鮫、目覚め
「……なんか、拍子抜けしちまったな」
「……そうだなぁ」
階段を下り、玄関に向かいながら、二人はため息混じりにそんな会話を交わしていた。
ラスボスと思われたギーグの暗殺部隊隊長は逃げ、同時に毒ガス使いも姿を消してしまい、煮えきらない結果を残したまま、突然の対ギーグ戦は終わったのであった。
考え込んだままの様子のスクアーロは、返事もお座なりで、会話は途切れがちである。
ほぼ一方的に、ディーノが話し掛けているだけで、スクアーロが自主的に話し掛けることはほとんどない。
ただずっと、難しい顔をして考え込み続けていた。
「スクアーロ、まだなんか心配なことがあるのか?」
「……ギーグが、よくわからねぇ」
「ギーグが?」
キレた様子の女、それに反して直ぐに逃げようとしたトラップ専門の男。
そして姿を消した隊長と毒ガス使い。
弱すぎるスナイパーにしても、何となく得心がいかない。
ギーグがこんなものなのか?
だいたい、恨んでいたにも関わらず、この程度で退散するなんて、不自然だ……。
「閉じ込めてから毒ガスが入れられるまでに、だいぶ時間が空いていたことも気になる。まるで奴ら、オレ達を殺す気がないようにさえ思える」
「どういうことだ?あいつらはお前のこと殺しに来たっつってたのに……」
「この屋敷に何か、例えば『罪』のような価値のあるものがあって、それを狙ってるっつーんならわかる」
「オレ達を引き付けて盗み出せるな。でもここにそんなのはねーし、なら……ボンゴレを狙ってるっ、ていう意思表示、とか?」
「そんならもっとでけぇ標的狙う。オフの構成員狙うより、ボンゴレの本拠地に爆弾でも投げ込むなりなんなりすりゃいい」
1階分階段を下り、いまだ気絶しているスナイパーを回収する。
下にいるトラップ男も連れ、更に降りて女も回収した。
「ギーグとボンゴレとは、少なからず親交があった。いくらオレが弱っていると聞いていたって、オレの実力もわかっていたはずだし、キャバッローネのボスであるお前もいるのに、なぜこんな捨て身にも思える襲撃をしたのか……」
「うーん……確かに不自然だよな」
「なあおい、トラップ野郎、テメーなんか知らねぇのかぁ?」
「ヒッ!!オレはさっき話したこと以外何にも知らねぇって!!」
チッ!と舌打ちの音が聞こえ、男がビクビクと肩を震わせる。
そんなに怖いのか……いや、怖いけど。
玄関に出たところで、気絶している二人を地面に置く。
そこでやっと携帯を取り出す。
屋敷の中では圏外になってしまい、庭より外に出なければ使えないのだ。
3人を一所に置き、スクアーロは彼らを受け取りに来るよう、ヴァリアーに電話を掛けようとした。
「あ?繋がらねぇな」
「電波入らねぇのか?」
「ああ」
ディーノが近付き、自分の携帯を開く。
確かに、電波が入っていない。
もう少し前に出れば入るだろうか?
ディーノは一歩、庭に足を踏み出した。
「……っ!跳ね馬ぁ!!」
「え……?」
どこからともなく、筒が投げ付けられる。
地面に当たり弾けた筒から、モウモウと煙が噴き出すより早く、ディーノは背中を強く押され突き飛ばされる。
頬に擦り傷をつけ、ディーノが慌てて起き上がると、煙の中からヨロヨロと出てくるスクアーロが見えた。
「スクアーロ!おい!!」
「グッ、ゲホッ!!カハッ!!」
煙を吸ったらしい。
フラフラと覚束無い足取りのスクアーロの肩を抱いて支え、キッと周囲を見渡す。
今の煙、間違いなく毒ガス使いの仕業だ。
だが姿はどこにもなく、気配もない。
しかしすぐに、二人を異常な様子の笑い声が取り囲んだ。
「クヒャハハハハハ!!ざまあみろ!天下のボンゴレ直属独立暗殺部隊隊長様々が!不様な格好しちまってまあ!」
「テメー!どこだ!どこにいる!?」
「てめぇにわかるかよぉ!オレ様は霧の術士だぜぇ?簡単に見付かるわけがねぇ!」
「ぐ……、跳ね馬、テメーの、右、だあ!」
「なにぃ!?」
スクアーロは袖からナイフを出して振るう。
パッと血が飛んだ。
ホンの僅かに、切りつけることが出来たらしい。
「クソッ!!何故わかった!それ以前に、何故動ける!!テメーには新開発の毒ガス吸わせたんだぞ!2mの巨体でも半日は動けなくなる毒だ!化けモンかテメー!?」
「はっ……!化けモン、上等……!悪いがぁ……、こちとら毒も幻術も、効きづれぇ仕様、だぁ……!!」
「グハハッ、やっぱりてめぇ、気持ち悪いぜぇ……」
ガクガクと膝が震えている。
体が悲鳴を上げているのがわかる。
スクアーロはナイフを構えて立ちながら、肘でディーノを後ろに押して庇う。
本当は幻術が効きづらいなんて、嘘だ。
殺気とか、微妙な違和感、後は勘で攻撃しているだけ。
だが、例え嘘を吐いてでも、戦わなくては。
自分のせいで巻き込んだ。
自分が、守らなければならない。
「グヒヒハハ、だがよぉ、もう立ってるだけでもだーいぶ辛いんじゃねーのか?おい!この化けモンにお前の自慢の毒をプレゼントしてやれぇ!」
「クッ!」
今度はガスではなく、吹き矢のようなものが飛んでくる。
今度の毒こそ、マジでヤバい。
ナイフ一本で吹き矢を防ぎ、抵抗を続ける。
このままでは体力は削られるばかりで、直に、毒で倒れて殺される。
「ほらほらほらぁ!早くオレ達を倒さないとお前死んじゃうぜ?あー大変!どうしよう!」
「っ!」
突然、石礫がスクアーロを襲った。
それを弾いた時、大きな隙ができる。
吹き矢が、視界の端に映る。
だがそれを防ぐのには、体制的に、少し間に合わない……。
やられる……!
そう思った瞬間、体が後ろに引っ張られた。
「なっ……!跳ね、馬……?」
「この、」
「助かっ」
「この!バカ!」
「は!?」
スクアーロを引っ張ったのは、勿論ディーノで、だがスクアーロを助けたディーノは、スクアーロの胸ぐらを掴んで怒鳴り付けた。
呆然とするスクアーロの前に立ち、ディーノは己の得物を構え、叫んだ。
「なに全部一人でやろうとしてんだよ!オレはへなちょこかもしんねーが!それでも、たまには素直に頼れ!!」
「……っプー!うっけるー!お前ら青春しちゃってんのね!やだなあきっしょくワル!てか、そんな化けモン守ってどーすんのぉ?あんたキャバッローネのだろ?グヒヒ、守ったところで、得なんか一つもないぜー?」
「うるせぇよ」
遠くで小さく爆発音が響く。
ディーノは大きく、息を吸い込んだ。
* * *
「……おい!ボスがどうしたってんだ!?」
「ナイスタイミングです、ロマーリオさん!すぐに白蘭がバリア装置を壊します!バリアが解け次第、中に突入して下さい!」
「は?」
ヴァリアーに遅れ数10分後、呼ばれてきたロマーリオが到着したとき、その場は酷く慌ただしくなっていた。
訳もわからないまま、ヴァリアーメンバーと同じ車に乗せらる。
近くから、大空の炎と、大きな爆発音が聞こえてきて、同時に車が発車する。
「バリアは消えたわねん!」
「しし!行くぜ!」
「どこにだ!?」
車は直ぐに門を抜けて、庭を走る。
走ったその先、玄関の前に、二人の人影が見えた……。
いや、二人だけではない。
「ム、幻術で隠れてるけど、あともう二人いるよ!」
「ボス!」
マーモンが手を伸ばし、敵の幻術を解く。
ロマーリオの叫び声は、ディーノには届いたのだろうか。
ディーノは突然姿を現した敵に、鞭を振るい、叫んだ。
「好きな女守ることに、損得なんざ関係ねぇだろうが!」
敵の術士が、ディーノの鮮やかな鞭裁きの前に倒される。
キッと止まった車の中で、ベルがポカンと呟いた。
「オー、マイ、ゴッド……」
神も仏も信じてはいないだろうベルの言葉は、彼らの耳にとても滑稽に響いたのだった。
「……そうだなぁ」
階段を下り、玄関に向かいながら、二人はため息混じりにそんな会話を交わしていた。
ラスボスと思われたギーグの暗殺部隊隊長は逃げ、同時に毒ガス使いも姿を消してしまい、煮えきらない結果を残したまま、突然の対ギーグ戦は終わったのであった。
考え込んだままの様子のスクアーロは、返事もお座なりで、会話は途切れがちである。
ほぼ一方的に、ディーノが話し掛けているだけで、スクアーロが自主的に話し掛けることはほとんどない。
ただずっと、難しい顔をして考え込み続けていた。
「スクアーロ、まだなんか心配なことがあるのか?」
「……ギーグが、よくわからねぇ」
「ギーグが?」
キレた様子の女、それに反して直ぐに逃げようとしたトラップ専門の男。
そして姿を消した隊長と毒ガス使い。
弱すぎるスナイパーにしても、何となく得心がいかない。
ギーグがこんなものなのか?
だいたい、恨んでいたにも関わらず、この程度で退散するなんて、不自然だ……。
「閉じ込めてから毒ガスが入れられるまでに、だいぶ時間が空いていたことも気になる。まるで奴ら、オレ達を殺す気がないようにさえ思える」
「どういうことだ?あいつらはお前のこと殺しに来たっつってたのに……」
「この屋敷に何か、例えば『罪』のような価値のあるものがあって、それを狙ってるっつーんならわかる」
「オレ達を引き付けて盗み出せるな。でもここにそんなのはねーし、なら……ボンゴレを狙ってるっ、ていう意思表示、とか?」
「そんならもっとでけぇ標的狙う。オフの構成員狙うより、ボンゴレの本拠地に爆弾でも投げ込むなりなんなりすりゃいい」
1階分階段を下り、いまだ気絶しているスナイパーを回収する。
下にいるトラップ男も連れ、更に降りて女も回収した。
「ギーグとボンゴレとは、少なからず親交があった。いくらオレが弱っていると聞いていたって、オレの実力もわかっていたはずだし、キャバッローネのボスであるお前もいるのに、なぜこんな捨て身にも思える襲撃をしたのか……」
「うーん……確かに不自然だよな」
「なあおい、トラップ野郎、テメーなんか知らねぇのかぁ?」
「ヒッ!!オレはさっき話したこと以外何にも知らねぇって!!」
チッ!と舌打ちの音が聞こえ、男がビクビクと肩を震わせる。
そんなに怖いのか……いや、怖いけど。
玄関に出たところで、気絶している二人を地面に置く。
そこでやっと携帯を取り出す。
屋敷の中では圏外になってしまい、庭より外に出なければ使えないのだ。
3人を一所に置き、スクアーロは彼らを受け取りに来るよう、ヴァリアーに電話を掛けようとした。
「あ?繋がらねぇな」
「電波入らねぇのか?」
「ああ」
ディーノが近付き、自分の携帯を開く。
確かに、電波が入っていない。
もう少し前に出れば入るだろうか?
ディーノは一歩、庭に足を踏み出した。
「……っ!跳ね馬ぁ!!」
「え……?」
どこからともなく、筒が投げ付けられる。
地面に当たり弾けた筒から、モウモウと煙が噴き出すより早く、ディーノは背中を強く押され突き飛ばされる。
頬に擦り傷をつけ、ディーノが慌てて起き上がると、煙の中からヨロヨロと出てくるスクアーロが見えた。
「スクアーロ!おい!!」
「グッ、ゲホッ!!カハッ!!」
煙を吸ったらしい。
フラフラと覚束無い足取りのスクアーロの肩を抱いて支え、キッと周囲を見渡す。
今の煙、間違いなく毒ガス使いの仕業だ。
だが姿はどこにもなく、気配もない。
しかしすぐに、二人を異常な様子の笑い声が取り囲んだ。
「クヒャハハハハハ!!ざまあみろ!天下のボンゴレ直属独立暗殺部隊隊長様々が!不様な格好しちまってまあ!」
「テメー!どこだ!どこにいる!?」
「てめぇにわかるかよぉ!オレ様は霧の術士だぜぇ?簡単に見付かるわけがねぇ!」
「ぐ……、跳ね馬、テメーの、右、だあ!」
「なにぃ!?」
スクアーロは袖からナイフを出して振るう。
パッと血が飛んだ。
ホンの僅かに、切りつけることが出来たらしい。
「クソッ!!何故わかった!それ以前に、何故動ける!!テメーには新開発の毒ガス吸わせたんだぞ!2mの巨体でも半日は動けなくなる毒だ!化けモンかテメー!?」
「はっ……!化けモン、上等……!悪いがぁ……、こちとら毒も幻術も、効きづれぇ仕様、だぁ……!!」
「グハハッ、やっぱりてめぇ、気持ち悪いぜぇ……」
ガクガクと膝が震えている。
体が悲鳴を上げているのがわかる。
スクアーロはナイフを構えて立ちながら、肘でディーノを後ろに押して庇う。
本当は幻術が効きづらいなんて、嘘だ。
殺気とか、微妙な違和感、後は勘で攻撃しているだけ。
だが、例え嘘を吐いてでも、戦わなくては。
自分のせいで巻き込んだ。
自分が、守らなければならない。
「グヒヒハハ、だがよぉ、もう立ってるだけでもだーいぶ辛いんじゃねーのか?おい!この化けモンにお前の自慢の毒をプレゼントしてやれぇ!」
「クッ!」
今度はガスではなく、吹き矢のようなものが飛んでくる。
今度の毒こそ、マジでヤバい。
ナイフ一本で吹き矢を防ぎ、抵抗を続ける。
このままでは体力は削られるばかりで、直に、毒で倒れて殺される。
「ほらほらほらぁ!早くオレ達を倒さないとお前死んじゃうぜ?あー大変!どうしよう!」
「っ!」
突然、石礫がスクアーロを襲った。
それを弾いた時、大きな隙ができる。
吹き矢が、視界の端に映る。
だがそれを防ぐのには、体制的に、少し間に合わない……。
やられる……!
そう思った瞬間、体が後ろに引っ張られた。
「なっ……!跳ね、馬……?」
「この、」
「助かっ」
「この!バカ!」
「は!?」
スクアーロを引っ張ったのは、勿論ディーノで、だがスクアーロを助けたディーノは、スクアーロの胸ぐらを掴んで怒鳴り付けた。
呆然とするスクアーロの前に立ち、ディーノは己の得物を構え、叫んだ。
「なに全部一人でやろうとしてんだよ!オレはへなちょこかもしんねーが!それでも、たまには素直に頼れ!!」
「……っプー!うっけるー!お前ら青春しちゃってんのね!やだなあきっしょくワル!てか、そんな化けモン守ってどーすんのぉ?あんたキャバッローネのだろ?グヒヒ、守ったところで、得なんか一つもないぜー?」
「うるせぇよ」
遠くで小さく爆発音が響く。
ディーノは大きく、息を吸い込んだ。
* * *
「……おい!ボスがどうしたってんだ!?」
「ナイスタイミングです、ロマーリオさん!すぐに白蘭がバリア装置を壊します!バリアが解け次第、中に突入して下さい!」
「は?」
ヴァリアーに遅れ数10分後、呼ばれてきたロマーリオが到着したとき、その場は酷く慌ただしくなっていた。
訳もわからないまま、ヴァリアーメンバーと同じ車に乗せらる。
近くから、大空の炎と、大きな爆発音が聞こえてきて、同時に車が発車する。
「バリアは消えたわねん!」
「しし!行くぜ!」
「どこにだ!?」
車は直ぐに門を抜けて、庭を走る。
走ったその先、玄関の前に、二人の人影が見えた……。
いや、二人だけではない。
「ム、幻術で隠れてるけど、あともう二人いるよ!」
「ボス!」
マーモンが手を伸ばし、敵の幻術を解く。
ロマーリオの叫び声は、ディーノには届いたのだろうか。
ディーノは突然姿を現した敵に、鞭を振るい、叫んだ。
「好きな女守ることに、損得なんざ関係ねぇだろうが!」
敵の術士が、ディーノの鮮やかな鞭裁きの前に倒される。
キッと止まった車の中で、ベルがポカンと呟いた。
「オー、マイ、ゴッド……」
神も仏も信じてはいないだろうベルの言葉は、彼らの耳にとても滑稽に響いたのだった。