リング争奪戦

目が覚めて、時計を見る。
現在の時刻は午後6時半。
モソモソと起き上がり、眠気を訴える体に鞭を打ち、身嗜みを整えてリビングスペースに顔を出した。

「ゔお゙ぉい、ベルに、ルッスーリア。居るのはオメーらだけかぁ?」
「んー、マーモンとレヴィならさっき出てったぜ」
「レヴィったらなんだか酷く殺気立ってたわねぇ……」

懐から無線機を取りだし、マーモンに連絡を入れる。

「ゔお゙ぉい、マーモン。お前今どこに……、」
『いつもよりもテンションが低いね。寝起きかい、スクアーロ?』
「んなこたぁ、どうでもいいだろ。お前こんな時間に何してやがる」
『何って、レヴィに頼まれて雷のリングの所持者を探してたんだ』

その言葉に、暫く頭が働かなくなる。
雷のリングの所持者を探している?
つまり、レヴィは、雷のリングを奪いに行ったのか?

「……って!何勝手なことしてやがんだぁ!!!」
『ムッ!?……突然大声出さないでよ!鼓膜が破れる!』
「何処にいる!?」
『並盛の住宅街だけど?』
「今から行くから、詳しい場所を教えろぉ!!」

マーモンに場所を聞きながらベルたちに出発の準備をするように言う。
電話を切ると、オレはすぐにザンザスの部屋に入った。

「ゔお゙ぉい、起きてるかザンザス!!」
「うるせぇ」
「ゔお!?」
「とっとと行くぞ、カスザメ」

珍しいこともあるものだ。
あのザンザスが行動的だ。

「……明日は雪かぁ?」

聞こえないように言ったつもりが、聞こえていたらしい。
ギロリと睨み付けられた。

「早くしろ」
「あー、わかったわかった。お"ら、行くぞベル、ルッスーリアぁ!!」

部屋を出るときに、外に待機させていたゴーラ・モスカを連れていく。
グォングォンと怪しい音を立てるその機械の中には、9代目が入っている。
……まぁ、どうでもいいことだが。
マーモンの報告通り、夜の街並みを駆けて辿り着いたのは何の変哲もない住宅地。
途中、マーモンと合流し、1つ新しい報告を受ける。

「レヴィの近くに、他のリングも集まってきているようだよ」
「益々抜け駆けさせられねぇなぁ!」

マーモンを肩に乗せ、更に急いで現場に向かう。
寝起きにいきなりこんな激しい運動をしなければならないなんて、勘弁してほしい。
オレ達がレヴィがいると思われる場所につくと、そこにはピリピリとした殺気が満ちていた。

「レヴィの殺気ねん!」
「待てェレヴィ!!」

制止の声を掛けつつ、レヴィの後ろに降り立つ。
目の前にはこの間会ったばかりのガキども。
この前はいなかった奴も、数人いる。

「一人で狩っちゃだめよ」
「他のリングの所持者もそこにいるみたいなんだ」

二人の制止に、レヴィが大人しく動きを止める。
くそ、オレの言うことはろくに聞かねぇ癖に……。
レヴィの横に降りたマーモンと、アルコバレーノ・リボーンが一瞬睨み合っていたように見えたが、特に気にすることもないだろう。
マーモンは自身の正体は明かしていないはずだし。

「ゔお゙ぉい!!!久しぶりでもねぇかぁ?この間は良くも偽物掴ませてくれたなぁ、カスども!!」

ガキどもを見下すように眺め、顔に薄ら笑いを張り付ける。
オレの登場に、ガキどもの間にはかなりの動揺が走っていた。
この前とは違い、強く警戒した表情を見せる彼らに、喉の奥でクツリと笑う。

「雨のリングを持つのはどいつだぁ?」
「オレだ」

答えたのは変形刀を持っていたガキ。
今日は竹刀を持っているようだ。

「ハッ!少しは強くなったんだろうなぁ素人剣士?」

睨み付けるその顔は、前に見たよりもなかなか様になっている。
それでもまだ、足りないと思うがな。
少なくとも、体の傷は回復し、万全の状態のようだ。
例え絶対に負かす相手だったとしても、やっぱり戦うなら全力の相手じゃねえとな。

「のけ」

見定めるように、剣士のガキを観察していたオレの肩に、ゴツい手が乗り、強引に押しやられる。
漸く登場か。

「のけっ」

次いで、レヴィに肘で押される。
ボスの真似をしたいお年頃なのか畜生。
ムカついたから他の奴らにわからないように脚を踏んでおいた。
睨み付けられたが気にしない。

「でたな……。まさかまた、奴を見る日が来るとはな。――XANXUS」

オレたちの前に、仁王立ちになったザンザスに、リボーンの警戒が高まったのを感じる。
それに比例するように、ザンザスの殺気も上がっていく。
当たり前だ。
目の前に、自分に与えられるはずだった地位を、かっさらっていこうとしてる奴がいるんだから。

「ひっ!」

だが、余りの殺気に動けないガキどもを見ると、流石に同情する。
ザンザスの辞書に遠慮する、なんて文字はねぇからな。

「沢田綱吉……」

ザンザスが、ボソッと呟いた。
たった一言、だが、その一言から、とんでもない怒りが感じられる。
……不味いな、ザンザスの奴、怒りに我を忘れてなきゃ良いんだが。

「落ち着け、ザンザス。まだ……、っ!?」

ザンザスを落ち着かせようと、声をかける。
そのオレの声を、右側から飛んできた鶴嘴が遮った。
この鶴嘴、そして気配。
やっとお出ましか。

「沢田家光……!!」

憎々しげに睨んだその先に、3人の人影が立っている。

「待てXANXUS、そこまでだ。ここからはオレが取り仕切らせてもらう」
「う"ぉい、家光……!」

睨み合うザンザスと家光との間に入って地面に突き刺さっていた鶴嘴を投げ返す。

「っと!……久しぶりだな、スクアーロ。お前、いつから門外顧問のオレに攻撃するようになったんだ?」
「ハッ!攻撃だぁ?オレはただてめぇに武器を返してやっただけだろうがぁ」
「はぁ……XANXUS、お前の部下は門外顧問であるこのオレに攻撃するのか?」

鼻で笑って言い返せば、今度はオレではなくザンザスに矛先を向けた。
ザンザスは答えない。
ただ、家光に殺気をぶつけるだけだ。

「でぇ?今まで逃げ続けてきたてめぇが、どうして今更ノコノコと顔を出した?」
「なにを!」
「待てバジル。オレは逃げていたんじゃない。9代目からの回答を待っていたのだ」

部下のバジルを制し、9代目に質問状を送ったことを話す家光。
9代目からの回答、ねぇ?
知ってるぜ。
その質問状を受け取ったのも、それに対する返事を書いたのも、オレだからなぁ。

「沢田殿、これが9代目からの勅命です」
「ちょくめい……?」

沢田綱吉の手に、バジルから手紙が渡される。
ザンザスには、家光が投げ渡す。
ザンザスと沢田綱吉が、ほぼ同時に手紙を開けた瞬間、手紙の上部にふっと炎が灯った。

「!死ぬ気の炎!?」
「それは9代目の死炎印。まちがいない、本物の勅命だね」

9代目に無理やり押させたんだから、本物で当たり前だろうな。
そして、その内容が家光によって語られる。

「『今まで自分は、後継者に相応しいのは、家光の息子である沢田綱吉だと考えて、そのように仕向けてきた。だが最近、死期が近いせいか、私の直感は冴え渡り、他により相応しい後継者を見つけるに至った。我が息子、XANXUSである。彼こそが、真に10代目に相応しい』」
「なぁっ!?あの人9代目の息子なの?」
「『だが、この変更に不服な者もいるだろう。現に家光は、XANXUSへのリングの継承を拒んだ。かといって私は、ファミリー同士の無益な抗争に突入することは望まない。そこで、皆が納得するボンゴレ公認の決闘をここに開始する』……つまり、こういうこった……。同じ種類のリングを持つ者同士の、1対1のガチンコ勝負だ」

計画通りだ。
遂に、戦いが幕を開ける。
ザンザスを10代目ボンゴレへと連れていくための、前哨戦。
この戦いが終わるその時、ザンザスの地位は、確かなものとなる。
口角が自然とつり上がるのを、押さえることは出来なかった。
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