鮫、目覚め

トラブルこそあったが、大きな被害もなく比較的早く落ち着いた二人は、それぞれソファに座っていた。

「本当にごめんな……?なんか今日は調子悪いみたいで」
「……」

スクアーロはなにも言わなかったが、その顔には呆れの色が滲み出している。
部下を連れてきてないなら当然だろう、とでも言いたそうな顔付きだ。

「……今日は一人で来たのか?」
「そうだぜ、ロマーリオは非番だからな」
「そうか、非番か……」

スクアーロの目は遠い。
次は一体どんなドジを踏むのだろうか。
せめて自分に被害がなければ良いなあ。
そんな感情が読み取れる。

「あ、そういえば着替えとか……」
「もうとっくに着替えてる」
「じゃあ飲み物とか……」
「そこに簡易冷蔵庫がある」
「……オレなんかすることある?」
「飯食うから、黙ってろ」
「……うん」

淡々と返事をしてスプーンを手に取るスクアーロにディーノはスゴスゴと引き下がる。
ちなみにモニターの前ではユニが、『スクアーロさんったら私が行くまでお着替えするのは待っていてくださいって言っておいたのに!!』と怒っているが、彼女はそれを知るよしもない。
しょんぼりと項垂れるディーノを見て呆れながら、スクアーロはトマトのリゾットを口にする。

「…………」
「あ、それトマトの冷製リゾットで……、不味かった?」
「いや、そんなことねえ。……味見したか?」
「あ、急いでたからしてねーけど……」
「そうか。まあまあ、うまいぞ」
「ほ、本当か!?」

スクアーロは無表情だったが、うまいと言ってパクパクとリゾットを食べ進めていく。
ディーノはそれを嬉しそうに眺めている。
そしてそんな二人を見ている者達の内、キッチンをよく使う桔梗が冷静に指摘をした。

「跳ね馬ディーノが使っていた調味料ですが……、」
「え、まさか……」
「本来コンソメを使うところ、何故か顆粒のカツオ出汁を使用していました。さらに塩を使うところで砂糖を使っていました」
「独特な……、味付けですね」
「その上材料の配分が滅茶苦茶でしたので、恐らくあのリゾット……、物凄く微妙な味がするのではないかと予測されます」
「う、うわぁ……」
「スクアーロちゃん、よく食べたね……」

流石にこれは、全員から生温い視線が送られることとなった。
桔梗は『微妙な味』と表現したが、恐らく不味いのだろう、とんでもなく。
それを表情も変えずに、ペースも変えずに食べ続けるスクアーロ、凄いと言うより、大丈夫かと心配したくなる。

「跳ね馬……、今度はさ、」
「ん?なんだ?」
「オレも一緒に作るから」
「え!ほ、本当か!?」
「おう」
「絶対な!絶対一緒に作ろうな!」
「……おう」

ディーノは二人で一緒に、ということに喜んでいるが、その言葉がスクアーロの保身のための言葉であるのは疑いようもない。
知らぬが仏、見守る者達の脳裏を走ったのはそんな言葉だった。
南無南無、で、ある。

「……散歩、行かねぇか?」
「散歩いいな!行こうぜ!」

ユニ達が心の中で手を合わせている合間に、気付けば食べ終わっていたスクアーロとディーノが食器を持って立ち上がっていた。
部屋を出て、廊下を歩いて、キッチンで皿やコップを洗う。
その後、歯磨きやら何やらを済ませて、二人は屋敷の外に向かった。

「スクアーロ、腕、痛むか?」
「少し、なぁ」
「だよなー……。あんまり痛むみたいならちゃんと言えよな。変に我慢して悪化させるなよ?」
「しねぇよ、そんなこと」
「えー……、本当かぁ?」
「疑ってんのかぁ?」
「だってスクアーロって変なとこで意地っ張りになるっぽいからなー」
「……、チッ」
「お、図星?」

そんな、何てことのない会話をしながら、二人は庭へと歩を進めていった。
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