音の出所へと集まる。
照れたように笑った山本が、腹をさすりながら言った。

「あ、ははは~……、お腹減っちゃったのなー」
「もうこんな時間か……そろそろ飯にしようぜ!!」
「そうだな、腹が減ってちゃあ、ろくに考え事も出来ねーだろうし」
「じゃあ準備しましょう」

ビアンキが先頭に立って、遅めの夕飯の支度を始める。
並盛の夜は、ゆっくりと更けていった。
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