リング争奪戦

折れた避雷針、そして沢田綱吉の額に灯る凄まじい炎。
それらを見比べ、何が起こったのかを理解する。

「なるほど、エレットゥリコ・サーキットの導体は金属でできていて、熱を伝達する働きがある。その熱が避雷針のくびれ部分にまで伝わり、溶解したため重量に耐えきれなくなり倒れたんだ」

場外からあの牛ガキを助けたのか。
だが、妨害は妨害。
ルール違反によって、リングは没収されることになるだろう。

「でも、聞いてなかったぜスクアーロ。あんなバカでかい炎を出せる奴がいるなんて」

オレが初めて沢田綱吉に会ったとき、奴の炎はこれとは比べ物にならないほどに弱かった。
まさか、この短い期間にここまで成長するとは。
いや、あの炎は前に見たものとは、質が違うようにも思える。
家光の仕業……ではねえな。
奴と、息子の綱吉との接触は、これまでほぼなかった。
だとするとこれは、9代目が寵愛し、奴の家庭教師につけたというアルコバレーノの仕業か。
やはり何か、隠し玉を持っていたのか。
しかし、面倒なことになった。
ザンザスがあのガキに劣るとは思えねぇが、あの初代ボンゴレの直系。
万が一、ということも、あるかもしれない。

「いくら大事だって言われても、ボンゴレリングだとか、次期ボスの座だとか、そんなもののために、オレは戦えない。でも、友達が、仲間が傷つくのはイヤなんだ!!!」

……沢田綱吉という少年は、運動も勉強も出来ない、所謂落ちこぼれだったそうだ。
それが、突然マフィアのボス候補にされ、更には無理矢理に、こんな命がけの戦いに連れ出されている。
同情はするぜ?
だが世の中とは、得てして理不尽なものなのだ。
その中で、自分のしたいことを見失わずにいられるその精神の強さに、オレは敬意を表さざるを得ないと思う。
しかし、今の言葉、ザンザスが聞いたら、一体何と言うか。
アイツは、こんな綺麗事を聞かされることが、大嫌いなはずだ。

「ほざくな」

うんうん、確かにそんなことを言いそう……、ん?

「うわああ!!!」

何かが沢田綱吉を襲い、小柄な体が吹っ飛ばされる。
この攻撃、まさか!

「XANXUS!!!」

何でザンザスがいるんだ?
しかもどうやら、沢田綱吉のあの言葉を聞いていたと見える。
鋭いザンザスの眼光を受けてなお、睨み返す沢田に、奴の機嫌が急降下して行くのがわかる。
言葉を交わすごとに眉間のシワも増えていき、遂にはその手に憤怒の炎が灯る。

「ゔお゙ぉい!落ち着けザンザス!!下手に暴れたらこの勝負の意味が……、ぐっ!!?」

チェルベッロより先に、怒りに任せて攻撃するのを防ごうと、ザンザスの肩を揺さぶる。
その瞬間、顔面に向けて裏拳が飛んできた。

「オレはキレちゃいねぇ」

んなわけねぇだろ!!
オレじゃなけりゃ今頃顔面崩壊して死んでるぞ!
あぁっ!鼻血出てるし!!

「むしろ、楽しくなってきたぜ」

ザンザスの顔が歪む。
相も変わらず恐ろしい笑い顔である。
あの笑顔だけで人ひとり殺せそうだ。

「やっとわかったぜ、一時とはいえ9代目が貴様を選んだわけが……」

ザンザスは、沢田が9代目に似ているという。
ああ、確かに。
アイツは9代目と同じように、ザンザスを真っ直ぐに見詰めるくせに、その瞳の奥には、強い否定の色を宿している。
珍しく凄絶な笑みをその顔に張り付けて、ザンザスは深く重たい夜空を背負って立っている。
だがオレには、その笑いは、その姿は、酷く苦しそうに見えた。
本当に、笑ってんのかよ、お前は。

「おい、女。続けろ」
「はっ、では勝負の結果を発表します。今回の守護者対決は、沢田氏の妨害により、レヴィ・ア・タンの勝利とし、雷のリングならびに大空のリングはヴァリアー側のものとなります」

チェルベッロの言葉に、沢田側から反論が起こる。
守護者同士の真剣勝負を妨害したのだ。
リング没収は当然。
恨むんならあのガキを勝負に送り出した自分達を、沢田家光を恨むんだな。

「XANXUS様、リングです」

そして、大空のリングがザンザスの手に渡る。
これで、10代目の座は確約されたようなもの。
だが、それでは足りない。

「お前を殺るのはリング争奪戦で本当の絶望を味わわせてからだ。あの老いぼれのようにな」

今なお、モスカの中で生命エネルギーを搾取され続けている9代目。
このリング戦の雲の対決のその時に、彼の命は尽きることになるだろう。
XANXUSの言葉に、家光とリボーンが俄に殺気立つ。

「XANXUS!!貴様!!9代目に何をした!!」
「ぶはっ!それを調べるのがおまえの仕事だろ?門外顧問!」

最悪の事態を思い浮かべたのだろう。
顔を青くする家光に、思わず嘲笑が漏れた。
前と全然変わらねえ。
動いた時には、もう全てが手遅れだ。
きっと家光は、真相を確かめるためにイタリアに飛ぶ。
そしてその間に、こちらでは決着がつく。

「喜べモドキども、おまえらにはチャンスをやったんだ。残りの勝負も全て行い、万が一おまえらが勝ち越すようなことがあれば、ボンゴレリングもボスの地位も、全てくれてやる。……だが負けたら、おまえの大切なもんはすべて……、消える……」
「大切なもの、全て……!?」
「せいぜい見せてみろ。あの老いぼれが惚れこんだ力を」

ザンザスに命令され、チェルベッロが次の対戦カードを発表する。

「明日の対戦は、嵐の守護者対決です」

ベルの笑みが深くなる。
ヴァリアー一の天才であるベルなら、余計な心配は要らねえだろう。

「ベルか……、悪くねぇ……」

ザンザスも納得の表情をしていた。

「ボス、雷のリングだ。納めてくれ」
「いらねえ。次に醜態をさらしてみろ」
「死にます」

レヴィを蔑ろに扱い、そのままコートを翻して帰っていくザンザスの後に付いていく。
校舎の屋上からは、牛のガキに駆け寄り心配する声が聞こえる。
なんとも後味悪く、雷のリング戦は終わった。
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