代理戦争編

「ツナ、ちょっと良いかしら」
「ビアンキ?」

作戦の細かいところを話し合っている最中だった。
リビングのドアから、ビアンキが顔を出して声を掛けてきた。

「京子とハルから、預かりものよ」
「え?」
「それから、クロームも来たわ」
「あ、いらっしゃいクローム!!」
「あの、ボス。京子ちゃん達から、これ……」
「あ、お守り!!ありがとうクローム!!」
「!!うん、どういたしまして……」

クロームからお守りを受け取り、嬉しそうに笑った綱吉を見て、スクアーロが1つ息を吐き出して言った。

「少し休憩するか」
「え、でも時間が……」
「焦っても意味ねぇだろ。少し休んで、外の空気でも吸ってスッキリしてからの方が、頭も回るだろうぜぇ」
「……うん、わかった!」

頷いて、綱吉は家を出た。
後から呼ばれて駆け付けた、スパナと入江も立ち上がる。

「じゃあ僕達も行きますね」
「頼まれたもの、必ず明日までに届ける」
「うん、頼んだよ二人とも♪」

それぞれが、それぞれの成すべきことを成すために、動き始めた。
山本、獄寺、了平、クローム、フランが移動し、雲雀もどこかへ姿をくらました。
残ったヴァリアー、キャバッローネ、ミルフィオーレ、六道一味、シモンとバジルも、一時休憩を取るためにそれぞれ立ち上がって動き回り始めた。

「なんか飲むかぁ?」
「酒」
「酒はねえぞぉ」
「……コーヒー」
「王子紅茶ね」
「オレもボスと同じものを」
「僕も紅茶のみたいな~♪」
「クフフ、僕はホットチョコレートが飲みたいです」
「あ、じゃあオレにもコーヒーくれよスクアーロ!!」
「お前らなぁ……」

便乗して飲み物を頼んでくる調子の良い者達に、スクアーロはこめかみに血管を浮かせたが、結局はルッスーリアに手伝ってもらい、全員分の飲み物を用意することになった。
骸が要求したホットチョコレートは材料がなかったので、ココアに変更されたが。

「それにしても、そのイェーガークンってどんな風に強いんだろうね?早く戦ってみたいなぁ♪」
「沢田綱吉の話では、夜の炎を使ったショートワープを使ってくるのでしたね。死角に回り込まれたときに、どれだけ早く対応できるかが鍵になりそうですねぇ……」
「他の復讐者も強いんだよね?」
「しし、デカイの二人と小さいのが一人いたけどさー。手榴弾食らってもピンピンしてたぜ」
「えぇ!?」
「拙者達で連携して戦えば、きっと勝てます!!」
「そ、そうかな……?」
「炎真はもっと自信もって良いと思うぜ?」
「あ、ディーノ、さん?」
「おう!炎真もバジルも、ツナと一緒に頑張ってくれな!!」
「は、はい……!」

それぞれ気の合う者と打ち解けあっているようだった。
それをキッチンから眺め、スクアーロはほう、と、息を吐いた。

「スクちゃん、疲れた?」
「……いや、大丈夫だ。お前こそ大丈夫かぁ?朝まで満足に歩けもしなかったんだぁ。無理はするなよ」
「んもう!こっちの台詞よ!!隊長が無理して体壊したなんてなったら、雨部隊の子達になんて言われるか……!!」

それぞれがお盆にコップを乗せて運びながら、会話を交わす。
お互い、口では大したことないように言っているものの、本当は復讐者との戦いでボロボロだった。
ルッスーリアはいつもより動きが鈍かったし、スクアーロはごくたまにだが、痛みに顔を顰めていた。
飲み物を配りながらも、背中を余り動かさないようにしている様子を、ルッスーリアがサングラスの向こうから心配そうに見詰める。
ザンザスにコーヒーを渡し、レヴィに、骸に、炎真に、アーデルハイトにコップを渡し、最後にディーノにコーヒーを渡した。
ディーノはコップを持ったスクアーロの手ごと、己の手で包んで、にやっと笑った。

「ありがとなスクアーロ」

そしてスクアーロは…………


 * * *


己の手が、氷のように冷たい。
そしてたまに、ふぅっと意識が遠退く瞬間がある。
自分は、おかしくなってしまったのだろうか。
会話を交わして、笑い合う者達の声が、間に壁を挟んでいるかのように、遠くに聞こえた。
痛めた背中を庇いながら、コップを手渡していく。
最後の1つを、跳ね馬に手渡した時、自分の冷たい手を、ゴツくて暖かい手が、優しく包み込んだ。
その暖かさが、昨夜に見た夢の記憶を掘り起こす。
肉が、肉が溶けて落ちていく。
潰されて、体液を垂れ流しながら、骨が剥き出しになって、真っ白な骨の手に、暖かく仄かに光る綺麗な手が、触れて、触れて、ふれて、ふれて……

―― バチッ

気付いた時には、跳ね馬の手を振り払っていた。
取り落としたカップからコーヒーが溢れて、カーペットに染みを作る。

「スクちゃん!?どうしたの?」

駆け付けたルッスが、溢れたコーヒーを拭き取っている。
ドクドクと脈がなっている。
心臓が喉にまで競り上がってきてるんじゃないのかって程に、鼓動が大きく聞こえた。

「ス、ク……アーロ?」

驚いて、辿々しく名前を呼んでくる跳ね馬から、逃げるように一歩後退って、自分の手を見詰めた。
震える手には、確かに肉が付いている。
でも、気を抜くとあの夢のように体がバラけて死んでいくんじゃないのかと、そう思えてならなかった。

「――……なんかあったのか?」
「リ、リボーン!?」
「ディーノさん!リボーン達アルコバレーノも、復讐者を倒すのに協力してくれるって!!」
「本当か!?」

突然、耳に飛び込んできた甲高い子供の声に、我を取り戻す。

「それよりどうかしたのか?やけに静かだったじゃねーか」
「……コップ引っくり返しちまったんだぁ。悪いな沢田ぁ。カーペット汚しちまった」
「ああ!本当だ!!洗わなきゃ……」

手を握り締めて、体の後ろに隠した。
都合よく現れたリボーンは、明日の代理戦争に協力すると言う。
オレはリボーンに向き直って話し掛けた。

「詳しい作戦を説明する。……そのついでに、1つ、聞いてほしい頼みがある」
「……いいぞ。アルコバレーノは外にいるからな。場所を移して話すぞ」
「あっ!リボーン、スクアーロ!?」

呼び止める沢田の声を無視して、玄関から飛び出し、アルコバレーノの元に駆け付けた。
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