リング争奪戦

「ゔお゙ぉい!!ただいま帰ったぞぉ」

ホテルのスイートルームの扉を、勢いに任せて荒々しく開ける。
こちらに背を向けて、大きな椅子に背中を預けるザンザスが視界に入った。

「ベルのカスが負けたぁ。だが安心しろぉ!次はオレの番だぁ。後に控えてるのはアルコバレーノのマーモンに、ゴーラ・モスカ……、この後はサクッと終わらせて帰れそうだなぁ」

気まぐれに、ザンザスが投げてきたグラスをひょいと避ける。
それに苛立たしげに舌打ちを溢したザンザスに、新しい酒を出した。

「調子は良くねぇがぁ、オレは必ず勝つぜぇ」
「ふん、どうだかな」
「どんな手を使ってでも、お前に勝利を持ってくる。それとも、このオレがルッスやベルみてぇに負けるとでも?」
「お前にも、戦闘狂の気があるからな」
「……否定は、出来ねぇ」

強いやつと戦うのは、好きだからなぁ。
時たまに、熱くなりすぎてしまうこともある。
だが今回ばかりは、是が非でも勝たねばならない。
ここで負けりゃあ全てが台無しだ。

「……オレぁ勝つ、絶対に。この命を懸けてでもなぁ」
「勝手にしろ」
「勝手に勝つぜぇ。だからてめぇは、安心して見てろぉ」

いつものように、ゾンザイに返事を返したザンザスに、オレは喉を鳴らして笑う。
常に変わらないコイツが、存在しているというそれだけで、オレは安心して戦える。

「てめぇはただ、そこにいりゃあいッだぁぁああ!?」

額に何かがぶつかり酒の匂いが鼻腔に入り込んでくる。
痛ぇ、くせぇ、アルコールの濃い匂いで頭がぐらぐらする。

「酒」
「わかったけど!なんでちょっと良いこと言おうとした時に酒瓶投げてきたぁ!?」
「うるせぇ、さっさとしろ」
「横暴だなぁ、ゔお゙ぉい!」

その横暴さには、最早怒りを通り越して尊敬の念すら抱く。
机の上のグラスを引っ掴んで流しに置き、新しいグラスと日本酒を持って戻る。
冷蔵庫を漁って適当につまみも出してやる。
大人しくなったザンザスを一人残し、自室に籠った。
明日に備えて、武器の手入れをしながら、雨のリング争奪戦に想いを馳せた。
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