鮫、目覚め
「顔真っ赤だぜ」
「う、うるせ……」
「声震えてるし」
「うるさい……!」
「スクアーロ可愛い」
「……っ!!」
お互いに好きだ、と言い合って、青臭い告白をして、その後スクアーロに抱き付いたディーノは、その真っ赤な頬に擦り寄った。
だが、からかい過ぎたのだろうか、スクアーロは怒ったように腕を振り切ると、立ち上がって屋敷に戻って行こうとする。
慌ててその腕を引いて引き留めながら、ディーノはスクアーロの隣に並ぶ。
「恥ずかしがってんのか?」
「んなんじゃねえ!」
「オレ達両想いなんだから、イチャイチャするくらい何でもねーだろ?」
「お前、ちょっと黙れ!……っ!?」
ディーノは掴んでいた腕をまた引っ張って、今度は正面からスクアーロを抱き締める。
引きかけていた熱がまた顔に集まってくるのを感じながら、スクアーロは必死でその腕から逃れようとした。
恥ずかしいし、何より真っ赤になった自分の顔を見られたくなかった。
ディーノは暴れるスクアーロをキツく抱き締めながら、優しくその背を撫でる。
「顔見られたくないなら、見ねーから」
「ぅ……なら、離せっ」
「それは、やだ」
スクアーロの後頭部に手を添えて、自分の肩に押し付ける。
真っ赤な顔は見えなくなったが、高い体温が布越しに伝わってきていた。
今度は固まって動かなくなったスクアーロの背に手を添える。
「な、スクアーロ。オレのこと、好き、ってことは、オレ達晴れて、恋人同士、ってことだよな」
「……それが、なんだよ」
「オレさ、まだスクアーロのこと、全然知らないな、って思って……。だから、これから、もっと、お前のことを教えてほしいんだ」
「オレの、こと……」
「好きなもの、好きなこと、嫌いなもの、嫌いなこと……。お前が見てきたもの、守ってきたもの、全部、全部を……」
背中に、指を這わせる。
米神に口づける。
そんなディーノの一挙一動に、ピクピクと肩を震わせて反応しながら、スクアーロは体を縮こまらせて、ディーノの服にしがみつく。
男に、こんな風に触られたことなんてなかったんだろう。
何から何まで、初めての経験。
こんな風に顔を赤くすることも、誰かの腕の中で体を震わすことも、今まで知らずに生きてきたはずだ。
この髪を撫でられるのも、その肌に触れられるのも、その唇に触れられるのも、自分だけで、他の誰もこの髪の柔らかさを、肌の滑らかさを、知らない。
その事に、酷く高揚感を覚える。
そしてこれから、もっとたくさん、スクアーロの初めてを貰っていくんだろう。
「スクアーロ」
「な……んだよ」
「キス、しても良い?」
「……」
肩に埋めていた顔をゆっくりと上げる。
その頬はまだ赤かったが、やっとその目が、ディーノの視線とかち合った。
ディーノは、その熱い頬に手を添える。
涙ぐむ瞳が、ディーノを映している。
スクアーロは、瞼を落とし、ディーノは、唇に近付いていき……
* * *
「きゃあー!キスしちゃいます!ついにお二人が結ばれちゃいます!!」
「やるねディーノクン……。このまま野外でヤっちゃ」
「白蘭様、僭越ながら申し上げますが。ご自重なさってください!子供が見ているでしょう!!」
「そんなことより、」
「そんなことより?バーロー、風テメー、このカオスがそんなことなのか?」
「あえてもう一度言いますが、そんなことより、この場所、確か誰かがトラップを仕掛けていませんでしたか?」
「……」
「……」
「……」
「……」
「……」
「……あ、僕チンだ」
「何を、仕掛けたのです?デイジー」
「えっとね、い、犬、だよ」
犬……?
全員の心の声が、途方もない疑問を抱いた。
なぜ、二人をくっ付けるための仕掛けが、……犬?
* * *
二人の唇が、重なりあう、その、直前。
「ワオーン!!」
「ガウッ!グルルルルッ!!」
「ガフッ!バウバウ!!」
ディーノの背後から、激しい犬の鳴き声が聞こえてきた。
「な、なんだ!?」
「なんだよ良いところだったのに!!」
スクアーロが驚き気味に、ディーノがキレ気味に振り替えると、何頭もの犬、しかも警察犬として活躍するような犬種であるシェパードが、二人に向かって吠えながら駆けてきていた。
牙を剥き出し、唾を散らしながら駆けてくる様子は恐ろしく、思わず二人の腰が退ける。
「なんで犬ぅ!?」
「理由はともかく、逃げた方が良いんじゃねえのか?」
「なんでスクアーロそんなに冷静なの!?」
「おい、来たぞ」
「うわっ!」
先頭の一匹がもう間近まで迫ってきている。
咄嗟にスクアーロの前に出て庇ったディーノに、ついに犬が飛び掛かった。
スクアーロはちゃっかり一歩下がって避けているが、ディーノはそれに気が付く間もなく犬に襲われて倒れた。
「わぎゃぁああ!!」
「ワオーン!!」
「ワフッ!!」
「ガウルルル!!」
「跳ね馬ぁ、生きてるかぁ?」
少し離れた所から、呑気に声を掛けながらスクアーロが様子を見ると、ディーノは色んな場所を犬に噛みつかれながら、頭を抱えて蹲っていた。
「いって!ぃいだだだだっ!!ス、スクアーロは逃げてろ!」
「いや、オレは平気だから」
アグアグと腕やら脚やらに噛み付かれているディーノを、少し苦笑い気味に見ながら、スクアーロは暴れる犬に向かって手を伸ばした。
一匹がそれに気付き、唸りながら牙や爪を剥き出してにじり寄っていく。
それに対して、スクアーロはただ一言言葉を放った。
「お座り」
「っ!……クゥーン」
叫んだわけでも、恐い顔をしていたわけでもないが、それを聞いた犬は、尻尾を股の間に挟んで、頭を下げた。
差し出された手をペロペロと舐める。
満足そうにその犬の頭を撫でたスクアーロは、他の犬も丁寧に引き離していく。
最終的に全部の犬が頭を垂れてスゴスゴと引き下がる中、助け出されたディーノは、呆然とその光景を眺めて言った。
「オレがお前のこと庇った意味って……」
「怪我ないか?」
「あ、はい。ちょっと擦った程度だぜ」
「見せてみろ」
落ち込むディーノにマイペースに話し掛けて怪我の有無を確認したスクアーロは、ディーノの手を取って怪我の様子を見る。
本人の言う通り、ただの掠り傷のようだ。
「……一応帰って、ちゃんと洗った方が良いだろうなぁ」
「ん?そうか?じゃあ屋敷帰ろうぜ」
そう言ってすたすた歩き出したディーノに手を掴まれて、引っ張られながら歩くスクアーロは、眉間にシワを寄せて考える。
今日、不自然にいなくなったユニ達。
そして先程の犬達の首には、首輪がつけられていた。
つまりあの犬達は飼い犬で、誰かの意思でここに連れてこられたと言うこと。
もし、自分達のことを狙う敵ならば、こんな回りくどいことはしないだろう。
これはもしかすると、彼らに一杯食わされたと言うことだろうか……。
白蘭やユニのことだ、これで終わりとは思えない。
スクアーロはごくりと生唾を飲む。
自分の前で『こんなところに野犬が出るなんてなー』なんて言っているバカは頼れない。
ただでさえへなちょこな訳だし。
自分がしっかりしなければ……!
スクアーロがそう決意をした時、遠くの車内では、デイジーが大バッシングを受けていたのであった。
「う、うるせ……」
「声震えてるし」
「うるさい……!」
「スクアーロ可愛い」
「……っ!!」
お互いに好きだ、と言い合って、青臭い告白をして、その後スクアーロに抱き付いたディーノは、その真っ赤な頬に擦り寄った。
だが、からかい過ぎたのだろうか、スクアーロは怒ったように腕を振り切ると、立ち上がって屋敷に戻って行こうとする。
慌ててその腕を引いて引き留めながら、ディーノはスクアーロの隣に並ぶ。
「恥ずかしがってんのか?」
「んなんじゃねえ!」
「オレ達両想いなんだから、イチャイチャするくらい何でもねーだろ?」
「お前、ちょっと黙れ!……っ!?」
ディーノは掴んでいた腕をまた引っ張って、今度は正面からスクアーロを抱き締める。
引きかけていた熱がまた顔に集まってくるのを感じながら、スクアーロは必死でその腕から逃れようとした。
恥ずかしいし、何より真っ赤になった自分の顔を見られたくなかった。
ディーノは暴れるスクアーロをキツく抱き締めながら、優しくその背を撫でる。
「顔見られたくないなら、見ねーから」
「ぅ……なら、離せっ」
「それは、やだ」
スクアーロの後頭部に手を添えて、自分の肩に押し付ける。
真っ赤な顔は見えなくなったが、高い体温が布越しに伝わってきていた。
今度は固まって動かなくなったスクアーロの背に手を添える。
「な、スクアーロ。オレのこと、好き、ってことは、オレ達晴れて、恋人同士、ってことだよな」
「……それが、なんだよ」
「オレさ、まだスクアーロのこと、全然知らないな、って思って……。だから、これから、もっと、お前のことを教えてほしいんだ」
「オレの、こと……」
「好きなもの、好きなこと、嫌いなもの、嫌いなこと……。お前が見てきたもの、守ってきたもの、全部、全部を……」
背中に、指を這わせる。
米神に口づける。
そんなディーノの一挙一動に、ピクピクと肩を震わせて反応しながら、スクアーロは体を縮こまらせて、ディーノの服にしがみつく。
男に、こんな風に触られたことなんてなかったんだろう。
何から何まで、初めての経験。
こんな風に顔を赤くすることも、誰かの腕の中で体を震わすことも、今まで知らずに生きてきたはずだ。
この髪を撫でられるのも、その肌に触れられるのも、その唇に触れられるのも、自分だけで、他の誰もこの髪の柔らかさを、肌の滑らかさを、知らない。
その事に、酷く高揚感を覚える。
そしてこれから、もっとたくさん、スクアーロの初めてを貰っていくんだろう。
「スクアーロ」
「な……んだよ」
「キス、しても良い?」
「……」
肩に埋めていた顔をゆっくりと上げる。
その頬はまだ赤かったが、やっとその目が、ディーノの視線とかち合った。
ディーノは、その熱い頬に手を添える。
涙ぐむ瞳が、ディーノを映している。
スクアーロは、瞼を落とし、ディーノは、唇に近付いていき……
* * *
「きゃあー!キスしちゃいます!ついにお二人が結ばれちゃいます!!」
「やるねディーノクン……。このまま野外でヤっちゃ」
「白蘭様、僭越ながら申し上げますが。ご自重なさってください!子供が見ているでしょう!!」
「そんなことより、」
「そんなことより?バーロー、風テメー、このカオスがそんなことなのか?」
「あえてもう一度言いますが、そんなことより、この場所、確か誰かがトラップを仕掛けていませんでしたか?」
「……」
「……」
「……」
「……」
「……」
「……あ、僕チンだ」
「何を、仕掛けたのです?デイジー」
「えっとね、い、犬、だよ」
犬……?
全員の心の声が、途方もない疑問を抱いた。
なぜ、二人をくっ付けるための仕掛けが、……犬?
* * *
二人の唇が、重なりあう、その、直前。
「ワオーン!!」
「ガウッ!グルルルルッ!!」
「ガフッ!バウバウ!!」
ディーノの背後から、激しい犬の鳴き声が聞こえてきた。
「な、なんだ!?」
「なんだよ良いところだったのに!!」
スクアーロが驚き気味に、ディーノがキレ気味に振り替えると、何頭もの犬、しかも警察犬として活躍するような犬種であるシェパードが、二人に向かって吠えながら駆けてきていた。
牙を剥き出し、唾を散らしながら駆けてくる様子は恐ろしく、思わず二人の腰が退ける。
「なんで犬ぅ!?」
「理由はともかく、逃げた方が良いんじゃねえのか?」
「なんでスクアーロそんなに冷静なの!?」
「おい、来たぞ」
「うわっ!」
先頭の一匹がもう間近まで迫ってきている。
咄嗟にスクアーロの前に出て庇ったディーノに、ついに犬が飛び掛かった。
スクアーロはちゃっかり一歩下がって避けているが、ディーノはそれに気が付く間もなく犬に襲われて倒れた。
「わぎゃぁああ!!」
「ワオーン!!」
「ワフッ!!」
「ガウルルル!!」
「跳ね馬ぁ、生きてるかぁ?」
少し離れた所から、呑気に声を掛けながらスクアーロが様子を見ると、ディーノは色んな場所を犬に噛みつかれながら、頭を抱えて蹲っていた。
「いって!ぃいだだだだっ!!ス、スクアーロは逃げてろ!」
「いや、オレは平気だから」
アグアグと腕やら脚やらに噛み付かれているディーノを、少し苦笑い気味に見ながら、スクアーロは暴れる犬に向かって手を伸ばした。
一匹がそれに気付き、唸りながら牙や爪を剥き出してにじり寄っていく。
それに対して、スクアーロはただ一言言葉を放った。
「お座り」
「っ!……クゥーン」
叫んだわけでも、恐い顔をしていたわけでもないが、それを聞いた犬は、尻尾を股の間に挟んで、頭を下げた。
差し出された手をペロペロと舐める。
満足そうにその犬の頭を撫でたスクアーロは、他の犬も丁寧に引き離していく。
最終的に全部の犬が頭を垂れてスゴスゴと引き下がる中、助け出されたディーノは、呆然とその光景を眺めて言った。
「オレがお前のこと庇った意味って……」
「怪我ないか?」
「あ、はい。ちょっと擦った程度だぜ」
「見せてみろ」
落ち込むディーノにマイペースに話し掛けて怪我の有無を確認したスクアーロは、ディーノの手を取って怪我の様子を見る。
本人の言う通り、ただの掠り傷のようだ。
「……一応帰って、ちゃんと洗った方が良いだろうなぁ」
「ん?そうか?じゃあ屋敷帰ろうぜ」
そう言ってすたすた歩き出したディーノに手を掴まれて、引っ張られながら歩くスクアーロは、眉間にシワを寄せて考える。
今日、不自然にいなくなったユニ達。
そして先程の犬達の首には、首輪がつけられていた。
つまりあの犬達は飼い犬で、誰かの意思でここに連れてこられたと言うこと。
もし、自分達のことを狙う敵ならば、こんな回りくどいことはしないだろう。
これはもしかすると、彼らに一杯食わされたと言うことだろうか……。
白蘭やユニのことだ、これで終わりとは思えない。
スクアーロはごくりと生唾を飲む。
自分の前で『こんなところに野犬が出るなんてなー』なんて言っているバカは頼れない。
ただでさえへなちょこな訳だし。
自分がしっかりしなければ……!
スクアーロがそう決意をした時、遠くの車内では、デイジーが大バッシングを受けていたのであった。