10年後

「あのね、スクアーロさん!さっきのこと、ありがとうございます!!」

顔を綻ばせて言う京子とハルに、スクアーロは居心地が悪そうに身じろぎをした。

「『……気にするな』なんてちょっと愛想なさすぎじゃねーのか?」
「そうか?」

スクアーロはいつも仏頂面で、無愛想に見えるけれど、実際はそうでもない。
でも今日はどこか落ち着かない。

「あれか?『ありがとう』なんて言われなれてなくてー、みたいな?」
「……あんな風に純粋な、ありがとうってなかなかねーよな」
「うん?」
「女助けたときって、やっぱり礼を言われるけどよぉ、そのあとは大体、『お礼にディナーでもいかがですか?』とか、名前聞かれたりとか、つまりみんな下心ありきの『ありがとう』なんだよなぁ。そもそも礼なんて言われないことがほとんどだ」

こいつ、女の癖に全国のモテない男を敵に回したぜ……。
ああ、でも、仕事柄こいつはそんなことたくさんあって、表は愛想よく接しながら、裏っ側で、冷めた目でその女の子たちのことを見ていたんだろうな。

「なんか、新鮮だよなぁ……」
「んー、言われてみれば、そうかもな」
「……ま、別にオレが落ち着かねーのはそれだけじゃねぇんだけどなぁ」
「なんだ?」

意味ありげに言ったスクアーロは、視線をモニターに向ける。
オレたちが会話をしている間にも、チョイスは続いていて、山本が猿としてチョイスに参加していた幻騎士を打ち倒していた。

「殺さず、か。やはり甘いな」
「そこも含めて山本のこと気に入ってんだろ?」
「……まあな」

少し口元を緩めて、誇らしげに山本を見る。
そんな様子に、少しばかり妬けてしまう。
オレにはそんな顔しないくせにな。

「……幻騎士がっ!」

突然叫んだスクアーロの目線を追い、モニターを見ると、どうも幻騎士の様子がおかしかった。
身体中に草が生え、苦しんでいる。

『がっ、ぐああああ!!』

桔梗と幻騎士の会話が聞こえない山本達には、何が起きているのかわからないだろう。
だがオレ達にはわかった。
役に立たないと判断された幻騎士は、あの植物に全身を貫かれて、死ぬ。

「毒サソリ、何か飲みたい……」
「……!オーケー!向こうに冷蔵庫があったわ。行きましょう!」

女の子達の視界を遮るように立つと、毒サソリはすぐに、オレの意図を察して、二人を遠くにつれていってくれた。
あんな惨い死を、二人に見せるのはまだ早すぎる。
……もしこれからもマフィアの世界に関わり続けるのなら、いつか、目の当たりにすることになるだろうけれど、な。

『幻騎士――!!』

ぐしゃりとも、みしゃりとも、何とも言いがたい音を立てて、幻騎士が散る。

「……」

驚愕に包まれる空気のなかで、スクアーロは瞼を閉じて、祈るように頭を垂れていた。

『そん、な……』
『これが……、僕たちが戦っているミルフィオーレの……、白蘭さんの正体だ……』
『……勝とう。世界のためとか…7зのためとかいわれてもピンとこなかったけど…、白蘭がみんなをひどい目に遭わせているのは間違いないんだ!!』

ツナのその言葉で、ボンゴレチームが一気に動き出す。

「……意気込むのは良いが、そう上手くいくかぁ?」
「そういやさっき、なんか言いかけてたな」
「あいつら、まだかなり力を隠しているように思える。白蘭も、全然動いてねぇ。嵐の直前のような、気持ち悪さが抜けなくてなぁ……」

スクアーロが不快感を露に、そう吐き出したのが合図だったのか……。
まず変調が現れたのはツナだった。

『さっきから同じ場所を、ぐるぐる回っている気がする……』

コンタクトの故障……か?
そして、桔梗って奴も、本気を出し始める。
凄まじいスピードで囮を破壊し、入江達に近付いていく。
獄寺が立ちはだかるも、難なく突破されちまった!

『くそうっ!!ぬかれた!!』

更に基地に近付く桔梗。
その上、ツナから最悪のニュースがもたらされた。

『トリカブトだ!!』
『え……!?』
『まだ奴を倒せてなかったんだ……。恐らくオレは今――トリカブトの幻覚空間の中にいる!!』

「まだトリカブトが……!?山本は……、」
「こっちもヤバいぜぇ」

見ると、ミルフィオーレ基地の手前、あと一歩のところで、バリアによって山本が足止めされていた。

「……跳ね馬、覚悟決めておけよ」
「……そんな、縁起でもねーこと言うなよ」

オレの声には、覇気がなく、脳裏を最悪の結果が過る。
レーザートラップも突破され、ツナも幻覚から抜け出せないまま。
くそ、マジでマズイ!!
バイクで追い付いてきた獄寺も歯が立たず、走行モードになって逃げていた基地も破壊された。
ツナが必殺の技、X BURNERで幻覚空間を脱出して入江のもとに向かうも、一歩間に合わず。

『!!正一!!』

入江が倒され、胸の炎が消える。
同時に、山本がデイジーを攻撃、ターゲットマーカーは消えたが……。

「引き分けか……」
『ハハン、早とちりですよ審判』
『う~ん』

モニターからデイジーの呻き声が聞こえる。
……ターゲットマーカーが、再び燃え上がった。

『やっぱり死ねないのか~』
『そんな……、トドメはさしてねーが、完全に倒したはず!!』
『デイジーは″不死身の肉体(アンデッドボディ)″を有していましてね。死ねないのが悩みだという変わった男なのです』

つまり、この勝負……。

『勝者は――ミルフィオーレファミリーです!!』

オレ達の、負けだ……!!
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