10年後

食後、スクアーロとオレは修業部屋にて向かい合っていた。
大分遅れてしまったが、修業の再開である。

「さっきは悪かったな!!うっかり寝過ごしちまってよー!」
「それはもういい。てめーに無理させ過ぎたみてーだしな」

簡単に赦してしまうところとか、それを怒ったように言うところとか、見た目よりずっと優しいなー、と、思う。
もっと笑えば良いのに。

「今からはまどろっこしいのはなしだぁ!とにかく戦って、てめー自身のやり方を見付けろ。炎、匣どんな武器もありの……」
「がはははー!ランボさんだもんねー!」
「なんでいるんだガキぃ……!」

突然の闖入者にスクアーロの額に青筋が浮き出たのが見えた。
んー、さすがにキレるんかなー。

「ガキは風呂入って寝てろぉ」
「ランボさんはガキじゃないだもんねー!この白髪お化けー!!ランボさんと遊べー!」
「あー、スクアーロ!オレ、チビのこと獄寺のアネキのとこまで送ってくるから……」
「ランボさんも遊ぶー!!」
「あー……参ったな」

ヤバいと思った時点で、チビがもう、スクアーロにまとわりついていた。
スクアーロの髪を引っ張って遊んでる。
チビはこわいもの知らずで恐ろしいぜ……。

「考えてやるっつったが、遊んでやる気はなかったんだがなぁ……」
「あーそーべー!」
「あ゙ーうるせぇうるせぇ!お゙ら、毒サソリのところ行くぞ!おいかけっこだぁ!」
「ぎゃー!」

歓声を上げて逃げるランボを追い掛けるスクアーロ。
その姿は子供と遊ぶ優しいお兄さんってよりも、子供を追いかけ回す犯罪者って言った方がしっくり来る。
……つかスクアーロってお兄さんなのか?
今、何歳なんだろう。
修業中に、『この歳になると……』とか言ってたし、あの時から10年も立ってるんだもんな……。

「……って、置いてくなってスクアーロ!!」

角を曲がって姿を消したスクアーロを追って、オレも走る。
どうやらうまい具合に追い立てて、獄寺のアネキのとこに向かってるらしい。
チビの楽しそうなはしゃぎ声が聞こえてくる。
スクアーロはチビに合わせて走っているから、オレも簡単に追い付けた。

「なんか意外なのなー。スクアーロ、結構子ども慣れしてんのな」
「……人のあしらい方に慣れてるだけだぁ」

苦虫を噛み潰したような顔……っていうんだっけか?
そんな苦々しい顔をして、スクアーロは答えた。
良くないこと思い出させちゃったのかな?
すぐに切り替えてチビに構い始めたところを見ると、それっぽい。

「ゔお゙ぉい!!捕まえちまうぞぉ!!」
「がははー!絶対捕まんないもんね!!」
「*〇¥◎@※¢!!」
「おっ、イーピンも来たのな?」

横道から、ランボを探していたのかイーピンが飛び込んできて、一緒に逃げ出した。
だがイーピンが合流したせいか、二人は道を逸れてしまった。
隣でため息をついて、スクアーロがスピードを上げた。

「捕まえたぜぇ」
「※@¥!」
「ぎゃっ!」

首根っこを捕まえて、二人を猫の子みたくぶら下げたスクアーロ。
何も知らない奴が見たら、誘拐かなんかかと思っちゃいそうだ。

「捕まったんだもんねー!!」
「お゙ら、さっさと部屋に帰るぞぉ」

ビアンキの部屋に行くまでも大変だった。
チビ達が遊び足りなくて、スクアーロの頭に乗るわ髪を引っ張るわ……。

「ゔお゙ぉい、毒サソリ!いるかぁ?」
「いるわ、入って」
「邪魔するぜ」

オレ達を迎え入れたビアンキは、その様子を見て目を見張る。
スクアーロに、コイツら預かってくれ、と言われてようやく我に帰ったみたいだった。

「……ええ、わかったわ」
「わりぃな、遅くに」
「気にしないで」

言葉少なにやり取りする二人は、何だかちょっと大人な雰囲気。
ビアンキの部屋の中を覗いて時計を見ると、現在時刻は9時半。
早く修業に戻りたい。

「なー、スクアーロ」
「あ゙あ、オレたちも再開するぜ」

今度はさっきの倍以上の早さで走って戻る。
スクアーロは早い。
昨日の鬼ごっこだって、かなりギリギリで逃げ切った。
なんでかって聞いたら、あまり力が強くないから早さで補うようにしてると言っていた。
十分強いと思うんだけど、スクアーロ的には全然足りないって。
だからスゲー早い。
たぶん、鬼ごっこの時だって今だって、オレに合わせて手加減してくれてる。
ガキ扱いされてるんじゃないかって思うと嫌だけど、オレに合わせてくれてるってのはちょっと嬉しい。
そういうところが、ガキ臭いのかもしんねーけど。
んで、そんなこと考えてる内にやっと修業部屋についた。

「……何ニヤニヤしてやがんだぁ」
「え?そうか?」
「変な妄想してんじゃねーぞ」
「してねーって!!ちょっと修業楽しみだなっておも」
「スクアーロー!!!」

和やかに話してたその時、突然誰かがスクアーロを呼んだ。
オレの言葉は最後まで言えずじまい。
一体誰かと思ったけど、振り替える前にスクアーロが吹っ飛んだ……吹っ飛んだ!?

「スクアーロ!!アジトに来てたんなら言えって!!」
「てめっ、跳ね馬!!離せドカスがぁ!!」
「ひどっ!?って、そうじゃなくてよ!なんか食べ物ねーか?オレもう腹ペコでよー」

スクアーロの腹に手を回して、勢いよく飛び付いていたのはディーノさん。
ヒバリと修業してるんじゃなかったのな?

「ディーノさん!」
「おっ、山本!!修業順調か?」
「んー、今から修業の予定だったんすけど……」
「あちゃー!じゃあ、邪魔しちまったのか……!」

スクアーロから離れて、あちゃーと頭を掻いたディーノさん。
なんか、スクアーロ横取りされたみてーでちょっとムカつく……。

「食いもんならキッチンに行けぇ。夕飯の残りかなんかあるだろ」
「おー、サンキューな!じゃあ山本!また修業の様子見に来るからなー!!」
「あ、うぃっす!」

そのままどたばたと走り去っていくディーノさん。
そういや、ロマーリオ、とか言うおっさんがいねーな。
あ、転けた。

「ったく、どじ馬が……」

眉間にシワを寄せて言ったスクアーロ。
その言い方がなんか、オレやチビたちに言うのとは違く聞こえるのは気のせいか?

「早くやろうぜスクアーロっ!!」
「あ゙あ」

改めて、修業部屋で向き合った。
さっきはもっと笑えば良いのに、なんて思ったけど。
今のままでも人気のスクアーロ。
これ以上、オレの師匠が他の奴に取られちゃうのは癪だからな。
やっぱり、スクアーロはこのままが良いのな!!
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