10年後

「水回りはここ、向こうに御手洗いがあるわ。御手洗いは各階の同じ場所にあるから」
「あ゙あ」
「お風呂場はあっちにあるんです!!」
「とってもキレイで広いんですよ!!」
「そうか……。オレはしばらく、ここに滞在するつもりなんだが、シャワールームつきの個室とかねぇか?」
「確か奥に余っていたはずよ」
「そこ、使わせてもらうぜぇ」

アジト内を探索しながら説明を受ける。
毒サソリに、確か沢田の友人の少女二人。
受け答えるオレの調子は少し固いかもしれねえ。
普段、いわゆる『普通』の子供と会話することとかねえしなぁ……。
普段の会話の大半は、誰それを殺したとか、どこそこのファミリーが麻薬を始めたとか、一般人には聞かせられないような内容のものばかりであるから。

「跳ね馬から休みなしにこちらに向かったと聞いたわ。少しの間でも、ゆっくり休みなさい」
「はひ!そうだったんですか!?」
「(はひ……?)いや、別に大したことじゃねえ。部屋も、あまり使わねぇと思うしな」
「でも……、ちゃんと休まないとダメです」
「そうですよ!無理して体を壊しちゃダメです!!」
「二人の言う通りよ」

と、言われても。
普段から二徹三徹、当たり前の生活をしていた訳で。
一応最低限の休息はとるつもりだった訳なんだが、うむ、体を壊すな、か……
久々に言われた気がする。

「慣れって怖いな……」
「……?」
「何かおっしゃいましたか?」
「いや、なんでもねぇ。心配、ありがとなぁ」

低い位置にある頭に手を乗せて、自分なりに優しく撫でる。
自分で言うのも難だが、馬鹿力だからなぁ。

「さて、そろそろ時間だぁ。山本の部屋まで案内してもらって良いかぁ?」
「は、はひ!」
「あ、はい!」

照れたように顔を赤くしてちょっと吃った二人は、大きな声で返事をしたかと思うと、たたっと駆けていった。

「天然たらし……、ってわけでも、ないのかしら」
「なんか言ったかぁ」
「何でもないわ。山本の部屋はすぐ上よ」
「あ゙あ」

粗方説明してはもらったが、まだ不案内なオレの為に、山本の部屋まで連れていってもらった。

「ここが山本さんズルームです!」
「お゙う」

三浦ハルに言われた部屋の戸を無遠慮にガラッと開けて入る。

「ゔお゙ぉい!!起きろ山本ぉ!!」
「ゔっ……!」
「はひぃ!凄く大きな声です!!」
「山本君、大丈夫かな?」
「2日以上一緒だったのだし、なれているんじゃないかしら」

婦女子の見る前でボディーブローもあれなので、頭にチョップを食らわせてみる。

「うー、あと5分、なのな……」
「ちっ、起きねーな」
「相当疲れているようね」
「……はぁ」

ごすっともう一発チョップを食らわせるも、唸るばかりでむしろチョップしたオレの手に擦りよってくる。
猫か。
ほっぺを引っ張っても起きやしねぇ。

「起きないわね。しばらく放っておいたらどうかしら。疲れているのを無理矢理修業させても、成果は出ないわ」
「仕方ねーな」

まぁ、慣れない野宿をしたのだ。
疲れも溜まっていただろうし、帰ってきて安心したってのもあるだろう。
今日は寝かせておくか。

「……手間かけたな」
「大したことじゃありませんよ!」
「分からないことがあったらまた聞いてください!」
「……そっちも、困ったことがあれば言え」
「あら、それなら今、あるわ」
「……あ゙あ?なんだ?」

お礼のつもりでそう言ったのだから、すぐにできるなら喜ばしいことである。
だが、なんと言うか……、毒サソリに言われると何だか恐ろしい。
ついつい、恐ろしげに訊ねた。

「夕飯作りよ。野菜を切るくらいならできるでしょう」

何だ、そんなことか……。
むしろ得意なことだぜ。

「良いぜぇ。今日のメニューは何だ?」
「今日は鯖の味噌煮とお味噌汁……あと」
「野菜炒めを作ろうと思います!!」
「和食かぁ」

ヘルシーで良いな。
普段はザンザスの好みに合わせて作るか、有り合わせで出来るものばかりだから、和食はあまり作ることはねーが、たまには良い。

「キッチンに行くぞ」
「へ?」
「い、いいんですか!?」
「自分で困ったことがあれば言えと言ったんだぁ。好きに使え。こっちは世話になる身だからなぁ」

そう言えば驚いたように見られた。
お前らオレのことを何だと……。
まぁ、意図してガサツな印象を与えるようにはしているのだが。
そこまで露骨に驚かれると傷付く。

「……やっぱり取り消そうかしら」
「ゔお゙ぉい!!これでも料理は出来る方だぞぉ!!」
「ええっ!!」
「くっ!キッチンに行くぞぉ!!証明してやる!!」

純粋に驚かれるとなお傷付く!!
こうなったら実際にその目で見て信じてもらうぜぇ。
そんな訳で、オレたちは熟睡の山本を放置してキッチンに向かったのであった。
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