鮫、帰らず
「死んだらダメです!それだけはダメなんです!!」
ユニは縋り付くように、ただただ必死に叫んでいた。
ユニの脳には、未来での自身の死の記憶が、未だ濃厚に焼き付いていた。
体から力が抜けていく感覚、骨も残さず消えてしまう自分の死のイメージ、色も音も匂いも、全てが遠退いて何も残らなくなる、あの異様なほどの虚しさ、孤独。
目の前の人に、そうなって欲しくないと、縋り付いて、この世に繋ぎ止めようとした。
「死んだら、全部無くなってしまうんです!死んだら、貴女の全ては、失われてしまうんです!!」
ユニの大きな瞳から、涙が一粒溢れ落ちる。
抱き締めるように、彼女の肩を掴んで、ユニは必死に訴えかけた。
「本当に全てが決められたことでしたか!?貴女の中に、幸せな記憶は、嬉しかった記憶は、残っていませんか!?悩んだ記憶は、苦しんだ記憶は、残っていませんか!?例え貴女の行動の多くが、決められたことだったとしても、貴女の全てが作り物だったわけではないのではないですか!?貴女の行動が、世界に決められたことだったとしても、貴女の大切にしてきた想いは、貴女が守ってきた想いは、貴女が選んできたものなのでは、ないのですか!?」
腕の中の、歪な人影をそっと撫でる。
ユニは息を弾ませながら、それでも落ち着いた柔らかな声で話した。
「行動は決められても、きっと心は決められません。貴方がここで死んだら、貴女の心まで、全てが無くなってしまうんです。だから、死なないでください!どうか、どうか、私達の傍に、いてください、スクアーロさん」
『……』
「私が、貴女と過ごした時間はとても少ないです。それでも、貴女が優しい人だということは良く分かるんです。その優しさは紛れもない貴女のものだと思います」
『……やさ、し、さ?』
「優しくて、でも不器用で頑固で、意地っ張りな可愛らしい方です」
『……』
少しだけ、ユニが腕の力を緩める。
目を合わせて微笑んだユニは、明るい声でハッキリと言った。
「大丈夫です、スクアーロさん。貴女はちゃんと、ここにいますよ」
『!』
グニャグニャと動いていた体が、その言葉が放たれたと同時に、弾けて消えた。
彼女がいた場所には、もう何も、残っていない。
そして霧の中から、一人の少年が現れる。
『白蘭……』
「あ、れ、君はさっきの……」
白蘭が先程踏み潰してしまった少年スクアーロだった。
倒れる白蘭の横にしゃがんで、彼を見下ろす。
『白蘭、オレ、お前らの傍にいても良いのかなぁ。こんな、歪で、中途半端な存在でも、ここにいて、良いのかなぁ』
その言葉に、白蘭はニッコリ笑って答えた。
「当たり前じゃん♪僕達皆、君にいてほしいって思ってるんだよ、……スクアーロちゃん」
『……ふへへ、じゃあ、返るかな』
少年が、嬉しそうに笑った。
その指に嵌められたヴァリアーリングが、するりと抜け落ち、仰向けになった白蘭の、顔の横に転がる。
残っていた分身達が皆、パチンと弾けて消えると、立ち込めていた霧も消え、本棚と高級そうなカーペット、大きな机が姿を現した。
「どうやら、上手くいったみたいだね♪」
「そのようですね」
全員が、ほっと一息をついたのだった。
ユニは縋り付くように、ただただ必死に叫んでいた。
ユニの脳には、未来での自身の死の記憶が、未だ濃厚に焼き付いていた。
体から力が抜けていく感覚、骨も残さず消えてしまう自分の死のイメージ、色も音も匂いも、全てが遠退いて何も残らなくなる、あの異様なほどの虚しさ、孤独。
目の前の人に、そうなって欲しくないと、縋り付いて、この世に繋ぎ止めようとした。
「死んだら、全部無くなってしまうんです!死んだら、貴女の全ては、失われてしまうんです!!」
ユニの大きな瞳から、涙が一粒溢れ落ちる。
抱き締めるように、彼女の肩を掴んで、ユニは必死に訴えかけた。
「本当に全てが決められたことでしたか!?貴女の中に、幸せな記憶は、嬉しかった記憶は、残っていませんか!?悩んだ記憶は、苦しんだ記憶は、残っていませんか!?例え貴女の行動の多くが、決められたことだったとしても、貴女の全てが作り物だったわけではないのではないですか!?貴女の行動が、世界に決められたことだったとしても、貴女の大切にしてきた想いは、貴女が守ってきた想いは、貴女が選んできたものなのでは、ないのですか!?」
腕の中の、歪な人影をそっと撫でる。
ユニは息を弾ませながら、それでも落ち着いた柔らかな声で話した。
「行動は決められても、きっと心は決められません。貴方がここで死んだら、貴女の心まで、全てが無くなってしまうんです。だから、死なないでください!どうか、どうか、私達の傍に、いてください、スクアーロさん」
『……』
「私が、貴女と過ごした時間はとても少ないです。それでも、貴女が優しい人だということは良く分かるんです。その優しさは紛れもない貴女のものだと思います」
『……やさ、し、さ?』
「優しくて、でも不器用で頑固で、意地っ張りな可愛らしい方です」
『……』
少しだけ、ユニが腕の力を緩める。
目を合わせて微笑んだユニは、明るい声でハッキリと言った。
「大丈夫です、スクアーロさん。貴女はちゃんと、ここにいますよ」
『!』
グニャグニャと動いていた体が、その言葉が放たれたと同時に、弾けて消えた。
彼女がいた場所には、もう何も、残っていない。
そして霧の中から、一人の少年が現れる。
『白蘭……』
「あ、れ、君はさっきの……」
白蘭が先程踏み潰してしまった少年スクアーロだった。
倒れる白蘭の横にしゃがんで、彼を見下ろす。
『白蘭、オレ、お前らの傍にいても良いのかなぁ。こんな、歪で、中途半端な存在でも、ここにいて、良いのかなぁ』
その言葉に、白蘭はニッコリ笑って答えた。
「当たり前じゃん♪僕達皆、君にいてほしいって思ってるんだよ、……スクアーロちゃん」
『……ふへへ、じゃあ、返るかな』
少年が、嬉しそうに笑った。
その指に嵌められたヴァリアーリングが、するりと抜け落ち、仰向けになった白蘭の、顔の横に転がる。
残っていた分身達が皆、パチンと弾けて消えると、立ち込めていた霧も消え、本棚と高級そうなカーペット、大きな机が姿を現した。
「どうやら、上手くいったみたいだね♪」
「そのようですね」
全員が、ほっと一息をついたのだった。