代理戦争編

「――……あれ?みんな早いんだね♪」
「あなたが遅いのですよ、白蘭」
「えへ♪」

深夜、11時50分。
ようやく、復讐者と対峙する戦士達が全員集まった。
ヴェルデ達が作った絶炎テントの中に入った白蘭は、その内部を見て嘆息する。

「へぇ~!さすが、正チャン達が作っただけあるね。外からは認識できないにも関わらず、こんなに豪華な作りになってるなんて♪」

人数分のベッドに、簡易キッチンまで付いている豪華仕様のテント。
その中では、六道骸、ディーノ、ザンザスが寛いでいて、彼らに付き従うように、柿本千種、ロマーリオ、ルッスーリアが控えている。

「白蘭様、お休みになられますか?」

後から入ってきた桔梗に尋ねられ、白蘭は首を横に振った。

「んーん、気分上がっちゃって寝れなさそうだよ」
「左様ですか。でしたらハーブティーなどは如何でしょう?気持ちが落ち着かれるかと」
「じゃあもらおうかな」
「かしこまりました」

腰を折ってお辞儀をした桔梗は、すぐにキッチンへと向かった。
適当なイスに腰掛けた白蘭は、寛ぐ人々を観察し、ふとあることに気付く。

「あれ?スクアーロクンとヒバリクンは?」
「クフフ、忌々しいガットネロは最終調整があるとかで、アルコバレーノ達と外にいます。雲雀恭弥は、恐らく戦闘が開始するまでは現れないでしょうね」
「ふぅん」

用意周到なスクアーロや、群れを嫌うヒバリらしい理由だった。
それだけを聞くと、白蘭は懐から取り出したマシュマロを食べ始める。
既に周りの者達への興味は失せたようだ。
運ばれてきたハーブティーをすすり、満足そうに目を細める。
他の者達も、それぞれに、武器の手入れをしたり、仲間と密やかに会話を交わしたりと、寛いだ様子を見せていた。
だが誰一人として、眠りにつく様子はない。
それは、周りにいる者達への警戒のせいか、それとも戦いの前で気が高ぶっているからだろうか。
妙な緊張感を孕んだ空気が流れるテントの中で、彼らはただ静かに、戦いの時を待った。


 * * *


「準備は出来てんな?」
「……お゙う。万端だ」

薄い色の入ったサングラス。
黒尽くめの洋服。
いつも無造作に垂らしている長髪は、後頭部の高い位置でコンパクトに纏められている。
そして体全体を隠すように纏った特殊なマントが、その姿を闇に溶け込ませていた。
今はフードを外しているため首から上だけが異様に浮き立って見えている。

「沢田達は大丈夫なんだろうなぁ?」
「ツナ達にはバジルが着いてるし、何かあればヴァリアーの隊員が手助けしてくれるんだろ?」
「……まあな」

いつ戦闘が始まっても対応できるよう、万全に準備を整えたスクアーロは、それでもやはり不安げにその瞳を泳がせた。

「……ろくに訓練できなかったが、本当にオレの狙撃は問題ねぇのか?」
「お前が焦りさえしなければ問題ねぇぞコラ!!あれ以上を目指すんなら、毎日死ぬ気で数年は修業しないと無理だろうぜ!!」
「どっちにしろ、ここまで来ちまったんだから、お前は精一杯戦えばそれで十分だ」
「うん、スクアーロならきっと大丈夫だよ」

アルコバレーノ達の励ましを、肩をすくめて受け流したスクアーロは、気を紛らわせるように、ストレッチを始める。
戦いの前で落ち着かない、それだけ、なのだろうか?

「……スクアーロ、君はテントで休まなくて良いのかい?」
「こっちの方が落ち着くからなぁ」
「そう……?でも、戦いまで少しでも体を休めてね?」
「わかってる」

マーモンの声に、少し上の空気味に答える。
本当にわかっているのか、いつものスクアーロを知っているマーモンは、疑わしげに彼女を見たが、言っても何も変わらないこともわかっていたため、それ以上何も言うことはなかった。

「……日が、変わるな」

中天にかかる月が、腕時計の文字盤を柔らかく照らし出す。
今、深夜0時を越えた。
ベルは鳴らない。
戦いの時まで、まだまだ時間は掛かりそうだった。
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