リング争奪戦
「いじめちゃいや~ん♡」
宙に飛び上がったルッスーリアが、甘ったるい(かつ野太い)声で相手のガキ、笹川了平を煽り、弄ぶ。
試合の前に何度も、オレは何度も!遊ばないでさっさと終わらせて帰ってこい、と言ったのに何をやっているのだ、アイツは。
ルッスーリアが巫山戯た声で話す度に、オレの米神に浮き出た血管がピクリと動く。
一人だけそれに気付いているレヴィが、青褪めた顔でチラチラと此方を窺ってきている。
鬱陶しいことこの上ない。
「ぐあっ!腕があぁ!」
リングの上では笹川了平が腕を押さえて蹲っていた。
それを見て、ルッスーリアはニヤニヤと笑う。
今日、初めて行われたリング争奪戦は、晴の守護者同士の対決。
力の差は歴然だった。
「晴の守護者らしく、逆境をはね返してみせたのよん♡」
得意気に自分の左足に仕込まれた鋼鉄のことを種明かしするルッスーリアに、オレの機嫌は更に急降下する。
仮にも暗殺者が、ぺらぺらと自分の技の秘密しゃべってんじゃねーよ。
隣ではレヴィがアワアワとしているが、レヴィに構っている余裕は今のオレにはない。
あの野郎、帰ったらどうしてくれようか。
「立てコラ!!!」
身体中に受けたダメージに脱水症状が加わって、立つことも辛そうな笹川了平に、喝が入る。
「あのチビは、アルコバレーノのコロネロだぜぇ」
「何故奴がここに?」
確か、笹川了平の家庭教師をしているんだったか?
今更出てきて、何をする気だ?
「そろそろ頃合いだぜ。お前の本当の力を見せてやれ了平!!」
本当の力だと?
そういやぁ、奴はさっきから左手しか使ってねぇ。
右は今まで温存してたってことか。
勿論、その右がルッスーリアに勝るとは思わねぇが、さっさと片付けるべきことに変わりはねぇ。
「ゔお゙ぉい!!ルッスーリア!!遊んでねぇでさっさと勝負つけてこお゙ぉい!」
「んもう!スクちゃんまでそんなに急かさないでぇ~ん♡」
「……」
イラッとした。
腰に差した剣の柄が、カチリと音を立てた。
あの変態、堪らなく殴りてぇ。
剣の柄とか、鞘とかで。
「お、おおお落ち着けスクアーロ!!」
「あ゙あ!?オレはこれ以上ねーほどに落ち着いてるぞぉ!」
「全然落ち着いてないじゃないか。君らしくもない」
「……チッ!」
マーモンに言われて、漸く少し、平静を取り戻す。
特設リングの上に目を向けると、ルッスーリアが笹川了平のパンチに吹っ飛ばされたところだった。
何やってやがんだあの野郎。
致命傷は負ってないようだが、あれくらいのパンチ、しっかり避けろ、と言いたい。
「ふ~っ。クリーンヒットしてたらちょっとやばかったかしら」
「いいや、確かに当てたぞ」
「!」
がしゃんパリンと、天井の照明が割れて落ちてくる。
続けて打ったパンチが、更に照明を壊していく。
その様子に内心舌を巻く。
あの、拳の先から飛んでいくキラキラと光るもの、塩か。
汗の蒸発してできた塩で照明を壊すなんて、なかなかできることじゃない。
良いパンチだ。
あれくらい強いなら、あの変態の代わりにヴァリアーに来てもらいたいな。
でもアイツバカそうだから、仕事できないか?
じゃあやっぱり要らねぇな。
「刮目!!!」
……と、ヴァリアー勧誘を考えてる場合じゃあなかったな。
遂に照明は1つ残らず破壊され、目の眩む光線はなくなった。
しかもあのカマ野郎、塩で照明を割ったことに気付いてねぇ。
観察不足の一言に過ぎるな。
まぁ、奴の顔を掠めて同じ技を放ったところは、ヴァリアー幹部として誉めてやらねぇこともねぇがな。
「ゆくぞ極限!!!」
「越えられない壁っていうのを教えてあげるわ」
お互いに渾身の一撃をぶつける。
一瞬、動きが止まり、次の瞬間には笹川了平が痛みに悲鳴をあげ、倒れ込んでいた。
ルッスーリアは余裕の笑みで、笹川を見下ろす。
「ゔお゙ぉい!!いつまで待たせんだぁ!!」
「んもう、せっかちねぇ。言われなくても締めるわよ」
ノロノロしやがって。
イライラとするオレの横では、レヴィの顔色が土気色になっている。
「お兄ちゃん……?」
「きょ……、京子ちゃん!!?」
今にも、ルッスーリアがトドメを刺そうという時、この殺伐とした場面にはとても似つかわしくない、可愛らしい声が校庭に響いた。
「あいつは……、笹川了平の妹かぁ?」
「よ、妖艶だ……!」
「気持ちわりぃぞぉレヴィ……」
「なっ……!!」
レヴィの抗議はオールスルーだ。
鼻の下が延びてて、本当に気持ち悪かったのだから、別にオレは悪くないと思うぜ。
「うしし、確かに気持ち悪すぎるぜレヴィ」
「ム、残念ながら反論は出来ないね」
「そんなことはない!!……ハズだ!」
「認めろぉ、事実だぜレヴィ」
「ぬぅおおお!」
のたうち回るレヴィを、ベルと二人でゲシゲシと踏みつける。
ストレス発散した。
ありがとな、レヴィ。
当の本人は地面で沈黙してるが。
「お兄ちゃんやめて……!!ケンカはしないって約束したのに!!」
レヴィをいじめ終えて、リングに視線を戻すと、笹川京子が悲痛な叫び声をあげていた。
って、この戦いがケンカで片付けられるのかこの娘は。
末恐ろしいことである。
「……ああ、たしかに額を割られた時……、もうケンカはしないと約束した……。だがこうも言ったはずだ……。負けんと……!!!」
……驚いた。
あそこからまた、立ち上がるなんて。
面倒なことだ。
だから早く倒せと言ったのに。
護る者の出来た、手負いの獣ほど、厄介なものはないのだから。
「みさらせ!!!これが本当の、」
「まったくしつこいわねえ。これで終わりにしましょ」
「極限-マキシマム-!!太陽-キャノン-!!!」
三度目、二人の攻撃がぶつかる。
そして……
「ぎゃあ!!!」
今度悲鳴をあげたのは、ルッスーリアの方だった。
メタルニーは粉々に砕かれ、吹っ飛ばされる。
情けなく悲鳴をあげて膝を押さえるルッスーリアに、頭が痛くなった。
あれほど油断をするなと言ったのに!
あのクソおカマ野郎が……!!
「う……うそよぉ!メタルニーが砕かれるなんて!!」
動揺し、それでもなお立ち上がり戦おうとするルッスーリアを見て、頭痛は更に増す。
「ゔお゙ぉい!!勝負はついたぁ!!ヴァリアー側は棄権するぞぉ!」
「まだよ!私はまだ戦えるわ!!」
どこまで、奴はオレのいうことを聞かないつもりなのか。
頭の中で何かがプツンと切れる音がした。
もしかしてこれが堪忍袋の緒と呼ばれる奴か。
「終わりだっつってんだこのドカスがぁぁあ!!!」
「……っ!!??」
ドゴッと鈍い音を立て、ルッスーリアの頭に拳大の石が命中する。
普通なら死んでるが、安心しろ。
ヴァリアークオリティのお陰で死なねえからな。
グシャっと倒れたルッスーリアに、敵方が唖然とする。
「……ゴーラ・モスカより早くルッスーリアを粛清するなんて、流石はスクアーロだね」
マーモンが皮肉っぽく言ったのが聞こえたが、敢えて返事を返すなら、粛清じゃなく再教育だ、だろうか。
「あいつ……、味方を!!」
動揺する沢田サイドを無視し、チェルベッロの奴らがルッスーリアを戦闘不能と判断し、笹川了平の勝利を告げた。
沈黙するガキどもを前に、チェルベッロは翌日からの勝負のことを説明しだす。
「今回より、決戦後に次回の対戦カードを発表します」
「え……!!もうわかっちゃうの~!!?」
「それでは発表します。明晩の対戦は……、雷の守護者同士の対決です」
つーことはレヴィと、ボヴィーノとかいう弱小ファミリーの牛ガキか。
レヴィか……、レヴィ、か……。
なんだろう、不安が胃をダイレクトに襲ってくる。
頭痛の次は胃痛だなんて……。
「それでは明晩お会いしましょう」
チェルベッロがスイッチを押し、リングが解体される。
随分と派手な去り際だな。
モスカに命令し、ルッスーリアを回収させてその場から去る。
今日は散々だった……。
リングを逃したと言ったら、ザンザスは荒れるだろうな……。
「憂鬱だぁ」
思わず口から出た愚痴に反応して、マーモンがそっと肩を叩いてきた。
同情されると余計惨めになる。
明日こそは、勝たねば。
「明日は勝てよぉ、レヴィ」
「当たり前だ!!」
胸を張って言うもんだから余計心配になる。
オレの胃痛は、暫く治りそうにもなかった。
宙に飛び上がったルッスーリアが、甘ったるい(かつ野太い)声で相手のガキ、笹川了平を煽り、弄ぶ。
試合の前に何度も、オレは何度も!遊ばないでさっさと終わらせて帰ってこい、と言ったのに何をやっているのだ、アイツは。
ルッスーリアが巫山戯た声で話す度に、オレの米神に浮き出た血管がピクリと動く。
一人だけそれに気付いているレヴィが、青褪めた顔でチラチラと此方を窺ってきている。
鬱陶しいことこの上ない。
「ぐあっ!腕があぁ!」
リングの上では笹川了平が腕を押さえて蹲っていた。
それを見て、ルッスーリアはニヤニヤと笑う。
今日、初めて行われたリング争奪戦は、晴の守護者同士の対決。
力の差は歴然だった。
「晴の守護者らしく、逆境をはね返してみせたのよん♡」
得意気に自分の左足に仕込まれた鋼鉄のことを種明かしするルッスーリアに、オレの機嫌は更に急降下する。
仮にも暗殺者が、ぺらぺらと自分の技の秘密しゃべってんじゃねーよ。
隣ではレヴィがアワアワとしているが、レヴィに構っている余裕は今のオレにはない。
あの野郎、帰ったらどうしてくれようか。
「立てコラ!!!」
身体中に受けたダメージに脱水症状が加わって、立つことも辛そうな笹川了平に、喝が入る。
「あのチビは、アルコバレーノのコロネロだぜぇ」
「何故奴がここに?」
確か、笹川了平の家庭教師をしているんだったか?
今更出てきて、何をする気だ?
「そろそろ頃合いだぜ。お前の本当の力を見せてやれ了平!!」
本当の力だと?
そういやぁ、奴はさっきから左手しか使ってねぇ。
右は今まで温存してたってことか。
勿論、その右がルッスーリアに勝るとは思わねぇが、さっさと片付けるべきことに変わりはねぇ。
「ゔお゙ぉい!!ルッスーリア!!遊んでねぇでさっさと勝負つけてこお゙ぉい!」
「んもう!スクちゃんまでそんなに急かさないでぇ~ん♡」
「……」
イラッとした。
腰に差した剣の柄が、カチリと音を立てた。
あの変態、堪らなく殴りてぇ。
剣の柄とか、鞘とかで。
「お、おおお落ち着けスクアーロ!!」
「あ゙あ!?オレはこれ以上ねーほどに落ち着いてるぞぉ!」
「全然落ち着いてないじゃないか。君らしくもない」
「……チッ!」
マーモンに言われて、漸く少し、平静を取り戻す。
特設リングの上に目を向けると、ルッスーリアが笹川了平のパンチに吹っ飛ばされたところだった。
何やってやがんだあの野郎。
致命傷は負ってないようだが、あれくらいのパンチ、しっかり避けろ、と言いたい。
「ふ~っ。クリーンヒットしてたらちょっとやばかったかしら」
「いいや、確かに当てたぞ」
「!」
がしゃんパリンと、天井の照明が割れて落ちてくる。
続けて打ったパンチが、更に照明を壊していく。
その様子に内心舌を巻く。
あの、拳の先から飛んでいくキラキラと光るもの、塩か。
汗の蒸発してできた塩で照明を壊すなんて、なかなかできることじゃない。
良いパンチだ。
あれくらい強いなら、あの変態の代わりにヴァリアーに来てもらいたいな。
でもアイツバカそうだから、仕事できないか?
じゃあやっぱり要らねぇな。
「刮目!!!」
……と、ヴァリアー勧誘を考えてる場合じゃあなかったな。
遂に照明は1つ残らず破壊され、目の眩む光線はなくなった。
しかもあのカマ野郎、塩で照明を割ったことに気付いてねぇ。
観察不足の一言に過ぎるな。
まぁ、奴の顔を掠めて同じ技を放ったところは、ヴァリアー幹部として誉めてやらねぇこともねぇがな。
「ゆくぞ極限!!!」
「越えられない壁っていうのを教えてあげるわ」
お互いに渾身の一撃をぶつける。
一瞬、動きが止まり、次の瞬間には笹川了平が痛みに悲鳴をあげ、倒れ込んでいた。
ルッスーリアは余裕の笑みで、笹川を見下ろす。
「ゔお゙ぉい!!いつまで待たせんだぁ!!」
「んもう、せっかちねぇ。言われなくても締めるわよ」
ノロノロしやがって。
イライラとするオレの横では、レヴィの顔色が土気色になっている。
「お兄ちゃん……?」
「きょ……、京子ちゃん!!?」
今にも、ルッスーリアがトドメを刺そうという時、この殺伐とした場面にはとても似つかわしくない、可愛らしい声が校庭に響いた。
「あいつは……、笹川了平の妹かぁ?」
「よ、妖艶だ……!」
「気持ちわりぃぞぉレヴィ……」
「なっ……!!」
レヴィの抗議はオールスルーだ。
鼻の下が延びてて、本当に気持ち悪かったのだから、別にオレは悪くないと思うぜ。
「うしし、確かに気持ち悪すぎるぜレヴィ」
「ム、残念ながら反論は出来ないね」
「そんなことはない!!……ハズだ!」
「認めろぉ、事実だぜレヴィ」
「ぬぅおおお!」
のたうち回るレヴィを、ベルと二人でゲシゲシと踏みつける。
ストレス発散した。
ありがとな、レヴィ。
当の本人は地面で沈黙してるが。
「お兄ちゃんやめて……!!ケンカはしないって約束したのに!!」
レヴィをいじめ終えて、リングに視線を戻すと、笹川京子が悲痛な叫び声をあげていた。
って、この戦いがケンカで片付けられるのかこの娘は。
末恐ろしいことである。
「……ああ、たしかに額を割られた時……、もうケンカはしないと約束した……。だがこうも言ったはずだ……。負けんと……!!!」
……驚いた。
あそこからまた、立ち上がるなんて。
面倒なことだ。
だから早く倒せと言ったのに。
護る者の出来た、手負いの獣ほど、厄介なものはないのだから。
「みさらせ!!!これが本当の、」
「まったくしつこいわねえ。これで終わりにしましょ」
「極限-マキシマム-!!太陽-キャノン-!!!」
三度目、二人の攻撃がぶつかる。
そして……
「ぎゃあ!!!」
今度悲鳴をあげたのは、ルッスーリアの方だった。
メタルニーは粉々に砕かれ、吹っ飛ばされる。
情けなく悲鳴をあげて膝を押さえるルッスーリアに、頭が痛くなった。
あれほど油断をするなと言ったのに!
あのクソおカマ野郎が……!!
「う……うそよぉ!メタルニーが砕かれるなんて!!」
動揺し、それでもなお立ち上がり戦おうとするルッスーリアを見て、頭痛は更に増す。
「ゔお゙ぉい!!勝負はついたぁ!!ヴァリアー側は棄権するぞぉ!」
「まだよ!私はまだ戦えるわ!!」
どこまで、奴はオレのいうことを聞かないつもりなのか。
頭の中で何かがプツンと切れる音がした。
もしかしてこれが堪忍袋の緒と呼ばれる奴か。
「終わりだっつってんだこのドカスがぁぁあ!!!」
「……っ!!??」
ドゴッと鈍い音を立て、ルッスーリアの頭に拳大の石が命中する。
普通なら死んでるが、安心しろ。
ヴァリアークオリティのお陰で死なねえからな。
グシャっと倒れたルッスーリアに、敵方が唖然とする。
「……ゴーラ・モスカより早くルッスーリアを粛清するなんて、流石はスクアーロだね」
マーモンが皮肉っぽく言ったのが聞こえたが、敢えて返事を返すなら、粛清じゃなく再教育だ、だろうか。
「あいつ……、味方を!!」
動揺する沢田サイドを無視し、チェルベッロの奴らがルッスーリアを戦闘不能と判断し、笹川了平の勝利を告げた。
沈黙するガキどもを前に、チェルベッロは翌日からの勝負のことを説明しだす。
「今回より、決戦後に次回の対戦カードを発表します」
「え……!!もうわかっちゃうの~!!?」
「それでは発表します。明晩の対戦は……、雷の守護者同士の対決です」
つーことはレヴィと、ボヴィーノとかいう弱小ファミリーの牛ガキか。
レヴィか……、レヴィ、か……。
なんだろう、不安が胃をダイレクトに襲ってくる。
頭痛の次は胃痛だなんて……。
「それでは明晩お会いしましょう」
チェルベッロがスイッチを押し、リングが解体される。
随分と派手な去り際だな。
モスカに命令し、ルッスーリアを回収させてその場から去る。
今日は散々だった……。
リングを逃したと言ったら、ザンザスは荒れるだろうな……。
「憂鬱だぁ」
思わず口から出た愚痴に反応して、マーモンがそっと肩を叩いてきた。
同情されると余計惨めになる。
明日こそは、勝たねば。
「明日は勝てよぉ、レヴィ」
「当たり前だ!!」
胸を張って言うもんだから余計心配になる。
オレの胃痛は、暫く治りそうにもなかった。