リング争奪戦

「さぞ…かし…いい気味だろうな!……そうだ。オレと老いぼれは、血なんて繋がっちゃいねぇ!!」

ザンザスの告白が、静かな校庭に響いた。

「XANXUS……」
「同情すんな!!!カスが!!!」

荒く息を吐き、血を流すザンザス。

「……オレは知っているぞぉ。お前の裏切られた悔しさと恨みを……オレは知っている……」

なぜ、そんな風に声を掛けたのか、オレ自身にもわからない。
ただ、言いたかったのだ。
お前のことを知っている奴が、ここにいることを。
この右腕が、傍にいることを。

「!スクアーロ!!」
「生きてやがったのか…カスザメ……。……知っている、だと……。てめーが……オレの何を知っている……」
「お前の過去を、知っている……!」
「なら言ってみろ!!何を知っている!ああ?」

その言葉に口を閉ざす。
オレが言っても良いのかよ。
コイツらに、知られてもいいのか。

「言えねーのか!!」

そう叫ぶ声に、背中を押されて話し出した。

「……お前は下町で生まれ、生まれながらに炎を宿していた。そしてお前の母親はその炎を見て、お前が自分とボンゴレ9代目の間に生まれた子供だという妄想にとりつかれたんだぁ」

幼いお前を母親は9代目と面会させた。
そして事実を知らなかったお前に、9代目は言ったのだ。

『ああ……これはボンゴレの死ぬ気の炎だね。間違いない。お前は私の息子だよ』

子供は純粋だ。
お前はその言葉を信じ疑うことはなかった。
そしてお前は10代目に成るべくして、正しい教育を受けてきた。
その強さも、中身も、後継者として相応しい者に成長した。
しかしある時、知ってしまったのだ。
ボンゴレと自分の間に、血の繋がりなどないことを、そしてブラッド・オブ・ボンゴレなくしては、後継者として認められぬ掟があることを。

「そして、それから半年、オレたちはクーデターを起こした」
「そして、揺りかごに繋がるんだな」
「揺りかごの前に、全て調べた……。知っていて、それでも、10代目の座はザンザスのモノであるべきと思ったんだぁ……」
「くだらねー……」

ザンザスの言葉に、目を閉じる。
アイツは、嘘つきの意地っ張りで、自分の言葉をなかなか話してくれない。
オレは、ただオレがするべきだと思ったことを、することしか出来なかった。
オレの行動では、オレの力では、ザンザスを救ってやることは……出来ない。

「9代目が……、」

力尽きたように四つん這いになって黙っていた沢田が、徐に口を開いた。

「裏切られてもおまえを殺さなかったのは……、最後までおまえを受け入れようとしてたからじゃないのか……?9代目は、血も掟も関係なく、誰よりおまえを認めていたはずだよ。9代目はおまえのことを、本当の子供のように……、」
「っるせぇ!!」

沢田の言葉を押し潰すように、重い叫びが空気を切り裂く。

「気色の悪い無償の愛など!!クソの役にも立つか!!オレが欲しいのはボスの座だけだ!!カスはオレを崇めてりゃいい!!オレを讃えてりゃいいんだ!!」

ベルはその言葉をかっこいいと言うが、オレには酷く虚しく響いて聞こえた。
流れた血でリングが滑り、ザンザスの指から落ちる。
これで、ザンザスがリングに殺されることはない。
だがあの出血量だ。
早く医者にみせねぇと……。

「XANXUS様!あなたにリングが適正か協議する必要があります」
「だ……だまれ!!叶わねーなら道連れだ!!どいつもぶっ殺してやる!!」

予定では、そろそろヴァリアーの精鋭部隊がここに到着するはずだった。
しかし到着した3人の隊員はこう告げた。
           、、
「全ヴァリアー隊員の退避が完了しました!」
「……は?」
「我々はどうすれば良いでしょうか、スクアーロ隊長!!」

全員の視線がオレに向けられる。
オレは溜め息を1つ吐き、部下に指示を下した。

「お前らも退避だぁ」
「……しかし、」
「退避しろ」
「…………はっ」

闇に姿を眩ませた部下の後から、見覚えのある男が顔を出す。

「どういう、ことだ?ヴァリアーの隊員が一人もいない」
「ら、ランチアさん!?」

当たり前だ。
この襲撃はリング戦始まってすぐに計画されたことだった。
だがオレは、雨戦の前に部下達に指示を出した。
『沢田綱吉たちは生かして使う。襲撃は取り止めて、門外顧問らに見付からぬよう身を隠していろ』と。

「カスザメ、てめー……!!」
「ザンザス……、わりぃなぁ……」
「なぜ……!!」

ザンザスに睨み付けられたオレは、きっと酷く情けない顔をしていたに違いない。
遠いザンザスの姿を見て、少し視線を反らして沢田を見る。

「もう、充分殺しただろぉ……。もう、どれだけ暴れたって手に入らないって、わかっただろぉ……」
「っ……く、そ!くそが‼」
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