10年後

「スクアーロ……大丈夫かな」
「大丈夫よ、彼は強いわ」
「そうですよ!!いつのまにか、アジトに色々と仕掛けていたようですし」
「うちも、アイツなら大丈夫だと思う」
「そっか、そうだよな!」

住宅街の道を、目立つ一団が通り抜けて行く。
外国人に、剥き出しの竹刀を持った快活そうな少年、そしてひーひーと辛そうに走る小太りの男。
彼らとすれ違う人々は、その組み合わせや、ただならぬ雰囲気を気にしながらも、決して目は合わせない。

「しかし、アジトは大丈夫なのでしょうか。スパナさん、もしかしたらアジトはもう…………、スパナさん?」

小太りの男が立ち止まる。
それに気付いて、少年と外国人の美女も立ち止まった。

「どうしたのなジャンニーニ?あれ、スパナは?」
「こんなときにどこに行ったの?」
「そ、それが気付いたら横から消えていて……」

彼らの言う通り、先程までいた金髪の青年が姿を消していた。
3人は辺りをキョロキョロと見回して、彼を探す。

「スパナーどこなのなー!?」
「スパナさーん!どこですかー!?」
「なぁ獄寺のアネキ、スパナもしかして、迷子じゃ……あれ?」

後ろを振り返った竹刀の少年が首を傾げる。

「あれ?」
「ビアンキさんはどこですか?」

今度は美女が消えたいた。
残った二人の間に緊張感が走る。

「まさか、攻撃されてんのか!?ジャンニーニ、オレの後ろに……ジャンニーニ!?」

一瞬目を離した隙に、小太りの男まで、消えてしまう。
焦りでパニックに陥った少年の背後から、影が迫り、そして……。

「むぐっ!?」

黒い手袋をはめた手が少年の口を塞ぎ、ずるりと路地裏に引きずり込んだ。


 * * *


「むぅー!んぐぐぅぐー!!」
「静かにしろ山本ぉ」
「む!むぅあーお!?」

恐らく、「スクアーロ!?」と叫んだのだろう山本に、やはり口を塞いでいて良かったと溜め息をつく。
落ち着いたところで、絶対に騒がないようにと言い含めて、解放した。

「ぷはっ!なんでこんなことするのなスクアーロ?」
「今さっきザクロがアジトから出たところだぁ。下手に騒ぐと見つかるかもしれねーからな」
「フツーに話し掛けてくれればいいんじゃねーの?」

普通に話し掛けたら、それはそれで驚いて叫びそうな気もするけどな。
思ったが、口には出さずにおいた。

「他のやつらは?」
「大丈夫、ちゃんといるわ」
「いきなり引きずり込まれたから、驚いた」
「もう少し心臓に優しくしてほしかったです」

わざわざ迎えに来てやったというのに、コイツら文句しか言えねーのか……!
とにかくここにじっとしているわけにもいかない。
全員そのまま無言で立ち上がり、静かに移動し始めた。

「スクアーロ、なんでオレたちが来てるってわかったのな?」
「……てめーと沢田の服の襟に発信器をつけておいたんだぁ」
「いつの間につけたのな?」
「お前らが着替え終わって部屋から出てきたときだぁ」

質問ばかりだな、こいつは。
後ろから着いてくる山本をチラリと振り返り、早足で歩きながら、スクアーロはヒソヒソと言葉を返す。
一番わかりづらいアジトの入り口に近付いたところで、中に偵察用の匣兵器を入れる。

「今のは?」
「霧烏……コルヴォ・ディ・ネッビア。霧属性のカラスだぁ。罠にはまってうまく検討違いの方向に行ってくれたみてぇだが、万が一逆に罠を仕掛けられてたら困るからなぁ。こいつに偵察させる」
「そっかー。あともう一個いいか?」
「なんだぁ」
「スクアーロ、左腕どうしたんだ?」

急に真面目な顔になったかと思えば、そう聞かれた。
隠していたつもりだったのだが、気付かれていたのか。
そう言えば山本武という男は、昔から間抜けそうに見えて、案外観察眼に優れた奴だった。

「折られた。気にするなぁ」
「折られたって……!気にするに決まってるのな!!」
「見せてみなさい」
「っ!」

ビアンキに腕を取られ、その衝撃でまた痛みが走る。
隊服の袖を捲り上げられ、患部が露になった。

「な……!」
「これは……、酷いわね」

少しおかしな方向に捻れ曲がった、前腕中間の辺りが、黒く腫れ上がっていた。
血こそ出ていないが、相当グロテスクな様相を見せる傷口を隠すように、スクアーロは無理矢理袖を下ろす。

「アジトに入ったら手当てする。お゙ら、行くぞ」

タイミングよく帰ってきた霧烏を匣に戻し、アジト内に入った。

「山本、うちには見えなかったんだが、ひどい傷だったのか?」
「ねじれてたぜ……腕」
「早く行きましょう。手当てしなくちゃ」

ビアンキが険しい表情を浮かべて、アジトの中に入っていく背中を見詰める。
彼女の言葉に頷き、山本もまたスクアーロを追って崩壊しかけているアジトの中へと入った。
そうしてアジト内に戻った一行は、内部の荒れ具合に再び言葉を失ったのだった。
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