終章・群青の鮫

「なるほど確かに、それならばあの出鱈目な装置は破壊できるだろう。成長している、というのも、確かだな」
「そんな!じゃあ対処が遅れたら……」
「下手をすれば、一般人も無差別に巻き込むことになりますね」
「……皆さん、私は……」
「ユニ、お前が何を言いたいのか、わかってる……」
「おじさま……」
「オレ達も、付き合うぞ」
「丁度、各地にアルコバレーノが一人ずついるな、コラ」
「お、オレもやるのか!?」
「僕もかい!?」
「ゴタゴタ言うな。それに、死ぬ気でやれば生きて帰れるかもしれねーぞ」
「マーモン、スカル、お願いします」
「ふ、風まで……!」
「僕は絶対に死にたくない……!生きて……帰るからねっ!!」
「お、オレ様もだ!!」
「皆さん……!ありがとう、ございます……!」
「ふん、自分はもう、十分生きた。次は死を研究してみるのも悪くないだろう。だが、我々アルコバレーノは7人。残りの2つはどうする?それにユニ、お前一人でブラックホールまで辿り着けるのか?」
「1つは、オレが壊す」
「スクアーロさん……、でも……!」
「やらせてくれ、……頼む」
「敵討ち、か?」
「……それも、ある。だが、それよりも……目の前で、あんな風に死なれるのは……もう、嫌だ」
「スクアーロさん……わかりました。ではイタリアのもう1つの装置をお願いします!!」
「わかった」
「クフフ、ラスト1つの装置は、僕が承りましょう」
「な、お前……骸!?」
「実験体を見て心が痛んだのか?」
「おじさま!!」
「クフフ、心が痛む?ご冗談を……。僕はただ、にっくき者共への制裁に、力を貸してやろうと、気紛れに思い立っただけですよ」
「気紛れに、死ぬかもしれない……いや、死ぬ可能性の方が大きいような事をすんのか、コラ?」
「なに、死んだところで、また巡るだけです……」
「なら、ユニちゃんのことは僕に任せてよ♪責任を持って、必ず装置の元まで運んであげるよ」
「白蘭……!」
「全員、揃ったな……」
「決行は、イタリアの深夜零時頃、としようか。それから、各々死ぬ気弾を持っていってくれ。ブラックホールに入った直後に、その弾に命の炎を注ぎ込めば、瞬時に吸収し、爆発的な炎を産み出してくれるだろう」
「それじゃあ、」

また……。



 * * *



そんな会話をしたのが、ほんの数時間前だなんて、信じられない。
襲い掛かってくる実験体達を捌きながら、スクアーロはブラックホールに近付いていた。
今は、深夜11時59分。
ブラックホールの前で立ち止まると、その中心がキラリと光った。
ああ、来る。
そう思った瞬間。
自分の体を黒い光が包んだ。
今の時間は、午前0時ジャスト。
スクアーロは、右手に握っていた死ぬ気弾に、命の炎を注ぎ込む。
真っ青な炎が、黒一色の空間を侵食していき、かなり遠くに見えるブラックホールの輪を飲み込んでいった。
真っ青な炎には、時折、赤や藍色が混ざっている。
混ざった色はぶつかり合い、時には銀に、時には群青色に輝いている。
黒一色だった空間は、もう全て、自身の命の炎に、埋め尽くされている。
そろそろ、出し尽くしてしまいそうだ。
もう、ブラックホールは壊れただろうか。
炎を出しすぎて、もう動くこともできないし、なんだか頭もぼんやりとする。
ちゃんと、壊れていたら、良いなぁ。
結局、自分は生きて戻れそうにもないけれど、他の者達はどうしただろう。
生きて帰れただろうか。

「でぃ、い……の……」

そうだ、ディーノ。
お前は、どうしているだろう。
今はまだ、寝ているだろうなぁ。
起きたら、手紙、読んでくれるだろうか。
手紙なんて滅多に書かないから、緊張するなぁ……。
ああ、ヴァリアーの奴らは、大丈夫かな。
ベル、泣くだろうか?
ふふ、もう良い歳なのに。
まだまだ、オレの前では子供のようだった。
でも、ベルも、他の奴も、安心して任せていけるくらい、強いから。
大丈夫、きっと、大丈夫。

「し……、ぁわ……せ、……だっ、た……なぁ……」

死んだら、どうなるのだろう。
地獄に行くのだろうか。
それとも、綺麗さっぱり、消滅してしまうのだろうか……。
スクアーロは、思考の渦に埋もれていく。
あ、最後に、マグロのカルパッチョ、食べれば良かったなぁ。
ああ、ザンザス、ほしい酒があるって……。
ディーノと、一緒に出掛ける約束、していたような……。
ああ……なんだか、とても、眠い……。
約束、破ることになっちゃうかなぁ。





そしてスクアーロは、眠りにつくように穏やかに、その身を死へと、落としていったのであった……。
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