鮫、帰らず
虚ろな目、煙る雨、青く穏やかな炎、かち合う視線、中空を指す剣。
ユニ達が見守る中、10年後の姿をしたスクアーロは、口角を上げて笑むと、翳した剣をクルリと回転させた。
切っ先は、彼女の胸を指している。
「え、うそ……」
「クソ!早まんな!!」
ユニが口を押さえるより、γが匣兵器を発動させるより早く、剣は降り下ろされて、彼女の胸を貫いた。
グリグリと刃を捩じ込み、胸と背中の傷口から、ダラダラと血が流れ出す。
剣を引き抜くと、更に大量の血が噴き出る。
その血は何故か、黒かった。
「く、黒い、血?」
「にゅうっ!!あいつヤバイよ!!死んじゃうじゃん!!」
「ぼばっ!!と、止めなきゃ……!!」
「いや、待て。様子が変だぞ」
プシュリと噴き出す黒い血は、地面に落ちて水溜まりを作る。
どこにこれだけの量が収まっていたのか、大量の血が噴き出すと、彼女はカクリと膝をついて、地面に手を当てた。
黒い血が、妖しく光り、さざめき立つ。
その血が流れるように立ち上がって、持ち上がって、盛り上がって、ゆっくりと人型を取る。
血を媒介にして現れたのは、様々な姿形をしたスクアーロ。
「な!何だよあれぇ!?アニキあいつっ、分身したぜ!!」
「なんか、ヤバイんじゃねーのか?」
「わかってる!姫、あんたは下がってろ!!」
「で、ですが……」
ユニは、立ち上がる血の人形達を凝視する。
それらはウゾウゾと蠢くだけで、こちらを襲う気配はない。
血で出来ているハズなのに、綺麗に色まで着いているそれらは、足まで形が出来ると、全てが別々の方向を向いた。
『……けて、』
「え……?」
『み、つけて……』
「あ、待って……!」
大量の人形達は、ユニの声を背に、四方八方に走り出した。
雨が煙る。
いや、これは……。
「これは、霧かな?」
「白蘭様、これではあの魂の欠片を見付けることが困難になると予測されます」
「だね♪ちょっと待ってて」
白蘭が背中の翼を羽ばたかせ、飛び上がる。
リングから白龍を呼び出し、自分の周りで回転させる。
回転の勢いで霧を吹き飛ばそうと言うのか。
普通の霧なら、吹き飛ばせていたのだろう。
だがこの霧は、飛ばしても飛ばしても、何事もなかったかのように元に戻って、視界を覆い隠してしまう。
「ん?あれ?おかしーなぁ」
「白蘭、この霧、ただの霧ではありません。戻ってきてください!」
「わかった……え、あれ、ユニちゃん達どこにいるの?」
「霧が濃い……!このままではバラバラになります!!」
「姫、手を!!」
霧が彼らを分断するまで、然程時間は掛からなかった。
白蘭は霧の中、空に一人で取り残され、ユニはγと離されて太猿野猿にトリカブトと立ち尽くし、桔梗、ザクロ、デイジーはそれぞれバラバラになり、そしてγは……
「にゅっ!!何であんたが私の手掴んでんの!?離しなさいよヘンターイ!!」
「テメッ!!ブルーベルか!?オレは姫の手を掴んだはずだったのに……!どうなってんだオイ!?」
ブルーベルと二人、何も見えない霧の中に取り残されてしまっていた。
ユニ達が見守る中、10年後の姿をしたスクアーロは、口角を上げて笑むと、翳した剣をクルリと回転させた。
切っ先は、彼女の胸を指している。
「え、うそ……」
「クソ!早まんな!!」
ユニが口を押さえるより、γが匣兵器を発動させるより早く、剣は降り下ろされて、彼女の胸を貫いた。
グリグリと刃を捩じ込み、胸と背中の傷口から、ダラダラと血が流れ出す。
剣を引き抜くと、更に大量の血が噴き出る。
その血は何故か、黒かった。
「く、黒い、血?」
「にゅうっ!!あいつヤバイよ!!死んじゃうじゃん!!」
「ぼばっ!!と、止めなきゃ……!!」
「いや、待て。様子が変だぞ」
プシュリと噴き出す黒い血は、地面に落ちて水溜まりを作る。
どこにこれだけの量が収まっていたのか、大量の血が噴き出すと、彼女はカクリと膝をついて、地面に手を当てた。
黒い血が、妖しく光り、さざめき立つ。
その血が流れるように立ち上がって、持ち上がって、盛り上がって、ゆっくりと人型を取る。
血を媒介にして現れたのは、様々な姿形をしたスクアーロ。
「な!何だよあれぇ!?アニキあいつっ、分身したぜ!!」
「なんか、ヤバイんじゃねーのか?」
「わかってる!姫、あんたは下がってろ!!」
「で、ですが……」
ユニは、立ち上がる血の人形達を凝視する。
それらはウゾウゾと蠢くだけで、こちらを襲う気配はない。
血で出来ているハズなのに、綺麗に色まで着いているそれらは、足まで形が出来ると、全てが別々の方向を向いた。
『……けて、』
「え……?」
『み、つけて……』
「あ、待って……!」
大量の人形達は、ユニの声を背に、四方八方に走り出した。
雨が煙る。
いや、これは……。
「これは、霧かな?」
「白蘭様、これではあの魂の欠片を見付けることが困難になると予測されます」
「だね♪ちょっと待ってて」
白蘭が背中の翼を羽ばたかせ、飛び上がる。
リングから白龍を呼び出し、自分の周りで回転させる。
回転の勢いで霧を吹き飛ばそうと言うのか。
普通の霧なら、吹き飛ばせていたのだろう。
だがこの霧は、飛ばしても飛ばしても、何事もなかったかのように元に戻って、視界を覆い隠してしまう。
「ん?あれ?おかしーなぁ」
「白蘭、この霧、ただの霧ではありません。戻ってきてください!」
「わかった……え、あれ、ユニちゃん達どこにいるの?」
「霧が濃い……!このままではバラバラになります!!」
「姫、手を!!」
霧が彼らを分断するまで、然程時間は掛からなかった。
白蘭は霧の中、空に一人で取り残され、ユニはγと離されて太猿野猿にトリカブトと立ち尽くし、桔梗、ザクロ、デイジーはそれぞれバラバラになり、そしてγは……
「にゅっ!!何であんたが私の手掴んでんの!?離しなさいよヘンターイ!!」
「テメッ!!ブルーベルか!?オレは姫の手を掴んだはずだったのに……!どうなってんだオイ!?」
ブルーベルと二人、何も見えない霧の中に取り残されてしまっていた。