鮫、目覚め

「ギーグファミリーだと!?」
「そ、そうだ!オレ達はギーグファミリーの中でも、精鋭を集めた殺し屋チームで……。だがこの間、ボンゴレの継承式の少し前に、シモンとか言うファミリーにうちのTOP3が殺された!うちの評判はがた落ちだし、おまけにあんたらボンゴレはそのシモンファミリーとやらには何にも罰を与えなかっただろ!?だからボスがぶちギレて!今、丁度弱体化してるって聞いた、アンタを殺すことになったんだ!!」
「何でスクアーロなんだよ!?」
「こ、コイツがシモンの無罪放免を伝えてきたからだろ!?その上ボンゴレでも相当の実力者で、コイツを落とせば大きな衝撃を与えることになるってボスは……」
「……なるほどな。わかった、が……オレが弱体化してるなんて情報どこから得た?ヴァリアーの最重要機密だぞ」
「し、知るか!!ボスしか知らねぇんだよ!」

素直すぎるほどにペラペラと話した、その男の表情を見るに、どうもこの男自身は、計画には乗り気ではなかったらしい。
逃げ出そうとしたくらいだ。
元々忠誠心も薄く、ファミリーの中でもボスに忠誠を誓った、なんて間柄ではなく、単なる一殺し屋としてギーグと契約を結んだ間柄、というところか。

「しかし、ギーグか……」

世界でも指折りの強豪マフィアだ。
下手に手を出せば必要以上に関係が拗れるし、だからと言って放っておけばまた殺しに来る事だろう。

「下の階にいた女、殺さなくて正解だったな……」

スクアーロがそうしてギーグファミリーの処遇を考えるなか、ディーノは隣で、ずっと俯いていた。
それに気付き、スクアーロは不思議そうに覗き込む。

「どうした?」
「スクアーロ、お前……なんでお前がギーグにシモンの無罪放免伝えに行ったんだ?ボンゴレの幹部が、やるべきなんじゃねーのか……?」
「オレもボンゴレの幹部みてぇなもんだろ。それに敵対ファミリーの討伐はオレの任務だったぁ。それにしくじってギーグの連中を死なせたんだ。その死の原因であるシモンの処遇をオレが伝えて、何かおかしいか?」
「でも、……それを言いに行ったとき、お前、平気だったのか?何にも、されなかったのか?」
「……少しのいざこざはあった。だがその場は何事もなく終わった」

淡々と答えるスクアーロとは逆に、ディーノは苦しそうに顔を歪める。
ギーグの恨み辛みが、スクアーロに向くように、まるで初めから仕掛けられていたようじゃないか。
その場では何もなかったと言っているが、結局今、スクアーロは命を狙われている。
スクアーロの言い分は納得できるところもあるが、そもそも敵の討伐を一人に任せること事態が異常だし、その人選ややらせ方には、悪意すら感じる。

「ギーグファミリー、どうするつもりなんだ?スクアーロ」
「とりあえず全員捕まえる。おい、全部で何人来ている」
「全部で5人だったはずだ……!オレ以外に、輪刀使う変な女と、スナイパーと、毒ガス使い、それに暗殺部隊の隊長が来てる!!な、なあ、オレがバラしたことは全部内密に……」
「んな都合の良いこと!」
「待て、跳ね馬。誰にも言ったりしねぇよ。だが暫くはてめぇはボンゴレで軟禁することになる。構わねぇなぁ?」
「も、もちろん!ああ!ボスとガス使いは最上階にいんだ!そんでスナイパーはこの上!あ、あんたのこと殺せなくて、本当によかった!!」
「っ……!」

ディーノは、なにも言えなくなり閉口する。
スクアーロのしていることは、なにも間違っちゃいない。
ボンゴレがスクアーロを好き勝手使っていることだって、かつてクーデターを起こした主犯格の待遇と考えれば、だいぶマシなんだろう。
それでも、素直に納得なんて出来なかったし、理解もできなかった。
ただ、自分が酷く惨めで、そしてそんな自分を置いて、スクアーロがどこか遠くへ行ってしまいそうな気がして、とても、怖かった……。
男を縛り、立ち上がって3階に向かおうとするスクアーロの左腕を、気付けばディーノは、がっしりと掴んでしまっていた。

「……?どうかしたか?」
「あ、……いやその、まだしばらく、掴んでても良いか……?」
「……構わねぇが……」

不思議そうな顔のスクアーロに、ぎこちなく笑いかけ、ディーノはその隣に並んだ。
次は3階……スナイパーのいる階である。



 * * *



「……って!スナイパー呆気な!!」

トラップ男を倒した、その約10分後、二人は目を回すスナイパーを見下ろし立っていた。
遠距離専門のスナイパーなのだから近接戦が不得意なのは十分予想していた。
だがあまりにも早く見つかったスナイパー、そして見付けたその一瞬後には既にスクアーロのドロップキックが決まり、スナイパーはあっという間に退場することになったのである。
ディーノがドジを踏む暇もないほどあっという間に、鮮やかに決まった勝敗。
スクアーロは不満げに、ぬるい、などと呟いているが、あんな鬼気迫る顔で入ってこられたら、誰だって一瞬動けなくなるだろう。
ディーノでさえ、ちょっと怖いと思ってしまう顔であったのだ。

「さて、次にやっと隊長だなぁ。あと、毒ガス使いもいたか……。気を付けて進むぞぉ」
「おう」

最上階への階段を上がりながら、スクアーロは気合いを入れ直す。
敵は目前、負ける気はしないが、気合いを入れて損はない。
だが、最上階についたところで、二人は異変に気が付いた。
最上階には、誰の気配も、ない。

「どこに……まさかっ!」
「チッ!窓から逃げたかぁ!!」

庭に面する窓を見下ろせば、太いロープが掛けられており、窓枠には靴跡が着いている。
あれだけ、恨んでるだの、殺されただのと煽っておいてこの様か、と言いたくなる、情けない結末。
近くには人の姿も見当たらず、二人は大きくため息を吐いたのだった。
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