鮫、帰らず
「で、マーモン。スクアーロの居場所はわかってんのか?」
「言ったでしょ、僕の幻術はスクアーロに届かないんだよ」
「え、じゃあどうやって『始まりの場所』を見付けるの!?」
「……XANXUS、お前にはわかってるんだろ?」
イタリアに到着した一行は、空港を出たところで目的地を見失い、途方に暮れていた。
だが一人、XANXUSだけは、真っ直ぐに己の行く先を見詰めている。
ディーノの問いに、緩慢に頷いたXANXUSは、周りの者達に呼び寄せていたリムジンバスに乗るように示す。
全員が乗り込み、静かに走り出した車の中で、ようやく彼は話し出した。
「今からカスザメの始まりの場所に行く。つまり、あのカスの生家だ」
「生家……そうか、それは確かに『始まりの場所』だな」
その人の生まれた場所。
名前を付けられ、愛されて、育まれた場所。
確かにそれは、『始まりの場所』に相応しいと言える。
「で、スクアーロがそこにいるとどうしてわかるんだ?」
リボーンの問いには答えることなく、鼻で笑って受け流した。
そのままXANXUSは、座席の背凭れに寄り掛かってふんぞり返る。
答える気がまるでないことを見てとったマーモンが、XANXUSに代わって答えた。
「ボスのことだから何とも言えないけど、勘、じゃないかな」
「勘っ!?そんなので目的地を決めたのか!?」
「うるせーぞスカル。XANXUSの言うことには一理あるし、今のところそこ以外に『始まりの場所』は思い付かねえ。まずは行ってみるぞ」
リボーンの言葉に、全員が取り合えず同意する。
「それにしても、どうしてXANXUSクンがスクアーロクンの生家なんて知ってるんだい?」
「…………」
そう聞かれたXANXUSの顔からは、一目で「説明が面倒」という主張が読み取れた。
だが全員の目が答えを求めて自分に向けられていることに気付いて、渋々と答えた。
「……前に、もらった」
答えになってない。
解説を求めて、今度は全員の目がヴァリアーに向けられる。
「省きすぎだよボス……」
「るせぇ」
「しし、確か数年前にスクアーロが『自分のモノになったからヴァリアーで好きに使っていい』って言ってたんだよな?」
「そうそう!ボスにもちょっと前に、年代物のワインとかあるかもしれないから暇潰しにでも使ってくれ~、って言ってたわねぇ」
「ボスがもらったのは正確には家ではなく酒の方だ」
つまり、XANXUSが言いたかったことは、『前に(その家を説明されて更にその中の酒を)もらった』ということらしい。
説明不足も甚だしい。
因みに……。
「スクちゃんの実家スゴいのよぉ~!!大きなお屋敷で、中も立派でぇ~!」
「スクアーロクン実はスゴい良い家のお坊ちゃんだったよね♪楽しみだなぁ~」
「なんか隠し部屋とか色々あったよな」
「ム、そうだったね。随分な物好きが、建てたらしいよ。僕には理解できないけどね」
でかい上に特殊なお屋敷らしい。
そこにスクアーロはいるんだろうか。
バスは、徐々に目的地へと近付きつつあった。
* * *
スクアーロは、白いベッドの上に寝ていた。
一糸纏わぬ状態で、四肢を投げ出している彼女の体は、まるで死体のように血の気がなく、ピクリとも動くことがない。
「さて、身体は全て治ったが……。問題は中身だな……」
傍にいた男が、そう言いながら彼女に毛布を掛ける。
言葉の通り、今まで治る気配のなかった傷も全て塞がっている。
男が彼女の手を胸の上で組ませてやっても、目を醒ます様子はない。
指一つ動かさないその姿は、まるで人形のようであった。
「早く中身を……魂を戻してあげなければならないが……。私には、できないことだ」
その言葉の通り、ベッドの上の身体には、魂が欠けていた。
本来は有り得ないことだが、男の使う術のお陰で、スクアーロは生きたままに、魂と身体が別れてしまっているのだ。
「急がなければ、手遅れになってしまう。人を生きたまま2つに分けるのは、流石の私でも長くは保たないのだ……」
顔に掛かった髪を払い除けてやり、優しく頬を撫でた男は、その場に立ち尽くして、ただただ、待ち続けた。
「言ったでしょ、僕の幻術はスクアーロに届かないんだよ」
「え、じゃあどうやって『始まりの場所』を見付けるの!?」
「……XANXUS、お前にはわかってるんだろ?」
イタリアに到着した一行は、空港を出たところで目的地を見失い、途方に暮れていた。
だが一人、XANXUSだけは、真っ直ぐに己の行く先を見詰めている。
ディーノの問いに、緩慢に頷いたXANXUSは、周りの者達に呼び寄せていたリムジンバスに乗るように示す。
全員が乗り込み、静かに走り出した車の中で、ようやく彼は話し出した。
「今からカスザメの始まりの場所に行く。つまり、あのカスの生家だ」
「生家……そうか、それは確かに『始まりの場所』だな」
その人の生まれた場所。
名前を付けられ、愛されて、育まれた場所。
確かにそれは、『始まりの場所』に相応しいと言える。
「で、スクアーロがそこにいるとどうしてわかるんだ?」
リボーンの問いには答えることなく、鼻で笑って受け流した。
そのままXANXUSは、座席の背凭れに寄り掛かってふんぞり返る。
答える気がまるでないことを見てとったマーモンが、XANXUSに代わって答えた。
「ボスのことだから何とも言えないけど、勘、じゃないかな」
「勘っ!?そんなので目的地を決めたのか!?」
「うるせーぞスカル。XANXUSの言うことには一理あるし、今のところそこ以外に『始まりの場所』は思い付かねえ。まずは行ってみるぞ」
リボーンの言葉に、全員が取り合えず同意する。
「それにしても、どうしてXANXUSクンがスクアーロクンの生家なんて知ってるんだい?」
「…………」
そう聞かれたXANXUSの顔からは、一目で「説明が面倒」という主張が読み取れた。
だが全員の目が答えを求めて自分に向けられていることに気付いて、渋々と答えた。
「……前に、もらった」
答えになってない。
解説を求めて、今度は全員の目がヴァリアーに向けられる。
「省きすぎだよボス……」
「るせぇ」
「しし、確か数年前にスクアーロが『自分のモノになったからヴァリアーで好きに使っていい』って言ってたんだよな?」
「そうそう!ボスにもちょっと前に、年代物のワインとかあるかもしれないから暇潰しにでも使ってくれ~、って言ってたわねぇ」
「ボスがもらったのは正確には家ではなく酒の方だ」
つまり、XANXUSが言いたかったことは、『前に(その家を説明されて更にその中の酒を)もらった』ということらしい。
説明不足も甚だしい。
因みに……。
「スクちゃんの実家スゴいのよぉ~!!大きなお屋敷で、中も立派でぇ~!」
「スクアーロクン実はスゴい良い家のお坊ちゃんだったよね♪楽しみだなぁ~」
「なんか隠し部屋とか色々あったよな」
「ム、そうだったね。随分な物好きが、建てたらしいよ。僕には理解できないけどね」
でかい上に特殊なお屋敷らしい。
そこにスクアーロはいるんだろうか。
バスは、徐々に目的地へと近付きつつあった。
* * *
スクアーロは、白いベッドの上に寝ていた。
一糸纏わぬ状態で、四肢を投げ出している彼女の体は、まるで死体のように血の気がなく、ピクリとも動くことがない。
「さて、身体は全て治ったが……。問題は中身だな……」
傍にいた男が、そう言いながら彼女に毛布を掛ける。
言葉の通り、今まで治る気配のなかった傷も全て塞がっている。
男が彼女の手を胸の上で組ませてやっても、目を醒ます様子はない。
指一つ動かさないその姿は、まるで人形のようであった。
「早く中身を……魂を戻してあげなければならないが……。私には、できないことだ」
その言葉の通り、ベッドの上の身体には、魂が欠けていた。
本来は有り得ないことだが、男の使う術のお陰で、スクアーロは生きたままに、魂と身体が別れてしまっているのだ。
「急がなければ、手遅れになってしまう。人を生きたまま2つに分けるのは、流石の私でも長くは保たないのだ……」
顔に掛かった髪を払い除けてやり、優しく頬を撫でた男は、その場に立ち尽くして、ただただ、待ち続けた。