鮫、帰らず

「君、ねぇ、君。君はまだ、生きたいかい?」

生きたい……?
どうだろう。
わからない。

「死んでも、いいのかい?」

……死にたくはない。
だって、まだ伝えなければ、ならないことが、残っているから……。

「じゃあ、行こうか」

…………どこに?

「君の、始まりの場所に。……最後くらい、役目を忘れて、自由に生きてほしいんだよ。私からの、最初で最後のプレゼント……」

フワリと体が浮いた。
冷たい手が、額に触れる。
溶けそうなくらい熱くなっていた体が、額を中心に冷やされていく。
身体中を冷気が覆って、ズキズキと痛む傷口を癒していく。

「行こうか。大丈夫、君が望むのならばきっと、上手くいくよ……」


 * * *


「ム、ムム……」
「どうしたんだよマーモン」

唸るマーモンに、ベルが不思議そうに尋ねた。

「……スクアーロに僕の幻術が届かなくなった」
「……密室からうちの隊員に気付かれずにスクアーロを連れ出す奴だ。幻術遮られても何もおかしくねーよな」

憔悴した様子で言ったベルが、主の消えた部屋を隅から隅まで見渡した。
隊員達の報告で病室に集まった者達は、部屋を引っくり返す勢いでスクアーロを探したが、結局彼女を見付けることは叶わなかった。
捜索の結果見付かったのは……。

「スクアーロのボロボロの隊服に、ほどけた包帯……。他には何にも見付からねーのな?」
「うん、後は仕事用っぽいパソコンくらいで……他には何にも」

服を置いて、靴を履いた形跡もなく、スクアーロは一体どこに行ってしまったのか。
直前まで意識がなかったことと、怪我の様子を含めて、彼らはとある結論に達した。

「やっぱり、スクちゃんが誰かに拐われちゃったってこと!?」
「そんな……!僕の幻術も届かない、ちゃんとした医療設備もない状態じゃあスクアーロは……!」

マーモンは最後まで言わなかったが、その先に続く言葉は、全員わかっていた。
このまま見付からなければ、スクアーロは、死ぬ……!!
張り詰めた空気、顔を伏せる人々。
それを見て、今まで静観していたXANXUSが、ようやく動き出した。
ぐるりと一周、部屋を見回し、窓を覆うカーテンに目を付ける。
無造作にカーテンを捲り、その裏を見たXANXUSは、ルッスーリアを呼びつけた。

「ジェット機を用意しろ」
「ジェット機?」
「帰るぞ」
「え、ちょっ……!どういう事なのよボス~!?」

言葉少なにそれだけ言って、XANXUSがヴァリアーを引き連れて部屋を出ていく。
XANXUSが部屋を出たあと、ディーノがカーテンの裏を調べると、そこには火で焼いて書いたと思わしき文字が並んでいた。

「『彼女は始まりの場所に』だって……?どういう意味だ……?」

ディーノが読み上げた言葉を聞いたリボーンが、ニヤリと笑って言った。

「なるほど、そういうことか。ツナ、オレ達もヴァリアーを追い掛けて、さっさと行くぞ」
「はあ!?行くってどこにだよ!!」
「決まってるだろ。XANXUSは『帰るぞ』と言ったんだ。アイツらが帰るところは……」
「イタリアか……!!ロマーリオ、オレ達も今すぐ準備して行くぞ!!」

走り出したディーノの後を、綱吉達ボンゴレが追い、それを更に、バジル、シモン、それに京子、ハル、クロームの女性陣が着いていく。

「ディーノさん、オレ達も……!!」
「拙者も同行させてください!!」
「僕達にも手伝わせてください!!」
「私たちも……!!」
「き、京子ちゃん達も!?」

それを見た白蘭が、桔梗に言う。

「面白そうだね。僕も行こうかなぁ♪」
「では我々も準備をして参ります」

動き出す彼らを見て、骸はあからさまに顔を顰めた。

「僕の獲物をとられるのは、不快ですね」
「では、骸様……」
「我々も行きましょう、イタリアへ」
「久々のイタリアだびょん!!」
「はしゃがないでくださいよ犬にーさん」
「んあ!?」

多くの者達が病室を後にし、最後にそこに残ったのは、リボーンとユニ、後から呼ばれてきたマーモン以外のアルコバレーノと、雲雀恭弥だった。

「あなたは行かないのですか?」
「……そうだね、あの人とはまだまともに戦えてないし、僕も行こうかな」
「オレ達も行くぞコロネロ」
「ああ、オレ達の為の代理戦争で死にかけてるんだからな」
「密室から消失したトリックも気になるしな」
「オ、オレも行くのか!?」
「当たり前だぞコラ!!盾くらいにはなるだろ」
「なんだとー!?」
「私も行きましょう」

そしてその場からは誰もいなくなった。
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