鮫、帰らず

「んー、はぐれちゃったみたいだね♪スクアーロクンは『みつけて』って言ってたし、見付ければこの霧、消えるのかな?」

とにもかくにも地面に降りよう、そう思って着地した地面は、何故か酷く柔らかく、そしてその地面から、『ぐえっ』という潰れたような音が聞こえてきた。
白蘭が足元をよく見ると、そこには自分と同い年くらいの少年が倒れて、いや、白蘭に踏み潰されている。

「あれ?大丈夫?」
『ぐへ……大丈夫、じゃ、ねえ』

大人しくその少年の上から退いてやると、少年はモソモソと起き上がって、恨めしげに白蘭を睨め上げた。

『いきなり人の上に落ちてくるな、この変人!!』
「えー、酷いなあ。こんなところで転がってる君の方が悪いんじゃないか♪」
『転がってねーよ立ってたのにテメーに踏み潰されたんだろうがぁ!!』
「ん?そうなの?それはゴメンネ♪」
『むっ、ムカつくコイツ!!』

ギリギリと歯軋りをして怒る少年に、白蘭はのらりくらりと話すばかりだ。
散々からかった後に、白蘭は一番疑問に思っていた事を少年に訪ねた。

「ねえ、君さ、スペルビ・スクアーロクンだよね?」
『あ?』
「短いけど、銀髪におんなじ色の目に、顔付きとか、声とかもおんなじだし、スクアーロクン、でしょう?」
『ん、んー、そうとも言えるし、違うとも、言えるか』
「どう言うこと?」
『オレは確かにスクアーロだけど、本物じゃねーからな……』
「本物じゃ、ない?」
『おう、四方八方に散った俺達の内、どれかが本物なんだ。たぶん本物は、見付けてもらうまで戻る気はないだろうぜ』

ケロリとした顔で言った少年に、珍しく白蘭が面食らった顔をした。



 * * *



「本物を探せだあ!?」
『ご、ゴメンなさいぃ!!』
「太猿!怒鳴ってはいけません。大丈夫ですよ、少し乱暴なところはありますが、太猿も野猿も、トリカブトも、意味なく人に暴力を振るったりはしません」
『あぅ、し、失礼なことしないようにしますぅ!!ゴメンなさいぃい!!』
「い、いや、そういうことでは……えーと、彼らは怖い人ではありませんから……」
『うぇええぇ……!ご、ごめっなざぃい!!』
「こ、困りましたね……」

泣きじゃくっているのは、まだ大分幼い子どもの姿をしたスクアーロだった。
キャラが違う、それがその子に遭遇した彼らの素直な感想だ。
何とか聞き出した話も、イマイチ意味が掴めない。

「本物ったって……、そんなのどうやって見付けろって言うのさ!!」
「兎に角片っ端から取っ捕まえて聞いてみりゃ良いだろ」
「……浅慮なる者」
「ああ!?今なんつったゴラァ!!」
「ケンカをしないでください!」

問題児達を抱えたユニが本物を捕まえるのは、相当時間が掛かりそうに思えた。



 * * *



「で、その本物とはどのように見付けるのです?」
『はい、本物は我々とは違い、雨のヴァリアーリングを左手に着けております』



 * * *



「つまり、ソイツを探して取っ捕まえりゃ良いんだな?」
『ブハッ!お前あれだな、短慮だな!!ただ探して捕まえるだけで済む訳ねーだろ!!ブフッ、クククッ!!』
「バカにしてんのかバーローテメェ!!」



 * * *



『本物はオレ達と違って、たぶん、抵抗する、はずだぜ』
「て、抵抗するの?」
『あの、たぶんだけどな!見付かるのが嫌みたいで!だから、見付けても逃げるかもしれないし、殺しに来るかも……あ、でも本当にそうなるかはわからなくてな!?』
「ボクちん、倒せるかなぁ……」
『あ、いや、その、倒す必要はないんだぜ!!えーと、たぶんだけど』



 * * *



「説得?」
「あんたの本物を説得して、あの部屋の体に返せばいーの?」
『そーだぜ。本物は居場所が分かんなくなっちまってるからな、戻る場所がどこか、ちゃんと教えてやれば後は勝手に戻んじゃねーかぁ?』
「……お前、その本物が作った偽物なんじゃねーのか?なぜオレ達に協力的なんだ?」
『ああ、そりゃー、肉体の方に大分力が戻ってきてるからだろ。肉体に呼び戻そうとする力が働いてんだぁ。まあ、本物捕まえんのにゃ協力してやれねーけどよぉ』
「にゅ、ていうか、なんで本物ってのは迷子になってんの?」



 * * *



『そりゃ、男か女かも曖昧で、そもそも存在するはずがないって言われて、実物のスペルビ・スクアーロとは似てるのに違くて、それ以前にスペルビってのは兄貴の名前で、自分の名前は存在しなくて、そんで止めに絶対だって信じてたザンザスが目の前で腕吹っ飛ばされてちゃ、依る辺も居場所も目的も道も見失うだろ?見失わない方がおかしくねーか?』
「つまり、XANXUSクンのせいってことか!!それは許せないね♪」



 * * *

「未来で白蘭が散々揺さぶったせいか」
「白き人……」
「あのトラブルメーカーめ!」
「白蘭……」

「白蘭様……」

「因果は巡るのか……!」

「白蘭様、……気付いてなさそう」

「それって白蘭のせいだろ」
「ち、ちがっ……わなくないかもだけど!」

 * * *



「くしゅんっ!!」
『風邪か?』
「誰かが噂をしてるんだよ♪んまっ、とりあえず手当たり次第に探してみようかな♪」

全員から噂されているとは露知らず、少年を伴って白蘭は走り始めた。

「んー、あと20分ちょっと……。時間ないなぁ……」

白蘭と少年は並んで歩く。
その彼の指には、キラリと光るリングがはめられていた。
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