それはあまりにも突然だった。
チェッカーフェイスがアルトの魂をスクアーロの体に戻してから、10分が経過していた。
だが彼女の目覚めを待つ者達は、永遠にも等しい時間が経ったように感じていた。
いつまで経っても固く目を閉ざしたままの、スクアーロを見詰める者達の表情は様々だった。
不安そうに眉をひそめるもの、涙を一杯に溜めて一心に祈る者、落ち着かない様子でグルグルと歩き回る者、彼女の手を握って、ただただジッと見詰める者……。
様々な者達が見守っていた。

「スクアーロ……まだかよ」

絞り出すように呟かれたディーノの言葉を引き金に、他の者達も口々に言葉を掛ける。

「スクアーロさん……！早く起きてください……!!」
「しし、何やってんだよ、バカアホロン毛のバカアーロ。王子が待ってやってんだから、早く目ぇ覚ませって……、スクアーロ!!」
「早く起きて！スクアーロ！」
「スクアーロ、嫌だ……、早く起きろって！」
「起きろ、早く、帰ってこいよ、スクアーロォ!!」

ぽたり、ぽたりと、スクアーロの頬に涙の雫が落ちて流れる。
そんな時、それは突然に起こったのだった。
まず異変を感じたのはディーノだった。
己の手の中にある、細い指が、僅かに、本当に僅かにだが、動いた気がした。

「……スク、アーロ？」

弱々しく、だが確かに握り返してくる手。
それに目を見開き、確かめるように握る力を強める。
やはりスクアーロの手は、ディーノの手を握り返してきていた。
慌てて身を乗り出して顔を覗き込む。
その唇が、ふぅと小さく息を吐いた。

「……ぅ、」
「スクアーロ!?目が覚めたのか!?大丈夫か!?俺達の事分かるか!?痛いとこないか!?」
「そんなにいっぺんに聞いて答えられる分けないだろうが！おいスクアーロ、意識は確りしてるか!?」
「水いるか!?あ、XANXUSそのグラスかし……」
「野球バカ！ありゃあ酒だ!!」

小さく漏れた呻き声に、直ぐに部屋中が騒がしくなる。
その声が不快だったのだろうか、少し眉根を寄せ、また小さく声を漏らしながら、ようやくスクアーロが瞼を開いた。

「スクアーロ……」
「でぃ、いの……？」

掠れた声で、嬉しそうに自分を見詰める人の名前を紡ぐ。
ゆっくりと首を回し、自分を囲む人々を見回し、そこでやっと、自分が帰ってきたということに気が付いたらしかった。
視線は一周して再びディーノに戻る。
薄い銀色の瞳と目があった瞬間、ディーノは彼女の体を引き寄せ、強く強く、抱き締めたのだった。

「……えり、おかえり、スクアーロ……！」

一瞬呆然としたスクアーロだったが、少し戸惑う素振りを見せた後、躊躇いがちにディーノの背中に手を回し、口を開いた。

「た、だいま……ディーノ……」

直後、彼女の目覚めを心待にしていた者達が二人に飛び掛かるようにして抱き付いたことは言うまでもないだろう。