リング争奪戦
「ゔお゙ぉい!!!よく逃げ出さなかったな素人剣士!!活け造りにしてやるぞおぉ!!」
廊下の屋根の上にヒラリと降り立ち、いつもよりも更に荒い口調で挨拶をする。
それに対して、素人剣士は不敵に笑って、手に持つ竹刀を振るう。
竹刀は一瞬にして、その姿を日本刀に変えた。
「そうはならないぜスクアーロ。オレがあんたを、この刀でぶっ倒すからよ」
「ん、変形刀か」
その刀の鋭い輝きに、目を眇めて口角を上げる。
年代物の、とても良い刀だ。
きっと、たくさん人を殺してきた刀。
このガキの実力も、それに見合うモノになってりゃいいがな。
「流派を越えるんじゃなく、時雨蒼燕流で――……」
沢田綱吉の言葉に、誰か――恐らくは跳ね馬ディーノ辺りから、オレについて少しは聞いているのだろう。
オレの剣技は、色んな流派を吸収した上に生まれたモノだからなぁ。
「オヤジが無敵ってんだから無敵なんじゃね?」
「無敵だぁ?」
その言葉に思わず嘲笑が漏れる。
その言葉を、かつて何度となく聞いた。
例外なく、そう言った奴はオレに負けたがな。
「オレは自ら無敵とほざいたバカ共を何百と葬って来たぞぉ!!」
それは『時雨蒼燕流』という流派についても同様で、随分と昔に聞いたその名に、ほんの少し過去の記憶が蘇る。
それを振り払って、目の前の少年へと視線を戻す。
前とは違う、自信に満ちた笑みが、オレに向けられていた。
「面白ぇじゃねぇかぁ」
ぼそりと放った言葉は誰にも聞かれず、風にさらわれた。
遅れて登場したチェルベッロたちに今回のフィールドを告げられ、その背に従い着いていく。
連れていかれたのは校舎B棟。
全ての窓と扉が塞がれ、1つだけ新しく作られていた鉄の扉をくぐり中に入ると、中は床がぶち抜かれ、大幅に改造されていた。
天井から降ってくる海水の、塩辛い独特の香りに、オレは眉をしかめた。
雨の守護者の名を表すような、水の……海のステージ。
ここは時雨蒼燕流に随分と有利なステージだな……。
だがその光景に、ベルは楽しそうに感想を漏らす。
「面白そーじゃん♪」
その声に漸く、沢田綱吉達はヴァリアーの存在に気が付く。
つぅかベル、てめぇ、負けたくせに能天気に観戦に来てんじゃねぇぞ。
そんな意味を込めて、踵でグリグリと足の甲を踏みしめる。
声もなく蹲ったベルに、マーモンの生暖かい視線が注がれた。
「!!XANXUS!!!」
そうだった、今日は珍しい事にザンザスが試合を見に来ている。
別にここで勝負がつくわけでもねぇのに、本当に珍しいな。
喜んで良いのか、それとも、恐れた方がいいのかもな。
「負け犬はかっ消す」
誰を、とかは言わなかったが背中に注がれる視線に、誰を、なんてわからないはずもなく。
「……そんな事の為に、観戦に来たのかぁ」
呆れ混じりに言えば、ザンザスはそれに答えることなく、不機嫌そうに上着を翻して観覧席に歩いていった。
「守護者以外の方は速やかに退室してください」
ゾロゾロと観戦者たちが出ていって、リングにはオレと素人剣士だけが残る。
「それでは、雨のリング。S・スクアーロ VS 山本武。試合開始!!」
どちらも、直ぐには動かない。
相手は、オレの様子を伺っているようで、動く様子は見られない。
オレはほんの一時だけ、目をつむる。
大事な任務の時、オレはしばしば、出来るだけこうして気持ちを切り替える。
クールに、そしてクレバーに。
ただ、目的の為だけに動く、一つの武器と成る為に。
目を開き、スッと短く息を吐く。
ピンと空気が張り詰めた。
「……っ!!」
突然変わった空気に、素人剣士も身構えた。
「とばすぜぇ」
コンクリートの、脆い地面を蹴る。
一瞬の内に相手に迫った。
横一線に振るった剣はしかし、相手の肉体を捉えることなく通り過ぎていく。
このオレの攻撃が、アイツにはしっかりと見えているらしい。
必然、オレの背後に回った相手に、仕込み火薬で追い討ちを掛ける。
それも危ういところで避けられた。
互いに距離をとって、止めていた息を吐き出した。
「ほう、よけたか」
「あっぶねー。あんたに負けてから毎日やってたイメトレのおかげだな」
イメトレってお前、スポーツかよ……、いや、コイツは確かガキの頃から野球をやっていたのだったか。
だから未だに、『試合』感覚が抜けねぇんだな。
これは間違いなく純粋にお互いがお互いを殺し合う、『死合』だというのに。
「そのイメトレってやつで、こいつもイメージ……できたかぁ?」
自分に出来る、最速を出す。
音を立てずに、相手の視界から外れ闇に紛れる。
散らばる瓦礫や柱を足場に、奴の背後に回って剣を叩き込んだ。
「ゔお゙いっ!!」
剣と竹刀がぶつかり合い、鈍い衝突音が鼓膜をつんざく。
間を開けず、オレは仕込み火薬を放った。
「死ねぇ!!」
爆風に乗り、宙を舞うオレの目に入ったのは、いつもとは違う形をした爆煙。
防がれたか。
着地と同時に直ぐに相手の方に向き直ると、素人剣士の竹刀が再び刃を剥いていた。
――時雨蒼燕流 守式七の型・繁吹き雨
「は、やるじゃねぇかぁ!山本武っ!!」
血が疼く。
楽しい戦いになりそうだ、と、密かに舌なめずりをした。
廊下の屋根の上にヒラリと降り立ち、いつもよりも更に荒い口調で挨拶をする。
それに対して、素人剣士は不敵に笑って、手に持つ竹刀を振るう。
竹刀は一瞬にして、その姿を日本刀に変えた。
「そうはならないぜスクアーロ。オレがあんたを、この刀でぶっ倒すからよ」
「ん、変形刀か」
その刀の鋭い輝きに、目を眇めて口角を上げる。
年代物の、とても良い刀だ。
きっと、たくさん人を殺してきた刀。
このガキの実力も、それに見合うモノになってりゃいいがな。
「流派を越えるんじゃなく、時雨蒼燕流で――……」
沢田綱吉の言葉に、誰か――恐らくは跳ね馬ディーノ辺りから、オレについて少しは聞いているのだろう。
オレの剣技は、色んな流派を吸収した上に生まれたモノだからなぁ。
「オヤジが無敵ってんだから無敵なんじゃね?」
「無敵だぁ?」
その言葉に思わず嘲笑が漏れる。
その言葉を、かつて何度となく聞いた。
例外なく、そう言った奴はオレに負けたがな。
「オレは自ら無敵とほざいたバカ共を何百と葬って来たぞぉ!!」
それは『時雨蒼燕流』という流派についても同様で、随分と昔に聞いたその名に、ほんの少し過去の記憶が蘇る。
それを振り払って、目の前の少年へと視線を戻す。
前とは違う、自信に満ちた笑みが、オレに向けられていた。
「面白ぇじゃねぇかぁ」
ぼそりと放った言葉は誰にも聞かれず、風にさらわれた。
遅れて登場したチェルベッロたちに今回のフィールドを告げられ、その背に従い着いていく。
連れていかれたのは校舎B棟。
全ての窓と扉が塞がれ、1つだけ新しく作られていた鉄の扉をくぐり中に入ると、中は床がぶち抜かれ、大幅に改造されていた。
天井から降ってくる海水の、塩辛い独特の香りに、オレは眉をしかめた。
雨の守護者の名を表すような、水の……海のステージ。
ここは時雨蒼燕流に随分と有利なステージだな……。
だがその光景に、ベルは楽しそうに感想を漏らす。
「面白そーじゃん♪」
その声に漸く、沢田綱吉達はヴァリアーの存在に気が付く。
つぅかベル、てめぇ、負けたくせに能天気に観戦に来てんじゃねぇぞ。
そんな意味を込めて、踵でグリグリと足の甲を踏みしめる。
声もなく蹲ったベルに、マーモンの生暖かい視線が注がれた。
「!!XANXUS!!!」
そうだった、今日は珍しい事にザンザスが試合を見に来ている。
別にここで勝負がつくわけでもねぇのに、本当に珍しいな。
喜んで良いのか、それとも、恐れた方がいいのかもな。
「負け犬はかっ消す」
誰を、とかは言わなかったが背中に注がれる視線に、誰を、なんてわからないはずもなく。
「……そんな事の為に、観戦に来たのかぁ」
呆れ混じりに言えば、ザンザスはそれに答えることなく、不機嫌そうに上着を翻して観覧席に歩いていった。
「守護者以外の方は速やかに退室してください」
ゾロゾロと観戦者たちが出ていって、リングにはオレと素人剣士だけが残る。
「それでは、雨のリング。S・スクアーロ VS 山本武。試合開始!!」
どちらも、直ぐには動かない。
相手は、オレの様子を伺っているようで、動く様子は見られない。
オレはほんの一時だけ、目をつむる。
大事な任務の時、オレはしばしば、出来るだけこうして気持ちを切り替える。
クールに、そしてクレバーに。
ただ、目的の為だけに動く、一つの武器と成る為に。
目を開き、スッと短く息を吐く。
ピンと空気が張り詰めた。
「……っ!!」
突然変わった空気に、素人剣士も身構えた。
「とばすぜぇ」
コンクリートの、脆い地面を蹴る。
一瞬の内に相手に迫った。
横一線に振るった剣はしかし、相手の肉体を捉えることなく通り過ぎていく。
このオレの攻撃が、アイツにはしっかりと見えているらしい。
必然、オレの背後に回った相手に、仕込み火薬で追い討ちを掛ける。
それも危ういところで避けられた。
互いに距離をとって、止めていた息を吐き出した。
「ほう、よけたか」
「あっぶねー。あんたに負けてから毎日やってたイメトレのおかげだな」
イメトレってお前、スポーツかよ……、いや、コイツは確かガキの頃から野球をやっていたのだったか。
だから未だに、『試合』感覚が抜けねぇんだな。
これは間違いなく純粋にお互いがお互いを殺し合う、『死合』だというのに。
「そのイメトレってやつで、こいつもイメージ……できたかぁ?」
自分に出来る、最速を出す。
音を立てずに、相手の視界から外れ闇に紛れる。
散らばる瓦礫や柱を足場に、奴の背後に回って剣を叩き込んだ。
「ゔお゙いっ!!」
剣と竹刀がぶつかり合い、鈍い衝突音が鼓膜をつんざく。
間を開けず、オレは仕込み火薬を放った。
「死ねぇ!!」
爆風に乗り、宙を舞うオレの目に入ったのは、いつもとは違う形をした爆煙。
防がれたか。
着地と同時に直ぐに相手の方に向き直ると、素人剣士の竹刀が再び刃を剥いていた。
――時雨蒼燕流 守式七の型・繁吹き雨
「は、やるじゃねぇかぁ!山本武っ!!」
血が疼く。
楽しい戦いになりそうだ、と、密かに舌なめずりをした。