代理戦争編

「う……うぅ……。バーボン……う、ウィスキー……。ぶ、ブランデーは、棚の奥に……。ウォッカ……ウォッカは、ウォッカは流し台の下にあるって言ってんだろうがゴラァア!!」
「うわたっ!?」
「はうっ!!夢……!?」

ブツブツと寝言を呟いて魘されていたスクアーロが、突然叫んだかと思うと、跳び跳ねるように身を起こした。
そのせいで、彼女を心配して覗き込んでいたディーノが、盛大に頭突きを食らって倒れ込んだのに、周りの面々は冷たい視線を送る。

「何やってんだへなちょこ」
「寝惚けた人間に頭突き食らうなんて情けねーぞコラ!!」
「しし、ホントにこいつがバトラーで大丈夫なわけ?」
「そこまで言われる筋合いはないんじゃないか!?」

強烈な頭突きに涙目になったまま、理不尽な罵倒に反論したディーノは、そのまますぐに、リボーンの小さな足に蹴飛ばされて再び倒れた。

「一体どんな夢見てたんだよスクアーロ」
「ザンザスにボコボコにされる夢を……」
「ボスに?うへぇ、悪夢じゃん!!」
「それより今、何時だぁ?」
「そろそろ22時になるな」
「なに!?」

寝ぼけ眼を擦りながら、応答していたスクアーロだったが、時間を聞いた瞬間にカッと目を見開いた。

「もう日が変わるまで2時間しかねーじゃねえか!!」
「ゆっくり休めて良かったじゃねえか」
「休んでねえだろぉ!!テメーが気絶させたんじゃねぇかぁ!!」

立ち上がって辺りを見回したスクアーロはそこでやっと自分がどこにいるのか気付いたようだった。
彼らがいるのは、並盛に流れる川、そのそばに聳え立つ崖の上だった。

「ここは……、」
「マーモンチーム……お前らのダミーを置く予定の場所だぞ。ツナ達も直に来る」
「跳ね馬がお前のことをここまで運んできたんだぜコラ」

起き上がって頭を掻いているディーノを瞠目して見たスクアーロは、その顔になんとも形容しがたい表情を浮かべる。

「……チッ」

最後は、舌打ちをして怒ったように顔を逸らした。
伸ばしっぱなしの銀髪がサラリと流れて、その横顔を覆い隠した。

「で、そのダミーはどこにある」
「しし、ここから100メートル先に、もう置いてあるぜ」
「なら、ここに用はねーだろ。さっさと移動するぞぉ」
「そうだな」

それぞれが、死ぬ気の炎と姿を隠すマントを羽織る。
復讐者……イェーガーとバミューダを誘き寄せ戦うために、並盛の広場まで移動しなければならなかった。
マントの裾を揺らし、無言のままに移動するスクアーロを、ディーノが静かに見詰めていた。
それを見たアルコバレーノ達が、にやりにやりと笑いながらちょっかいを出してくる。

「なんだ跳ね馬、お前アイツに気でもあるのか?」
「顔に好きですって書いてあるぜコラ!!」
「何言ってんだバカップル。もう既に告白も済ませてるぞ」
「ちょっ、まっ!なんで知ってんだよリボーン!?」

ほほう、と笑みを深めてディーノを見るコロネロやラルとは対称に、衝撃を受けたのはベルフェゴールだった。

「し、ししっ……!しししし!!お、お前っ、お前スクアーロに、こ、こここ告白っ、したのかよ!?」
「あ……いや、その、まあそんなところ?」

照れて赤くなりながら肯定したディーノに、ベルはその頬にたらりと汗を流す。
笑みを形どったままの口元に変化はなかったが、何故かその顔色は青い。

「しし、うししし、しししっ……!!あ、ありえねー……!だってスクアーロって。……え、スクアーロだろ?いやいやいやいやいや……!」

頭を抱えて自分の世界に入り込んでしまった。
ベルにとってスクアーロは、今まで男だと思っていたうえに、ずっと身近にいた数少ない存在なのだ。
いくら普段は憎まれ口ばかり叩いている間柄でも、それなりに懐いていたらしいその人の衝撃の事実に、ショックは隠しきれなかった。
そんなベルを無視して、アルコバレーノ達は更に詳しい話を聞こうとディーノを追い込んでいく。

「アイツのどこが良いんだ?戦闘技術こそ高いが、女としては色々と足りてねーだろコラ」
「なっ!!んなことねーよ!!そ、そりゃあ胸も小さいし振る舞いもほぼ男だけど、努力家だしカッコいいし、美人だし面倒見良いしっ!!」
「でも、なんか避けられてるよな」
「ゔっ……!!」

リボーンの指摘通り、今日会ってからずっと、二人はまともに口を聞いていなかった。
手を掴んだときなんかは、かなり強めに振り払われてしまっていた。

「……嫌われてんのかな?」
「かもな」
「ハッキリ言うなぁ……」
「でもアレは嫌ってると言うよりは……」
「?」

バッサリと裁ち切ったリボーンの言葉に続けて、ラル・ミルチが何か言おうとしたところで、前を走っていたスクアーロが声を張り上げた。

「ゔお゙ぉい!!着いたぞぉ!!」

スタンッと軽い音を立てて着地し、後から来る仲間達を見たスクアーロは怪訝そうに首を傾げた。

「……ベルはどうかしたのかぁ?」
「……少し疲れてるだけだぞ、コラ」

青い顔でヘラヘラと笑っているベルはかなり異様だったが、前日から戦い続きだったこともあってか、コロネロの言葉に納得したスクアーロは、ベルを休ませる場所を探すために辺りを見回した。

「他の奴らと合流するまで、そこの木陰で休ませるか……」

ベルを引っ張って、スクアーロが木立に入っていく。
真実を知らぬは本人ばかりである。
他の者達もそれに着いていった。
日付が変わるまで、あと一時間程。
広場にはまだ、彼ら以外の人は来ていなかった。
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