鮫、帰らず
『オレは弱くない。オレは強い。強い。強い。強いんだ。お前らより、誰より、強い。強く、強くあれ。強く、強く強く強く強く強く強く強く!!』
「……しし、ヤバいクスリでもキメてんじゃねーの?なんかスゲーイッちゃってるけど?」
「ぬぅ……!口からもあのドロドロが溢れてるぞ!!」
「普段の隊長からは掛け離れてるわねぇ」
「あんなの、どうやって連れ帰れって言うのさ……!?」
目から、口から、傷口から、ドロドロと液体が溢れ出して止まらない。
さっきまで、数年前のスクアーロと同じ姿をしていたはずのそれは、今や黒い液体に塗れて徐々にヒトの形を失いつつある。
どろどろ、ばちゃばちゃ、どぷり。
黒に溺れるように、その白い顔を上向けて、譫言のように呟き続ける。
『強く、強ければ、強ささえあれば、赦される……、ゆるし、赦してくれ。強いから、強くいるから、あ、あぁああぁぁあ……ああ、頼む、頼むっから……っくぅ、ぅぁあっ』
「……苦しそうだな」
「これ、今なら簡単に捕まえられるんじゃない?」
「つか、誰に赦してもらうんだよ。強いから赦せってナニ?」
「……スクアーロが赦しを請う人なんて一人しかいないだろう。ボスに赦しを願っているんじゃないの?」
虚空に向かって苦しそうに声を絞り出すその様は、酷く異様で、そして見ている者の胸をキツく締め付けた。
自らの体をドロドロと溶かしながら上空をひたと見据えて言葉を繰り返すその姿は、まるで神に祈りを捧げているようにも見える。
その様子が切なく、苦しく、哀しく見える。
『まだ、足りないのか。強さ、強く、足りてない……?どうして……。ああ、あ……倒せば、もっと倒せば……赦して、くれる……?行かないでくれ、行かないでくれ行かないでくれ、行かないでくれ……!オレにできること、を、……なんだって、なんだって……する。どうか、……どうか』
彼女から溶け出す液体は、地面を侵して、ジワジワと4人の足下へ近付いてきていた。
それを避けて下がりながら、マーモンが気が付いたことを口にした。
「今より幼いスクアーロ……、ボンゴレの隠された地下室……、零地点突破の氷……、赦しを請う言葉……、これってもしかして……」
「な、何かわかったのかマーモン!?」
「この場所を見て、思い浮かぶ事はないかい?」
「……ゆりかご、かしら?でもそれがどうしたって言うの?」
「……まさかさ、マーモン。あそこにいるスクアーロっぽいのはゆりかご直後のスクアーロだー……とかって言いたいわけ?」
「その通りさ。ゆりかご直後なら、雨の炎を使ってこないこととも辻褄が合う。使わないんじゃなくて使えないのさ」
ルッスーリアが晴の炎で攻撃したときも、レヴィが雷の炎を使って足止めしたときも、欠片が雨の炎を使う様子はなかった。
その事を思い出して、レヴィもルッスーリアもその可能性を疑い始める。
「なら、赦してって言うのは……」
「まさかボスを守れなかったことを赦せということか!?」
「しし、あの言い様からするともっと別なんじゃねーの?例えば……『自分が側に居ることを赦してくれ』とか、『弱い自分の存在を赦してくれ』とか?」
「何それ!?超ネガティブね!!」
「カマルッスと違って常人ってのは繊細に出来てんだろ」
「んまっ!?」
怒ったらしいルッスーリアを、珍しくレヴィが諌めている。
マーモンを肩に乗せたベルは、そんな二人のことは気にも留めずに、もう1つの考えを述べた。
「それか、……スクアーロの事だしな、全部の事に対して、赦してほしい……くらいは思ってそうだけどな」
「全部?」
「ボスを守り切れなかったこと、ボスの私闘にヴァリアー巻き込んだこと、ゆりかごの責任取るつもりが生きてボンゴレのコマにされたこと、そもそも自分が存在してること」
「そんな……、意味分からないよ。どれもスクアーロの責任じゃないし、謝るなんてお門違いも甚だしい」
「だろ?でもよ、スクアーロって案外そんな奴だぜ?オレ、アイツにワイヤーの戦い教えてもらってたから、お前らより付き合い長いし、ちょっとわかる。スクアーロって何でも自分の背中に背負い込んで自分の責任にしたがる節があるぜ」
「……そんなのって、傲慢だよ。僕達の行動は、僕達が自分で考えて選んだ行動なのに」
「だよな。考えすぎなんだよ。男だの女だの、赦すだ赦さねーだの、スクアーロの事情なんて大してわかんねーけど、オレ達の行動の責任全部、スクアーロに持ってかれんのは王子も赦せねーぜ?」
『傲慢だ』
マーモンのその言葉に、ベルは深く頷いた。
長々と語ったが、つまり言いたいことはその一言にあったのだ。
スクアーロは傲慢だ。
ズルい奴だ。
確かに自分達は仕事もろくにしない怠け者で、金ばかりせびる欲張りで、ボスに色目ばかり使う変態で、周りの人間に噛みついてばかりの嫉妬の塊で、社会から逸脱した外れ者ばかりだが、だからと言って、いや、だからこそ、スクアーロの掌の上という安全地帯に蹲って、仮初めの平和を享受できるようなカスではないのだ。
「スクちゃんが何考えてるのかなんてもうどうでもいいわ!!一発叱って二発殴って三発蹴って連れ帰るわよ!!」
「今の!暴れた分の労力を!奴に向けて使え!!この愚か者が!!」
「しし、レヴィぼろぼろ!!」
「さ、全員揃ったところで、あのバカスクアーロに怒鳴ってやろうじゃないか。……君に面倒見られるほど僕らは落ちぶれちゃいないってね」
マーモンの一言を合図に、4人は黒い液体の海に足を踏み入れた。
「……しし、ヤバいクスリでもキメてんじゃねーの?なんかスゲーイッちゃってるけど?」
「ぬぅ……!口からもあのドロドロが溢れてるぞ!!」
「普段の隊長からは掛け離れてるわねぇ」
「あんなの、どうやって連れ帰れって言うのさ……!?」
目から、口から、傷口から、ドロドロと液体が溢れ出して止まらない。
さっきまで、数年前のスクアーロと同じ姿をしていたはずのそれは、今や黒い液体に塗れて徐々にヒトの形を失いつつある。
どろどろ、ばちゃばちゃ、どぷり。
黒に溺れるように、その白い顔を上向けて、譫言のように呟き続ける。
『強く、強ければ、強ささえあれば、赦される……、ゆるし、赦してくれ。強いから、強くいるから、あ、あぁああぁぁあ……ああ、頼む、頼むっから……っくぅ、ぅぁあっ』
「……苦しそうだな」
「これ、今なら簡単に捕まえられるんじゃない?」
「つか、誰に赦してもらうんだよ。強いから赦せってナニ?」
「……スクアーロが赦しを請う人なんて一人しかいないだろう。ボスに赦しを願っているんじゃないの?」
虚空に向かって苦しそうに声を絞り出すその様は、酷く異様で、そして見ている者の胸をキツく締め付けた。
自らの体をドロドロと溶かしながら上空をひたと見据えて言葉を繰り返すその姿は、まるで神に祈りを捧げているようにも見える。
その様子が切なく、苦しく、哀しく見える。
『まだ、足りないのか。強さ、強く、足りてない……?どうして……。ああ、あ……倒せば、もっと倒せば……赦して、くれる……?行かないでくれ、行かないでくれ行かないでくれ、行かないでくれ……!オレにできること、を、……なんだって、なんだって……する。どうか、……どうか』
彼女から溶け出す液体は、地面を侵して、ジワジワと4人の足下へ近付いてきていた。
それを避けて下がりながら、マーモンが気が付いたことを口にした。
「今より幼いスクアーロ……、ボンゴレの隠された地下室……、零地点突破の氷……、赦しを請う言葉……、これってもしかして……」
「な、何かわかったのかマーモン!?」
「この場所を見て、思い浮かぶ事はないかい?」
「……ゆりかご、かしら?でもそれがどうしたって言うの?」
「……まさかさ、マーモン。あそこにいるスクアーロっぽいのはゆりかご直後のスクアーロだー……とかって言いたいわけ?」
「その通りさ。ゆりかご直後なら、雨の炎を使ってこないこととも辻褄が合う。使わないんじゃなくて使えないのさ」
ルッスーリアが晴の炎で攻撃したときも、レヴィが雷の炎を使って足止めしたときも、欠片が雨の炎を使う様子はなかった。
その事を思い出して、レヴィもルッスーリアもその可能性を疑い始める。
「なら、赦してって言うのは……」
「まさかボスを守れなかったことを赦せということか!?」
「しし、あの言い様からするともっと別なんじゃねーの?例えば……『自分が側に居ることを赦してくれ』とか、『弱い自分の存在を赦してくれ』とか?」
「何それ!?超ネガティブね!!」
「カマルッスと違って常人ってのは繊細に出来てんだろ」
「んまっ!?」
怒ったらしいルッスーリアを、珍しくレヴィが諌めている。
マーモンを肩に乗せたベルは、そんな二人のことは気にも留めずに、もう1つの考えを述べた。
「それか、……スクアーロの事だしな、全部の事に対して、赦してほしい……くらいは思ってそうだけどな」
「全部?」
「ボスを守り切れなかったこと、ボスの私闘にヴァリアー巻き込んだこと、ゆりかごの責任取るつもりが生きてボンゴレのコマにされたこと、そもそも自分が存在してること」
「そんな……、意味分からないよ。どれもスクアーロの責任じゃないし、謝るなんてお門違いも甚だしい」
「だろ?でもよ、スクアーロって案外そんな奴だぜ?オレ、アイツにワイヤーの戦い教えてもらってたから、お前らより付き合い長いし、ちょっとわかる。スクアーロって何でも自分の背中に背負い込んで自分の責任にしたがる節があるぜ」
「……そんなのって、傲慢だよ。僕達の行動は、僕達が自分で考えて選んだ行動なのに」
「だよな。考えすぎなんだよ。男だの女だの、赦すだ赦さねーだの、スクアーロの事情なんて大してわかんねーけど、オレ達の行動の責任全部、スクアーロに持ってかれんのは王子も赦せねーぜ?」
『傲慢だ』
マーモンのその言葉に、ベルは深く頷いた。
長々と語ったが、つまり言いたいことはその一言にあったのだ。
スクアーロは傲慢だ。
ズルい奴だ。
確かに自分達は仕事もろくにしない怠け者で、金ばかりせびる欲張りで、ボスに色目ばかり使う変態で、周りの人間に噛みついてばかりの嫉妬の塊で、社会から逸脱した外れ者ばかりだが、だからと言って、いや、だからこそ、スクアーロの掌の上という安全地帯に蹲って、仮初めの平和を享受できるようなカスではないのだ。
「スクちゃんが何考えてるのかなんてもうどうでもいいわ!!一発叱って二発殴って三発蹴って連れ帰るわよ!!」
「今の!暴れた分の労力を!奴に向けて使え!!この愚か者が!!」
「しし、レヴィぼろぼろ!!」
「さ、全員揃ったところで、あのバカスクアーロに怒鳴ってやろうじゃないか。……君に面倒見られるほど僕らは落ちぶれちゃいないってね」
マーモンの一言を合図に、4人は黒い液体の海に足を踏み入れた。