10年後

「なぁスクアーロ、なんで、オレにサバイバルみてーなことさせたんだ?」

修業の合間、そう訪ねられた。
壁際に座るオレを覗き込むようにして、山本が話す。

「戦士として~とか、言ってたけどよ、あれってどういう意味があったのかな」
「てめーはうさぎ解体して、どう思った?」

逆に聞き返した。
自分で学ばなければならないことだ。
生きるとは、殺すとは、どういうことか。

「オレ、まだあの感触が残ってるんだ……。お腹の柔らかい肉を割いたときの感じとか、うん、今、思い出しただけでも身震いする。あの時、吐かなかったのが不思議だよな」

言葉通り、山本の剥き出しの腕には鳥肌が立っていて、何かに耐えるようにぎゅうっと目をつむり、言葉を続ける。

「寝る前にちょっと考えたんだ。世界を救うとか、幸せな10年前に戻るとか言ってるけどよ、そうするには白蘭を倒さなくちゃいけなくて、倒すってつまり、殺さなきゃいけないのかも、しれないってことだろ?」
「そうだな」
「スゲー恐いなって、思ったよ。オレがいつかこんな風に殺されるのかもしれないし、今度はオレは、人間を殺しちゃうのかもって、思うと」

握った拳が、白い。
力を入れすぎているのだ。
その拳を、そっと解いてやる。

「感じたのは、恐怖だけか?」
「……んーん。しっかり見なきゃなって思った。オレたちがこれから向き合うのは、敵じゃなくて1つの命なんだ。白蘭だって、真6弔花だって、幻騎士だって、オレとおんなじ、大切な人がいて、やりたいことがあって、居場所があって、誰かに大事に想われてる」
「お前はどうだ?」

掌に爪の痕が残ってしまっている。
その痕を見ながらうつむいて話していた山本が、やっと顔を上げた。
キョトンと見開かれた目。
でもすぐに、にへっと笑った。

「大切なダチがたくさんいる!幸せな過去に帰りたいし、親父にただいまって言いたい!んで、オレが傷付くことで、周りの人を傷付けたくねーんだ。だから例え恐くたって、ちゃんと戦いてー。今度の戦いは絶対勝つぜ!……二人の師匠の弟子としても、絶対負けられねーしな!!」
「生意気言うようになったじゃねーかぁ」

いつものように天真爛漫に笑った山本の髪を掻き回し、立ち上がる。

「お゙ら、修業の続きだぁ!!」
「うぃっす!!」

戦いの日の前日。
いつもよりも激しい剣戟の音が、耳に心地好かった。
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