プロローグ:ゆりかご~マレ・ディアボラ編

あのクーデター……今ではゆりかごと呼ばれているあの事件から、8年が経った。
オレは今22歳。
8年の間に、何度かヴァリアーの様子を見に行ったり、仲間の訓練や、大きな任務に参加することもできた。
ゆりかごの後初めて顔を出したとき、ルッスーリアたちに速攻で殴られた。

「んもうスクちゃんったら!!お・し・お・き・よん♡」
「うげっ!?」
「ししっ!オレ達だってちゃーんと罰は受けるつもりだったんだぜ?だってオレ、王子だし」
「いでっ、てめ、ナイフで刺すなぁ!」
「ボスの身代わりに罰を受けるなど!!羨まし……、いや、お前ごときが烏滸がましいぞ!」
「うぜぇ!」
「むむ、でもスクアーロ、君一人が罰を受けることは……」
「……」

オレが謝ると、奴らはオレを詰りながらも、許してくれた。
正直、オレは罰を受けて死ぬ気でいたし、死ななくとも奴らに会うことが出来るとは思わなかった。
掛けられた言葉に、少し涙が出そうになった。
また殴られたが。
見張りつきの事が多かったが、その後もヴァリアーの連中に会いに行くことが出来た。
ヴァリアーは8年経っても中々仕事が回ってこないそうだ。
それでも、少しずつ仕事は来ている。
オレはヴァリアーでも働くようになったこと以外は、相変わらず汚れ仕事ばかりをやらされている。
だがとある日のことだった。

「はぁ!?」
「だから、9代目からの命でお前を今日からヴァリアーに戻すことになったんだ」

仕事でヘマしたわけでもねえ、お偉いさんの機嫌を損なうことをした覚えもねえ。
いや、むしろかつてクーデターをお越した主犯を、何故今になって解放するんだ?
意味がわからないまま、言われた通りにヴァリアーのアジトに帰った。
9代目が命じたとか言ってたが……、一体どういう風の吹き回しなんだ?

「ゔおぉい、帰ったぞぉ!!」
「仕事帰りの親父か、ドカスが」
「あ゙あ?…………っはぁ!!?」

玄関で叫ぶと直後、背後から突っ込みが聞こえた。
一瞬、脳内に疑問符を浮かべる。
はて、自分にこんな物言いをする人間が、身近にいただろうか。
だが、すぐに気が付く。
そんな奴は一人しかいない。
深く低い声が、酷く懐かしい。
鼓動が、いつもより大きく聞こえる。
振り返るまでの数秒が、何時間にも感じられた。

「ザン、ザス……?」
「それ以外の誰に見える、カスザメが」

ルビーのような真っ赤な目、漆黒の髪。
尊大なその態度、9代目の技でついたのだろうか、数多の傷跡が身体を覆っている。

「お前、なんで……だって……氷が……!」

封印はどうしたんだとか、どうやってここまで来たんだとか、体は大丈夫なのかとか、言いたいことがたくさんありすぎて、喉が詰まる。
目の前にいるザンザスが、夢なんじゃないのかと、触ったら消えてしまうんじゃないのかと思って。
それでも、その立ち姿が、ふてぶてしさが、鋭い目線が、立ち上るような怒りが、その存在を主張していて。
恐る恐ると、その肩に触る為に手を伸ばした。

「ザンザ……っゔお!?」

唐突に、ドサリとザンザスが倒れた。
迷うことなく受け止める。
ザンザスは消えなかった。
確かにこの腕の中にいる。
安堵の後、オレははっと気付く。
ザンザスは190cm以上ある大男で、それなりに体重もある。
反して、オレの身長は175程度。
筋肉が付きづらい体質なのか、痩せっぽっちで悲しいくらい身軽である。
つまり、ザンザスを支え続けるのは、めちゃくちゃキツイ。

「ちょ、まっ、重いぞ、ザンザスぅ!!」

叫んだらうるせえと、殴られた。
その拳にも力がない。
当たり前か、8年も氷の中に閉じ込められていたのだ。
筋肉が衰えていて、歩けただけで奇跡に等しい。
つーか、マジでこいつよくここまで歩いてきたな……。

「ったく、ちょっと待ってろよぉ」
「早くしろドカス」

何とかザンザスを背負い直し、引きずるようにして歩き出した。
荷物はとっくに放り出している。

「誰かいねえか!ルッスーリア!!レヴィ!!ベル!マーモン!!」
「あらん?スクちゃん来てたの?」
「!手ぇ貸せルッスーリア。オレ達のボスのご帰還だぜぇ!!」
「んま!大変!!」

ルッスーリアがアジト中に呼び掛ける。
俄にヴァリアーが騒がしくなる。

「ザンザス、言いてえことは山程あるが、まずは休め。今のお前には休養が必要だ」
「ああ」

短い答えに満足し、重さが増したザンザスをルッスーリアに手伝ってもらい運ぶ。
ザンザスが、帰ってきた。
嬉しくはあるが、それはつまり、9代目への、オレの頼みが果たされなかった、ということだ。
ザンザスはこれからボンゴレと、己の血と、向き合っていかなければならなくなる。
大丈夫だろうか。
……いや、オレが支える。
どんなに苦しくなっても、絶望しても、オレが傍にいて、その背を支えてやる。
あの時の誓いは果たされないまま、オレの髪は未だに伸ばしっぱなしだ。
もう一度、今度こそ、お前の傍にずっといると、お前の望む高みへと連れていくと、そう誓うから。

「お前は、オレの主であり続けてくれ」

それだけで良い。
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