リング争奪戦

「ゔお゙ぉい!!大人しくしろレヴィ!!」
「うるさい!オレはボスの所に……!」
「ザンザスならもうとっくに夢の中だぞぉ!下手に刺激したら余計に機嫌悪くなんだからやめろぉ!!」
「ぐぅっ!オレを誉めてくれボス!!」
「うるせぇ」
「ぐへっ!?何でオレだぁ!!!」

学校の屋上で行われた、雷のリング争奪戦の後、暴れるレヴィを取り押さえ治療をしようとしていたら、騒音により起きてしまったザンザスにワインボトルを投げられた。
理不尽が過ぎるだろぉ!!

「ぼ、ボス!!」
「スクアーロ」
「すぐにブランデー持ってくるから待ってろぉ!」
「な、何故だっ!!?」

なー、本当なんでだろうなぁ。
でもこの時間、ザンザスはブランデー飲みたがることが多いから、何となくわかっちまうんだよな。

「早くしろ」

イスにドカリと座ったザンザスに、目の前でクワッと目を見開いているレヴィ。
イラっとしたから一度レヴィを殴ってから備え付けキッチンに酒とグラスを取りに行った。

「おら、あんま飲みすぎんじゃねえぞぉ!」

と言ってもザンザスはザルだから飲みすぎたところで明日に響くとかねえんだけどな。
身体に悪いとは思うが、言っても聞かねえし。
酒が苦手なオレからすると、少し羨ましくもある。

「くっ!何故、何故オレではなくスクアーロなんかが!!」

間違いなく、お前の融通が効かないからだろうと思うが、そこは口を閉ざしておく。
嫉妬の視線でオレにガンをつけてくるレヴィが、今よりももっとウザくなるだろうからな。
さっさと治療してオレは寝たい。

「お゙ら、怪我したところ見せてみろ」

無言のまま怪我を見せてくるレヴィに、丁寧に処置を施していく。
体はヴァリアーの制服に守られていたせいか、それほど酷い傷はない。
流石は専属の職人に頼んでいるだけあって、丈夫で良い制服だ。

「顔と腕がひでぇなぁ」
「しし、顔が酷いのは元々じゃね?」
「何だとっ!?」
「……いちいち煽るなぁベル。そしていちいち乗るなレヴィ」
「あでっ!」

ベルの頭に拳骨をお見舞いして、レヴィの怪我の治療に集中する。
ゔお゙……顔中絆創膏だらけだ。
化け物みが更に増した。

「しし、スクアーロやっぱキヨーなんだな。普段の感じからしてスゲー雑っぽいのにさ」

ベルの言葉に複雑な顔になる。
お前はオレを何だと思ってるんだ。

「ムム、でも本当に変わってるよね。僕が今まで見てきた剣士って、大体料理の一つ、家事の一つも出来ないような脳筋ばっかりだったけど」
「ゔお゙ぉい、そんな前時代的な奴らと一緒にすんじゃねぇ!」
「何でそんなにキヨーなんだよ」
「オレが器用で悪いみたいな言い方だなゔお゙ぉい!!」

怒鳴っても何でなんでと、ベルがしつこく絡んでくる。
まったく、このバカは一度駄々をこねだすと止まらない。
明日は自分の戦いがあると、わかっているのだろうか。
それに、自分が器用に何でもこなせる理由なんて、言いたくねえに決まってんじゃねぇか。
親父に、スペルビは何でも出来る子、とか言われて、勉強、剣術から家事裁縫までこなすようになったとか。

「なぁ、何でだよー」
「どうでもいいだろうがぁ、そんなことは」
「えー、良いじゃん教えろよ」
「女だからじゃねえのか」
「あーなるほど、女なら納得……って、え?」
「ざっ、ザンザスっ、おまっ!!」

いい加減ウザったかったのか、唐突にザンザスがぽつんと言い放った。
その言葉に、部屋の空気が凍る。
そりゃあもうカチンコチンに。
そしてオレの顔だけが青ざめていく。
何でお前はこのタイミングで、人の秘密をカミングアウトしちゃったんだザンザス!!!??

「ハァアアッ!!?」
「女って……ボス、スクアーロは男だろ?確かに女なら良妻と言えるほどの働きはしているけど」
「こんな乱暴な奴が女なわけが……」

ベルがすっとんきょうな声を上げているが、その他の対応は至って落ち着いていた、この時までは。
だがザンザスの地味に、『あ……』って思っている顔。
そんなボスの顔と、オレの顔を見比べて、マーモンが恐る恐る口を開いた。

「ま、まさか、本当なのかい?」
「スクアーロ、貴様、男だろう……?女だなどと、そんな、ハズが……!」
「……」

それに対して、オレは答えることが出来ない。
男だと、一言そう言えば済むのかもしれないが……、もし確認とか言われたら証明なんて出来ねぇし……。

「ししっ、うしししししっ!!スッ!スクアーロが女ー!」
「……」
「そんな、本当に女だったの?」
「……」
「なっ、ななな!」
「……」

言葉を失う、というか、何て言えば良いんだろう。
8年間ずっと、こいつらに嘘ついてたんだ。
恨みがましい目でザンザスを見ても素知らぬ顔をされて終わる。
ちくしょう……、こんな時にめんどくせぇ爆弾落としやがって……!

「ぷっくくく!ヤッベーの!スクアーロが女とか!」
「笑い、すぎだろぉ……」
「確かに、普段人前で着替えたりとかしないもんね。声も男にしては高い方だし……。首元をいつも隠してるのもそのせいかい?」
「喉仏で、バレるし、まあ色々とな……」
「お、お、おおお、お女っ!?」
「いつまで吃ってんだレヴィ……」

マーモンは、割りと冷静だった。
ベルは何がツボに入ったのか、狂ったように笑ってる。
レヴィは……呆然としてこちらを凝視してきていた。
あ゙ーもうどうでもいい。
野となれ山となれだ。
一応コイツらもヴァリアーだし、そうペラペラと言い触らしたりはしねぇだろ……。

「しししっ!ルッスーリアに教えてこよーっと」
「んなっ!テメー待ちやがれベル!!」
「グファッ!!」
「何で鼻血出したレヴィ!?」
「普段女性に治療してもらうなんてこと無さそうだもんね、レヴィ」
「耐性なさすぎだろぉ!」
「……寝る」
「ザンザステメー!この状態で寝るとかふざけんなぁ!!」

数分後、ベルに聞いて野次馬に来たルッスーリアがオレの八つ当たりを受けて再入院した。
反省はしてねえ。
……ただ、仲間達に拒絶されなかったことは、受け入れてもらえたことは、少し嬉しいと思ってしまった。
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