鮫、帰らず

激烈に、爆烈に、熱烈に。
凶悪な笑顔に顔を歪ませた、パラレルワールドのスクアーロは、剣を振り回して目の前の敵を叩き斬ろうとする。
避けられ、勢いのままに煉瓦の道に振り下ろされた剣が、地面を深く抉った。

「つ、強い……っ!!」
『テメーが弱いだけじゃねーのかぁ!?』

剣が何かに当たる度に、大きく音を立てて粉砕される。
今まで見たどんな攻撃よりも力強く、凶暴な攻撃だった。

「っんの馬鹿力が!!SISTEMA C.A.Iを一瞬で粉々にしやがった!!」
「皆さん!防御ばかりではこちらが危ない!!相手を倒す気で攻撃してください!!」
「くっ!極限わかっているが……、いくら攻撃しても躱されるぞ!!」
「オレ達の体じゃ攻撃が届かねーぞコラ!どうするんだ風……!?」
「私に聞かれても困ります」

コロネロに対してにべも無く返した風は、山本と剣を打ち合うスクアーロを観察する。
自分達の知るスクアーロとの特筆すべき違いは、何よりもその力強さである。
唸りをあげる剣も、敵を吹き飛ばす蹴りも、全てが自分達の知るモノとは別物だった。
やはり、男なのだ。
そして、仲間達の攻撃を躱す様子も観察する。
ほぼ全ての攻撃を避けるその姿は、鬼気迫るものすら感じる。
だが時おり攻撃が当たったと思っても平然として立ち上がることがあるのだ。
特に攻撃範囲の広い獄寺の攻撃が当たっているようなのだが、如何せん爆撃の度に土煙が立ち込もってしまうため、攻撃直後の様子がなかなか見えない。
しかし山本の剣が腕を掠めたその瞬間風は見た。
傷付いたその場所が、糸のように解けて、あっという間に結び付いて何事もなかったかのように塞がるのを。

「ん?当たったと思ったんだけどな?」
『残念だった、なあっ!!』
「ぐっ!!」

鮫衝撃(アタッコ・ディ・スクアーロ)。
スクアーロの得意技の1つだ。
体を強張らせた山本とスクアーロの間に割り入り、風が叫んだ。

「皆さん、このスクアーロさんには攻撃が効きません!!」
「なっ!?どういうことだ!?」
「負傷した箇所が、高速で治癒しているのです!いくら攻撃しても効果はない!!このままでは埒が……、っ!!」

風の台詞を遮ったのは一発の銃弾だった。
スクアーロの肩を穿つが、その傷もすぐに塞がる。
それを目の当たりにして息を飲む音と、呑気な声が聞こえた。

「なるほどな。本当に攻撃が効かねーのか」
「り、リボーン!!」

現れたリボーンは、忌々しそうに塞がった傷口を見て、舌打ちをしたスクアーロの魂の欠片に声をかけた。

「おい、お前の本体に戻れスクアーロ。みんな待ってんだぞ」
『ああ゙!?そりゃ偽者のオレのことだろぉがぁ!!オレは!オレが!本物だぁ!!勝手に人の姿借りてたアマの事なんざ知らねぇなぁ!!』
「……そううまくはいかねーのか」

XANXUSが欠片の一つを戻すのを見ていたリボーンは説得を試みるが、どうにも思うようには、いかないらしい。
どころか、男のスクアーロが自分に向かって剣を向けて迫ってきた。

「『うまくはいかない』、とはどういうことですリボーン?」
「さっきあの部屋でちょっと色々あってな。どうも言葉で説得して戻る気にさせるしかねーみてーなんだ」
「そんな……!説得なんてどうすれば……!?」

綱吉が顔を曇らせる。
戻れという呼び掛けなど、さっきからずっとしている。
だがこのスクアーロは、一向に戻る気にはならずに、庭を縦横無尽に暴れまわるばかりなのである。

「それはお前が考えるんだぞ、ツナ」
「お、オレが!?」
「超直感があればこいつを戻る気にさせる言葉も見付かるかもしんねーだろ?」
「そんな無茶な……、ぐあっ!!」
「10代目!!」
「ツナ!!」
「沢田!?」

綱吉の肩を、剣の切っ先が掠める。
ただ掠めただけにも関わらず、綱吉は数メートル吹き飛ばされ、固い煉瓦の地面に叩き付けられた。
だが魂の欠片は彼を追いかけなかった。
代わりに、屋敷の玄関前に目を向ける。
そこには、京子とハルがいた。

「ま、まずい!極限逃げろ二人とも!!」
『おせぇ!』

凶刃が、呆然とする2人に迫った。
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