終章・群青の鮫
「ゔお゙ぉい!!怯むなぁ!オレに続け!!」
イタリアの、木々が鬱蒼と茂る森の中。
ドスの聞いた声で怒号が飛ぶ。
それを受けて、黒服の男達が各々の武器を手に敵に襲い掛かった。
その間を、銀色の髪の人物が走る。
少し見ただけでは、年齢を推し測ることは難しい。
涼しげな切れ長の目も、しなやかな体捌きも、凛と張った声も、若々しさを感じるが、よく見れば目尻には少しシワがあったし、銀灰色の瞳には年齢を重ねた故の深い光が灯っている。
彼らはヴァリアー……、それを率いる銀色の人物は、その作戦隊長のスペルビ・スクアーロであった。
「隊長、予定通りボスの率いる小隊がC地点を通過!このまま約10分後に敵のアジトに突入!」
「少し急ぐぞぉ」
「はっ!」
言葉の通り、彼らの走るスピードが上がる。
敵のアジトは、目前に迫っていた。
* * *
今から二十数年前、当時中学2年生だった沢田綱吉は、正式にボンゴレ10世襲名を辞退した。
それを受け9世は、大マフィアボンゴレの解体を決意。
それから10年近く時間を掛け、ボンゴレは解体された。
沢田綱吉は、9世の解体宣言の1年半後に新たな組織を立ち上げた。
名を、ボンゴレ綜合警備保障株式会社、通称・自警団ボンゴレ。
初めは綱吉の信頼する者達だけで組織したその会社は、表向きには名の通り、依頼を受けて人を警護する仕事をしていたが、世間に知られないところでは、沈黙の掟(オメルタ)を犯すマフィアを取り締まっていた。
元々、マフィアボンゴレの下部組織であったヴァリアーや、門外顧問組織の一部を吸収し、ボンゴレ傘下であったキャバッローネの助力を得て、自警団ボンゴレは最小限の被害で、荒れた裏社会を取り締まった、と、言われている。
そして、現在、彼らはとある組織と敵対している。
奴らは自警団ボンゴレにも勝る技術力を以て、裏社会を再び混乱の渦へと落とし込むべく、死をも恐れぬ軍団を率い、襲撃を開始したのである。
世界中の全10ヶ所。
かつてアルコバレーノと呼ばれた、選ばれし7人(イ・プレシェルティ・セッテ)、ヴァリアー、ミルフィオーレ、風紀財団、六道一味、キャバッローネファミリーまでを巻き込み、その戦いは激化の一途を辿っていた。
その10ヶ所の戦地の内の1つ、最も激しい戦闘を繰り広げている、イタリアのとある森。
敵が待ち構えるアジトに向かい、ヴァリアーの精鋭達はその鍛え抜かれた技を、思う存分に振るっていた。
その中心地、アジトの最奥で、ヴァリアーのボスXANXUSと、作戦隊長であるスクアーロは、背中合わせになり、戦っていた。
襲い掛かってくるのは、生気の無い目をした『実験体』達。
敵組織によって洗脳され、肉体改造を受け、ただ命令通りに戦うだけの、戦闘人形。
彼らは強い。
だが、ヴァリアーのトップ二人にとっては、敵ではなかった。
真に恐ろしいモノは、実験体達の群れの、その更に奥にある。
「来るぞぉ!」
「チッ!カスが!!」
二人同時に左右に分かれる。
その直後、二人の元居た場所を、空を貫き、黒い光が襲った。
逃げ損ねた実験体が数人、その光に飲み込まれる。
その光が消えた時、そこには人影の1つも残っていなかった。
吸い込んでいるのだ、人間を。
その光の発生源には、厳つい機械群と、その上空に聳え立つ大きな輪があった。
輪の中は、ただただ黒一色しか存在せず、まるで光すらも吸収するブラックホールのようであった。
そのブラックホールの中心から、真っ黒な光線が放射される。
それが放射された後、時おり黒一色の中に肌色が見える。
その光に襲われた者が、吸い込まれた先が、そのブラックホールの中なのだ。
その光は、一度放射されると、エネルギーの充填に時間がかかり、その為二人はまだ余裕を保っていたが、そのブラックホールは、武器で攻撃しても、死ぬ気の炎で攻撃しても、中に爆弾を投げ込んでも、ヒビ一つ入らなかった。
効かない攻撃、押し寄せる戦闘人形達、その二つが、二人の体力と精神力を削る。
二人の無線と、スクアーロの持った小型カメラを通して、科学班が解析を進めているが、そのブラックホールを壊す方法は一向に見付からなかった。
「ゔお゙ぉい、まだ、保つかぁ?」
「うるせぇぞドカス、この程度でバテるほど、老いちゃいねぇ」
「本当かぁ?右手の義手、ボロボロじゃねぇか」
「カスザメ、テメーこそ、左手の義手はどこにやった?」
「……チッ、やべぇな、マジで」
「しゃべる余裕があるなら、黙って攻撃を続けろ」
「わかってる」
再び背中合わせになりながら、皮肉混じりに会話を交わす。
どれくらいの時間、戦い続けているだろう?
二人とも、ボロボロだった。
心なしか、ブラックホールから光が放射されるまでの時間が短くなってきているような、気がする。
スクアーロが苛立ち混じりに目の前の男を蹴り飛ばした時だった。
ブラックホールの中心がチカリと光る。
あの黒い光が、来る。
「逃げ……ガッ!?」
「カスッ……!」
光から逃げようとした時に、死角から頭を殴られた。
逃げ遅れた、もう……間に合わない。
ブラックホールが光るのを見て、スクアーロは死を覚悟する。
だが突然、襟を強く引かれた。
視界が一回転し、遠くの地面に背中を強かに打ち付けた。
ハッと身を起こし、黒い光の先を見た。
一瞬、そこにザンザスの姿が見えた、ような気がする。
音もなく、光はスクアーロが元居た場所を貫き、ポッカリと人の群れの中に穴が開く。
自分の横に何かが落ちて、茫然としたまま、スクアーロはそれを見る。
それは、ザンザスがいつも使っていた2丁拳銃の内の1丁だった。
その隣には、いつもザンザスが身に付けていた羽根の耳飾りが落ちている。
ブラックホールに目を向けると、そこに小さな肌色が見えた。
「……ざ」
スクアーロが口を開いた、その瞬間。
ブラックホールの中から、真っ赤な炎が溢れ出した。
憤怒の炎だ。
変に冷えた頭で、分析する。
普通の炎じゃない。
量も、質も、異常だ。
ブラックホールが、中心から真っ赤に染まっていく。
溢れる憤怒の炎が、機械を包み込んでいく。
「なっ!隊長!!何をぼうっとしているんですか!?あれは……、兎に角早く逃げないと!!」
腕を引かれた。
異変を感じ、敵を無理矢理押し退けて、何とかここまで駆け付けた部下だった。
逃げる、なんて、何を言っているのだろう。
ザンザスが、まだ中にいるのに。
グイグイと腕を引かれる。
赤い炎が、更に大きくなる。
もうブラックホールは見えない。
ズルズルと体を引き摺られる。
咄嗟に、落ちていた拳銃と、耳飾りを取る。
無くしたら、きっとザンザスは怒るだろうから。
真っ赤な炎は、ごうごうと燃え上がり、スクアーロがそこから遠ざかり、ヴァリアー隊員達に保護されたその瞬間、爆発した。
「ざん、ざす……?」
爆発に巻き込まれた実験体達の肉片が飛んできて、べちゃべちゃと床を汚す。
血と肉塊の中、スクアーロの声は彼の人には届かず、埋もれて消えた。
イタリアの、木々が鬱蒼と茂る森の中。
ドスの聞いた声で怒号が飛ぶ。
それを受けて、黒服の男達が各々の武器を手に敵に襲い掛かった。
その間を、銀色の髪の人物が走る。
少し見ただけでは、年齢を推し測ることは難しい。
涼しげな切れ長の目も、しなやかな体捌きも、凛と張った声も、若々しさを感じるが、よく見れば目尻には少しシワがあったし、銀灰色の瞳には年齢を重ねた故の深い光が灯っている。
彼らはヴァリアー……、それを率いる銀色の人物は、その作戦隊長のスペルビ・スクアーロであった。
「隊長、予定通りボスの率いる小隊がC地点を通過!このまま約10分後に敵のアジトに突入!」
「少し急ぐぞぉ」
「はっ!」
言葉の通り、彼らの走るスピードが上がる。
敵のアジトは、目前に迫っていた。
* * *
今から二十数年前、当時中学2年生だった沢田綱吉は、正式にボンゴレ10世襲名を辞退した。
それを受け9世は、大マフィアボンゴレの解体を決意。
それから10年近く時間を掛け、ボンゴレは解体された。
沢田綱吉は、9世の解体宣言の1年半後に新たな組織を立ち上げた。
名を、ボンゴレ綜合警備保障株式会社、通称・自警団ボンゴレ。
初めは綱吉の信頼する者達だけで組織したその会社は、表向きには名の通り、依頼を受けて人を警護する仕事をしていたが、世間に知られないところでは、沈黙の掟(オメルタ)を犯すマフィアを取り締まっていた。
元々、マフィアボンゴレの下部組織であったヴァリアーや、門外顧問組織の一部を吸収し、ボンゴレ傘下であったキャバッローネの助力を得て、自警団ボンゴレは最小限の被害で、荒れた裏社会を取り締まった、と、言われている。
そして、現在、彼らはとある組織と敵対している。
奴らは自警団ボンゴレにも勝る技術力を以て、裏社会を再び混乱の渦へと落とし込むべく、死をも恐れぬ軍団を率い、襲撃を開始したのである。
世界中の全10ヶ所。
かつてアルコバレーノと呼ばれた、選ばれし7人(イ・プレシェルティ・セッテ)、ヴァリアー、ミルフィオーレ、風紀財団、六道一味、キャバッローネファミリーまでを巻き込み、その戦いは激化の一途を辿っていた。
その10ヶ所の戦地の内の1つ、最も激しい戦闘を繰り広げている、イタリアのとある森。
敵が待ち構えるアジトに向かい、ヴァリアーの精鋭達はその鍛え抜かれた技を、思う存分に振るっていた。
その中心地、アジトの最奥で、ヴァリアーのボスXANXUSと、作戦隊長であるスクアーロは、背中合わせになり、戦っていた。
襲い掛かってくるのは、生気の無い目をした『実験体』達。
敵組織によって洗脳され、肉体改造を受け、ただ命令通りに戦うだけの、戦闘人形。
彼らは強い。
だが、ヴァリアーのトップ二人にとっては、敵ではなかった。
真に恐ろしいモノは、実験体達の群れの、その更に奥にある。
「来るぞぉ!」
「チッ!カスが!!」
二人同時に左右に分かれる。
その直後、二人の元居た場所を、空を貫き、黒い光が襲った。
逃げ損ねた実験体が数人、その光に飲み込まれる。
その光が消えた時、そこには人影の1つも残っていなかった。
吸い込んでいるのだ、人間を。
その光の発生源には、厳つい機械群と、その上空に聳え立つ大きな輪があった。
輪の中は、ただただ黒一色しか存在せず、まるで光すらも吸収するブラックホールのようであった。
そのブラックホールの中心から、真っ黒な光線が放射される。
それが放射された後、時おり黒一色の中に肌色が見える。
その光に襲われた者が、吸い込まれた先が、そのブラックホールの中なのだ。
その光は、一度放射されると、エネルギーの充填に時間がかかり、その為二人はまだ余裕を保っていたが、そのブラックホールは、武器で攻撃しても、死ぬ気の炎で攻撃しても、中に爆弾を投げ込んでも、ヒビ一つ入らなかった。
効かない攻撃、押し寄せる戦闘人形達、その二つが、二人の体力と精神力を削る。
二人の無線と、スクアーロの持った小型カメラを通して、科学班が解析を進めているが、そのブラックホールを壊す方法は一向に見付からなかった。
「ゔお゙ぉい、まだ、保つかぁ?」
「うるせぇぞドカス、この程度でバテるほど、老いちゃいねぇ」
「本当かぁ?右手の義手、ボロボロじゃねぇか」
「カスザメ、テメーこそ、左手の義手はどこにやった?」
「……チッ、やべぇな、マジで」
「しゃべる余裕があるなら、黙って攻撃を続けろ」
「わかってる」
再び背中合わせになりながら、皮肉混じりに会話を交わす。
どれくらいの時間、戦い続けているだろう?
二人とも、ボロボロだった。
心なしか、ブラックホールから光が放射されるまでの時間が短くなってきているような、気がする。
スクアーロが苛立ち混じりに目の前の男を蹴り飛ばした時だった。
ブラックホールの中心がチカリと光る。
あの黒い光が、来る。
「逃げ……ガッ!?」
「カスッ……!」
光から逃げようとした時に、死角から頭を殴られた。
逃げ遅れた、もう……間に合わない。
ブラックホールが光るのを見て、スクアーロは死を覚悟する。
だが突然、襟を強く引かれた。
視界が一回転し、遠くの地面に背中を強かに打ち付けた。
ハッと身を起こし、黒い光の先を見た。
一瞬、そこにザンザスの姿が見えた、ような気がする。
音もなく、光はスクアーロが元居た場所を貫き、ポッカリと人の群れの中に穴が開く。
自分の横に何かが落ちて、茫然としたまま、スクアーロはそれを見る。
それは、ザンザスがいつも使っていた2丁拳銃の内の1丁だった。
その隣には、いつもザンザスが身に付けていた羽根の耳飾りが落ちている。
ブラックホールに目を向けると、そこに小さな肌色が見えた。
「……ざ」
スクアーロが口を開いた、その瞬間。
ブラックホールの中から、真っ赤な炎が溢れ出した。
憤怒の炎だ。
変に冷えた頭で、分析する。
普通の炎じゃない。
量も、質も、異常だ。
ブラックホールが、中心から真っ赤に染まっていく。
溢れる憤怒の炎が、機械を包み込んでいく。
「なっ!隊長!!何をぼうっとしているんですか!?あれは……、兎に角早く逃げないと!!」
腕を引かれた。
異変を感じ、敵を無理矢理押し退けて、何とかここまで駆け付けた部下だった。
逃げる、なんて、何を言っているのだろう。
ザンザスが、まだ中にいるのに。
グイグイと腕を引かれる。
赤い炎が、更に大きくなる。
もうブラックホールは見えない。
ズルズルと体を引き摺られる。
咄嗟に、落ちていた拳銃と、耳飾りを取る。
無くしたら、きっとザンザスは怒るだろうから。
真っ赤な炎は、ごうごうと燃え上がり、スクアーロがそこから遠ざかり、ヴァリアー隊員達に保護されたその瞬間、爆発した。
「ざん、ざす……?」
爆発に巻き込まれた実験体達の肉片が飛んできて、べちゃべちゃと床を汚す。
血と肉塊の中、スクアーロの声は彼の人には届かず、埋もれて消えた。