リング争奪戦

「同じリングを持つ者同士のガチンコ勝負~!!?」

相変わらず、うるさいガキだ。
家光とは似ても似つかないな。

「ああ、あとは指示を待てと書いてある」
「指示……?」

不思議そうに、ダイナマイトのガキが聞く。
その声に答えるように、二つの人影が、近くの茂みから飛び出してきた。

「お待たせしました」
「今回のリング争奪戦では、我々が審判をつとめます」

お待たせしました、つーか、影で話を聞いていたかのようなタイミングの良さだ。
怪しすぎる女達に、自然と視線も鋭く尖る。

「我々は9代目直属のチェルベッロ機関の者です」
「リング争奪戦において、我々の決定は9代目の決定だと思ってください」

9代目の死炎印付きの手紙を翳しながら、淡々と言い放つ仮面の女たちは、かなり不気味だ。
彼女らの内の一人が、顔を少しザンザスの方に傾けて訪ねた。

「9代目はこれがファミリー全体を納得させるためのギリギリの措置だとおっしゃっています。依存はありませんか、XANXUS様?」

問い掛けに、ザンザスは視線を投げ返すだけで、無言を貫いている。
その様子を肯定と取り、チェルベッロの女はありがとうございますと軽く頭を下げた。

「待て、異議ありだ。チェルベッロ機関など、聞いたことがないぞ。そんな連中にジャッジをまかせられるか」
「異議は認められません。我々は9代目に仕えているのであり、あなたの力の及ぶ存在ではない」
「なに……っ」
「んまあ、残念ね~!」

異議を唱えた家光を、チェルベッロは変わらず淡々とした様子でやり込める。
ルッスーリアはバカにしているが、オレ達とてオチオチとしてはいられない。
やつらはただ、公平なだけなのだ。
その公平さが、いつオレ達に牙を向くか。
オレのそんな考えなど露知らず、ただ公平なだけの彼女らは、感情の無い平坦な声で説明を始めた。

「本来、七種類のハーフボンゴレリングは、ボスの持つ一組と門外顧問の持つ一組、計二組存在し、後継ぎの式典の際に9代目と門外顧問の二人が認めた7名に、二組のリングを合体させた完全なるボンゴレリングの状態で継承されるものなのです」
「ですが今回、異例の事態となってしまいました。二人が相応しいと考える7名が食い違い、それぞれが違う人物に一方だけを配ったのです」
「すなわち9代目が後継者と認めたXANXUS様率いる7名と、家光氏が後継者と認めた綱吉氏率いる7名です」
「そこで、真にリングに相応しいのはどちらなのか、命を懸けて、証明してもらいます」
「場所は深夜の並盛中学校。詳しくは追って説明いたします」

中学校でやるのか?
まぁそれで問題が起きたら、責任は全部9代目に押し付ければ良いか。

「それでは明晩11時、並盛中でお待ちしています。さようなら」
「ちょ、まって、そんなっ!!」

慌てて呼び止めようとする沢田綱吉を、ザンザスの鋭い視線が捉える。
怯えるガキどもをその場に残し、ザンザスが踵を返しその場を去る。
オレたちもそれに従い、その場を跡にした。

「なぁ、スクアーロぉ。あのビビりが本当に10代目候補な訳?あんなのがボスと張り合えるわけなくねー?」

ホテルに帰り、ソファーに体を沈めた途端、背後からのし掛かるようにしてベルが現れ、問い掛けてきた。

「……それでも、あのガキは初代の血を引いたボンゴレなんだぁ」
「ガキばっかじゃん。10代目候補とか言うから期待してたのになんかがっかりだよなー。しし、今回の任務はなんかつまんなそー」
「ゔお゙ぉい、ベル。ガキだからって油断するなよぉ。ちょっとした油断が命取りになることもあるんだからなぁ」
「へーへー、お前っていつも口うるせぇよなー。なぁ、スクアーロぉ」
「なんだぁ」
「腹へったからなんか作ってくんね?」
「……そんくらい自分で用意しろぉ!!」
「しし、イーじゃん別に。いっつもボスにつまみとか作ってんだろ?王子にもなんか作れよ!」

数分後、言い争いや拳、ナイフの飛ぶ危険な喧嘩を経た後で、結局オレはキッチンの立つ羽目になった。
あのクソ王子が……。
滅茶苦茶苦いコーヒー淹れてやる。
こうして緊張感皆無のまま、試合前日の夜は更けていった。
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