プロローグ:ゆりかご~マレ・ディアボラ編

オレの名は、スペルビ・スクアーロ。
家族は、親父が一人。
育ててくれたのは、メイドのクレア。
学校には行っていない。
毎日、親父が望む人になるために、勉学に励み、武術を学び過ごしている。

「スペルビは賢い子だ」

親父にそう言われた次の日、オレは家庭教師が出したテストで、満点をとった。

「素晴らしいご子息です!!同い年のどの子にも負けない賢い頭脳をお持ちだ!」
「そうかそうか。流石、私の息子だ!!
明日はフェンシングの先生を呼んだんだ。この調子で頑張りなさい」
「はい!」

誉められたのが嬉しかった。
翌日来た先生に、フェンシングを教えられた。
努力したけれど、あまり上手くは出来なかった。

「そんなはずはない!!スペルビは優秀だ。勉学だって剣だって、何だって出来る自慢の息子なのだ。出来ないのなら、それは私の息子ではない!」

親父は高らかにそう言い放った。
酷く冷めた目で俺を見る親父が怖かった。
ああ、このままだと捨てられてしまう。
オレは必死で剣の修練を積んだ。
一ヶ月後オレは同年代の中で並ぶものがいないと言われるまでの強さを会得した。

「流石だスペルビ!!流石、私の息子だ!!次は銃を学ぼう!大丈夫、私のスペルビならば出来るよ」

誉められた、誉めてもらえた。
傷だらけになって誉められるオレを、何も知らない使用人達はやんちゃだと笑った。
親父はオレの傷に気付きすらしない。
そりゃあそうだ、親父の目に映るのはオレじゃない。
昔に死んだ、兄の姿なんだから。
唯一人、専属メイドのクレアだけは、泣きながらオレを抱き締めてくれた。
女の子なのに、と、彼女は泣いた。
オレはきっと彼女がいなければ、自分が女であることを、自覚することも出来なかっただろう。
優しいクレアはよく泣いた。
オレの為に泣いて、無茶しないでと言っていた。
彼女を泣かせるのは嫌だったけれど、それでもオレは、同じことを繰り返す。
オレが全てを完璧にこなす。
親父が誉める。
出来ないことも、無理矢理にでもやる。
周りからは神童と呼ばれ、親父は満足そうに笑う。
親父に誉めてほしかった。
ただそれだけのために。
だが親父が誉めてるのは、親父が自慢に思うのは、オレではない。
俺と同じ名前の、オレの兄。
親父の妄想の中に住む、もう一人のオレ。
親父は認めたくなかったのだろう。
兄がもう死んでしまって、この世にいないことを。
母がオレを産むことと引き換えにその命を落としたことを。
でもオレはずっと認めてほしかった。
オレが兄ではなくて、たった一人の娘であることを。
親父と一緒に出掛けたパーティーで同い年くらいの女の子を見たことがあった。
ヒラヒラのドレスを着て、お洒落して、可愛らしく笑ってる女の子。
あんな風になりたい訳じゃなかったけれど、ただ、死んだ人の名前で呼ばれるのは、兄の代わりだと言われているようで……苦しかった。
オレは兄じゃないと認めてもらいたかったけれど、それでも結局はスペルビ・スクアーロ以外の何者にもなれなくて。
だから親父が死んだときも、オレは迷うことはなかった。

『スペルビは強く賢い子だ』

親父がそう言っていたから。
だからオレは何よりも強く賢く在る。
そうあろうと、とにかく動いた。
家の財産は親戚どもに全てむしりとられた。
けれど構うものか、オレには何よりも強い体がある、賢い頭がある。
使用人たちは全て解雇になった。
クレアは何度もオレを振り返りながら去っていった。
考えてみた。
オレは一人で生きなければならない。
金は、毟り取られたとはいえ生きていくのに苦労しない程度の分はもらっていた。
まずはその金で全寮制の学校に入った。
これで衣住食は確保できた。
部屋には本がいっぱいある。
学ぶことは楽しかった。
例え一人でも。
そして、オレはオレであるために、強く在るために、強さを証明するために、剣豪と名乗る何人もの男と戦った。
幸い、オレの入った学校はマフィアの子供が多く入る学校で、授業に出なくても成績さえ良ければ何も言われなかった。
頭は良かったし、時折銃やナイフの訓練に出ることはあったが、オレが知っていることばかりで、あまり面白くなかった。
オレはつまらない授業をサボって、世界中を飛び回る。
我こそは○○流何代目当主、貴様のような餓鬼などに負けてやる気はない云々と叫ぶ奴等を次から次へと切り伏せる。
弱い、弱い、みんな弱い。
だんだん、剣豪狩りにも飽きてきた。
剣帝とか言う奴と戦えたら楽しいのだろうが、そいつと戦うとなると大マフィアボンゴレを敵に回すことになるし、正直面倒くさい。
剣豪ばかり狙わないで次は他の獲物を使う殺し屋も狙ってみるか。
今まで銃を使う相手と戦うことは少なかったし、今度は銃使いを狙ってみるか。
そんな、オレが14歳の頃のある日のことだった。

「素晴らしいな、お前。うちに入らないか?」

一人の男に声を掛けられた。
その男が、かの剣帝、テュールだったのだ。
当時テュールはボンゴレの独立暗殺部隊のトップを務める男。
つまり、オレはその暗殺部隊――ヴァリアーにスカウトされたのだ。
暗殺部隊……人を殺す集団に勧誘されるとは思ってもみなくて、戸惑ったし、何より不快だとも思った。
オレは強くなりたいだけで、誰かを殺したい訳じゃない。
だから一つ、条件をつけることにした。

「オレと決闘しろぉ、剣帝テュール!」

もしも負けたならヴァリアーだろうとなんだろうと入ってやる。
ヴァリアーと言えば最強の暗殺部隊と名高い組織。
そのボスであるテュールを倒し、ヴァリアーに勝る実力を証明する。
テュールを倒せば、もうそこに用はない。
とっととずらかるだけだ。
勝てば良いだけ、そんなことを思いながら、奴に着いていった。

結局、オレとテュールの決闘は、2日間に渡って行われ、そして激闘の末、オレは遂に剣帝を倒した。
身体中がボロボロで、何ヵ所か身体を貫かれていたし、血を流しすぎて立つのもやっとの状態だったが、確かにオレはその場に立っていて、テュールは地に倒れ伏していた。
そしてオレは、暫定最強の座を手に入れたのだった。

そして、その決闘の数日後、オレは運命とも言える出会いを果たす。
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