代理戦争編

―― タァン…… ボッ

「へーえ、なかなかやるもんだなコラ」
「まあ、並よりは出来ると思うぜ」

―― タァン…… ボスッ

「達人レベル……には少し及ばんが、筋は良いな」
「ラル・ミルチが誉めるんなら、相当なもんだぞ」
「何クソッ!!オレ様だってこれくらい出来るぜ!!」

―― タァン!! ガギンッ

「外してんじゃねーか」
「だからお前はパシリなんだぞコラ!!」
「うっ!!うるせぇ!」
「はい?」
「ひっ!!何でもない!です!!」
「……少し静かにしててくれねぇかぁ?」

―― タァン…… ビスッ

淡々と的を狙撃し続けるスクアーロの横で、アルコバレーノの、リボーン、コロネロがスカルをシバいている。
呆れたようにそれを見ながら、ラル・ミルチはスクアーロの指導をしていた。

「……しかし、まさかお前がオレ達に師事を請うて来るとはな。驚いた」
「狙撃は得意分野じゃねぇからな。短時間で少しでも腕を上げるには、最強と呼ばれるお前らに師事を請うのが一番だと思っただけだぁ」

アルコバレーノ達に今回の作戦について説明をしたスクアーロは、続けて彼らに、とある頼みごとをしていたのだった。
それは……、『明日の代理戦争の時までに、自分の狙撃の腕を出来る限り磨いてくれ』ということだった。

「確かに、あの広場で戦うなら狙撃ってのは良いかもしれねぇな」
「ショートワープを使って突然後ろに回り込まれても、お前がカバーすれば致命傷を負う確率は減りそうだな、コラ」
「だがあの近い距離で狙撃して、もし避けられたらすぐに居場所が割れるんじゃないか?そうしたらイェーガーとかいう奴に狙われることになる」
「それは問題ねぇ。技術屋達に炎の波動を遮り、居場所を隠す装置を作らせている。それを使って、更に一発撃つごとに移動すれば、簡単には見付からねぇ」

スクアーロは弾を装填し、ヴェルデ作の動き回る的を撃ち抜いた。
広場を円形に囲っている森を上手く使えば、狙撃手の居所を誤魔化すことは可能なはずだ。

「なるほどな。だがそれでも、油断はするなよ」
「イェーガーの戦力は未知数だからな。ツナが手も足もでなかった程だ」
「オレ達が戦えれば何とかなったかもしれないけどな、コラ」

シバき倒された挙げ句に、動く的の中に放り投げられたスカルを器用に避けながら狙撃を続ける。
動き回る仲間を避けて狙撃する為の練習台としては、ちょうど良いかも知れない。
わざわざスカルに近い的ばかりを撃ち落としながら、スクアーロは頭の片隅にそんなことを思った。

「とりあえず腕を上げてえなら実践あるのみだぞ」
「今度は、一発撃つごとに移動しながら狙撃してみろコラ!!」
「スカルに当てたら逆立ちで町内一周してもらうからな」

この頼みごとをしたとき、スクアーロはコロネロ一人に教えてもらうつもりだった。
だがまさか、この鬼教官3人に指導してもらうことになるとは。
選択を間違えただろうか、と思い、しかし今更逃げることも叶わないので、大人しく頷いたスクアーロは、言われた通りに動き出す。

「……さっき家で見たときは心配してたんだけどな」
「?何をだ?」
「少し様子がおかしかったんだ。オレの思い過ごしだったかもな」
「……言われてみると、顔がいつもより青白い気がするぜ、コラ」

猿のように器用に、木から木へと跳び移るスクアーロだったが、良く良く注意して見てみると、元から白い顔が、青褪めているように、見えなくもない。

「マーモンの話だと復讐者に襲われてかなり消耗してるって話だったしな。小まめに休息を取らせた方が良さそうだ」

リボーンの言葉に二人は頷き、少しスクアーロの様子を眺めた後、声を掛けた。

「一旦休憩するぞコラ!!」
「……まだ出来る」
「無理は禁物だぞ」
「休息も時には必要だ。無理に動き続けるのは、頭の良い修業の仕方とは言えないぜ」
「……わかった」

渋々と頷き、木の上から降りてきたスクアーロに、リボーンがミネラルウォーターを手渡す。

「……どういう風の、吹き回しだぁ?」
「マフィアは女には優しいんだぞ」
「……初耳だな」

嫌そうな顔をして、ミネラルウォーターを受け取ったスクアーロは、木の根元に座り込んで、額から吹き出る汗を拭った。

「0時を越す前に移動するんだろう?その前にゆっくり休んだ方が良いな」
「……いや、寝ないで行く」
「ダメだぞ、アホスクアーロ」
「グッ!?」

寝ないと断言したスクアーロに、リボーンの容赦ない蹴りが当たる。

「寝ないで行くなんて無茶だぜコラ!!」
「それとも、オレ達が納得できる理由でもあるのか?」

赤ん坊達の鋭い視線を浴びて、スクアーロは戸惑いながらも、ぽつり、ぽつりと理由を話し出した。

「寝る寝ない、の前に、眠れねぇんだよ」
「眠れない?なぜだ?」
「……夢見が悪くて」
「そんなんじゃ納得できねーぞ」
「あぐっ!!」

今度は腹にパンチを受けた。
リボーン以外の二人も、納得のいかない顔で、スクアーロを睨み上げた。

「そんな子供みてぇな理由で許せるかコラ!!」
「ここで永遠に眠らせてやってもいいんだぜ」
「ゔっ……お前らにゃ関係ね……」
「関係ありありだぞ」
「ふげっ!?」

今度は頬にビンタ。
手加減はしているようだったが、これで『女には優しいんだぞ』と言われても信じられない。

「だいたい寝たくないほどの夢ってどんな夢なんだよ?」
「…………」
「話さねーと鼻の穴1つに繋げてやるぞ」
「なっ!!……話すから銃を近付けんなぁ!!」

リボーンの銃を手で押し返し、スクアーロはため息をついて白状した。

「……自分が死ぬ夢だ。全身を刺されて死んだり、海に沈んで溺死したり、一人暗闇の中で朽ちていくような、そんな夢だ……」
「!!」
「……確かにそんな夢を見たら、寝覚めが悪いだろうな」

わかってくれたのか、と胸を撫で下ろしてリボーンを見たスクアーロだったが、その考えが甘いことをすぐに思い知る。

「でも、寝なきゃダメだぞ」
「ぐっ!?」

リボーンは鳩尾に拳を叩き込む。
予期せぬ攻撃を受けたスクアーロは、ズルズルと崩れ落ちて気を失った。

「手荒いな、リボーン」
「こうでもしないと、寝そうになかったからな」

意識を失ったスクアーロを、3人で引き摺り、彼らは再び沢田家に戻った。

「うぅ……、病み上がりだってのに、狙撃の的にするなんて酷すぎる……!!」

一人取り残されたスカルは、べそべそと泣きながら、寂しく彼らの後を追ったのだった。
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