代理戦争編
「何これマジなの!?一睡もしてないわよ!!」
「傷治んねーっての!」
代理戦争3日目。
日付が変わったその瞬間に、けたたましく鳴った時計は、ヴァリアー達の抗議に耳を貸す様子もなく、無機質な声でカウントダウンを続けるばかりである。
「何を考えてるんだ!!こんな日程ありえないよ!!拷問じゃないか!!」
「うろたえんじゃねえマーモン!!ザンザスを見習え」
「!!」
慌てて飛び上がったマーモンに、喝を入れたスクアーロが、目線でザンザスを示す。
示されるままマーモンが見た先では、穏やかな寝息を立てて眠るザンザスがいた。
「寝ている!!」
「聞こえてないだけじゃない!?」
「すごく疲れてるんだよ」
「戦いたくねーから、死んだフリかも!」
「ゔお゙ぉい!!オレが言いてえのは動じてねえってことだぁ!!」
こんなときまで自分達のペースを崩さないことは、ある意味スゴいことなのかもしれない。
そして彼らが叫んでいるそのうちに、再びあの黒い炎が現れる。
「この炎!!また奴だ!!」
「激ヤバッ!オレ達戦えねーし、代理は隊長とボスしかいねーじゃん!」
「しかもちょっと何なのよ!!一人だけでもハンパない復讐者が……3人も来たわ!!」
炎の中から現れた3体の復讐者。
目を覚ましたザンザスが腰をあげ、スクアーロが剣を構えた。
『バトル開始。今回の制限時間は12分です』
ザンザスの2丁拳銃が火を吹いた。
部屋が破壊される。
煙に包まれ、復讐者の姿も、仲間達の姿も見えなくなった。
スクアーロは、煙に紛れ、復讐者たちを攻撃しようと足を踏み出したが、勢いよく腕を引かれて、走り出すことは叶わなかった。
自分の腕を引いた人物を見詰め、スクアーロは目を見張ってその名を叫ぶ。
「ザンザス!?」
「退くぞ」
「なっ……!!」
その口から出た言葉に、更に驚き、言葉に詰まる。
まさか退却を命じられるとは、思ってもみなかったのだ。
「まだ時じゃねえ」
「だがぁ!今やらねーでいつやるってんだ!?だいたい逃げるったって……!!」
「マーモン」
「!!わかったボス。プレゼントプリーズ!!」
『メッセージ受諾!!』
近くで、藍色の光が溢れ、マーモンが呪解したことを悟ったスクアーロは、顔を歪ませる。
「ここで呪解を使ったら、他のチームとマトモに戦えねーぞぉ!!」
「今使わねーでいつ使う。退くぞ、カスザメ」
「ぐ……くそっ!!」
マーモンの呪解時間だって、もうほとんど残っていない。
悪態を吐き、舌打ちをしたスクアーロが、怪我人達を乱暴に抱えて、喚び出したアーロの上に乗せる。
「飛び降りるぞぉ!!捕まれ!!」
破壊された窓から、アーロと共にスクアーロが落ちていく。
続いてザンザスが飛び降り、その後を幻術で敵を欺きながら、マーモンが降りていく。
落ちる最中にコルヴォとファルコを出し、二羽に捕まりながら、ホテルの裏口付近に着地したスクアーロは、素早く辺りを見回すと、入り組んだ路地に踏み込んだ。
「ちょっと!!今回の制限時間は12分あるのよ!!」
「マーモンの呪解はもう終わりだろ?
逃げ切れんのかよ!!」
「るせぇぞぉ!!奴らがオレ達のいる場所に寸分違わず現れんのは、恐らく奴らがオレらの死ぬ気の炎を感じ取っているからだぁ!!だがこうも入り組んでいて狭い路地なら、居場所の特定はしづらいはずだぁ。とにかく止まらずに走り続けてりゃ、よほど運が悪くなきゃ捕まらねぇはずだぁ!!」
「ム!でもそれ全部推測じゃないの!?」
「現に奴らはまだ現れてねぇだろうがぁ!!」
「今はまだね!!」
全員で、復讐者に見付からないようにひっそりと叫ぶという器用な芸を披露しながら、今できる全力で走る。
時折路地の隅に蹲っているホームレスらしき人影とスレ違う度に、悲鳴をあげられた。
「あと何分だぁ!?」
「あ、あと1分だよ!!」
「……来たぞ」
「!?」
最後尾を走るザンザスの声に、振り返ったスクアーロが顔を引き攣らせる。
後ろからは、猛スピードで復讐者が追い掛けてきていた。
マーモンが喉に張り付いたようなか細い悲鳴を上げる。
「カスザメ」
「くそっ!!先頭に行けザンザス!!」
スクアーロの言葉に従い、前に出たザンザスは、ヴァリアー達を先導して走る。
最後尾になったスクアーロは、懐に手を突っ込み、すぐに引き抜く。
その手には、どこにしまってあったのか、幾つかの手榴弾と、中に青や赤の炎を揺らめかせる大量の水晶を掴んでいた。
「食らえ!!」
「!!」
水晶をばらまき、遅れて、ピンを引き抜いた手榴弾を投げる。
狭い路地に、壁のように炎が燃え上がり、その隙間を縫って投げ込まれた手榴弾が、復讐者たちのマントを焦がした。
後ろを確かめる時間も惜しみ、爆発に背中を押されるようにして走るスクアーロ。
すぐに復讐者達は立ち上がり、爆炎を乗り越えてその背に手を伸ばすが……。
―― ティリリッ
『戦闘終了』
「なっ!あ……!」
その唐突な音に驚き、スクアーロは足を縺れさせて転ぶ。
その頭を掠めるようにして、復讐者の鎖が飛んできた。
転ばなければ脳天を貫かれていただろう。
幸運にも死を免れたスクアーロを、冷たい眼差しで見下ろした復讐者達は、名残惜しむ様子すらなく、あっという間に炎に包まれてその姿を消した。
「隊長!!大丈夫!?」
「ぎ、ギリギリで大丈夫だったぜ……」
ゼイゼイと肩を弾ませながら、吹き出す汗を拭って立ち上がったスクアーロをアーロが支える。
主を心配して取って返してきたらしいアーロだが、そのせいで怪我人達はコンクリートの上に投げ出されていた。
「……くそっ、復讐者の野郎共!」
「早く戻ろうスクアーロ。今の戦闘が3日目の分だってことは今日一日はゆっくり休めるんだから。今日は休んで、明日こそは……」
「……そうだなぁ」
もう一度アーロの背に怪我人達を乗せて、重い足を引きずりながら歩き出す。
暗いオーラを背負うスクアーロの背に、ザンザスがおもむろに蹴りを食らわせた。
「いっでぇぇえ!!!」
「ドカスが」
「な、何するんだいボス!?」
「沈んでんじゃねえ、気色わりぃ。さっさと帰るぞ」
スタスタと歩き出したザンザスを追って、背中を押さえてヨロヨロと歩くスクアーロを、珍しく仲間達全員が労るような視線で見ていたのだった。
「傷治んねーっての!」
代理戦争3日目。
日付が変わったその瞬間に、けたたましく鳴った時計は、ヴァリアー達の抗議に耳を貸す様子もなく、無機質な声でカウントダウンを続けるばかりである。
「何を考えてるんだ!!こんな日程ありえないよ!!拷問じゃないか!!」
「うろたえんじゃねえマーモン!!ザンザスを見習え」
「!!」
慌てて飛び上がったマーモンに、喝を入れたスクアーロが、目線でザンザスを示す。
示されるままマーモンが見た先では、穏やかな寝息を立てて眠るザンザスがいた。
「寝ている!!」
「聞こえてないだけじゃない!?」
「すごく疲れてるんだよ」
「戦いたくねーから、死んだフリかも!」
「ゔお゙ぉい!!オレが言いてえのは動じてねえってことだぁ!!」
こんなときまで自分達のペースを崩さないことは、ある意味スゴいことなのかもしれない。
そして彼らが叫んでいるそのうちに、再びあの黒い炎が現れる。
「この炎!!また奴だ!!」
「激ヤバッ!オレ達戦えねーし、代理は隊長とボスしかいねーじゃん!」
「しかもちょっと何なのよ!!一人だけでもハンパない復讐者が……3人も来たわ!!」
炎の中から現れた3体の復讐者。
目を覚ましたザンザスが腰をあげ、スクアーロが剣を構えた。
『バトル開始。今回の制限時間は12分です』
ザンザスの2丁拳銃が火を吹いた。
部屋が破壊される。
煙に包まれ、復讐者の姿も、仲間達の姿も見えなくなった。
スクアーロは、煙に紛れ、復讐者たちを攻撃しようと足を踏み出したが、勢いよく腕を引かれて、走り出すことは叶わなかった。
自分の腕を引いた人物を見詰め、スクアーロは目を見張ってその名を叫ぶ。
「ザンザス!?」
「退くぞ」
「なっ……!!」
その口から出た言葉に、更に驚き、言葉に詰まる。
まさか退却を命じられるとは、思ってもみなかったのだ。
「まだ時じゃねえ」
「だがぁ!今やらねーでいつやるってんだ!?だいたい逃げるったって……!!」
「マーモン」
「!!わかったボス。プレゼントプリーズ!!」
『メッセージ受諾!!』
近くで、藍色の光が溢れ、マーモンが呪解したことを悟ったスクアーロは、顔を歪ませる。
「ここで呪解を使ったら、他のチームとマトモに戦えねーぞぉ!!」
「今使わねーでいつ使う。退くぞ、カスザメ」
「ぐ……くそっ!!」
マーモンの呪解時間だって、もうほとんど残っていない。
悪態を吐き、舌打ちをしたスクアーロが、怪我人達を乱暴に抱えて、喚び出したアーロの上に乗せる。
「飛び降りるぞぉ!!捕まれ!!」
破壊された窓から、アーロと共にスクアーロが落ちていく。
続いてザンザスが飛び降り、その後を幻術で敵を欺きながら、マーモンが降りていく。
落ちる最中にコルヴォとファルコを出し、二羽に捕まりながら、ホテルの裏口付近に着地したスクアーロは、素早く辺りを見回すと、入り組んだ路地に踏み込んだ。
「ちょっと!!今回の制限時間は12分あるのよ!!」
「マーモンの呪解はもう終わりだろ?
逃げ切れんのかよ!!」
「るせぇぞぉ!!奴らがオレ達のいる場所に寸分違わず現れんのは、恐らく奴らがオレらの死ぬ気の炎を感じ取っているからだぁ!!だがこうも入り組んでいて狭い路地なら、居場所の特定はしづらいはずだぁ。とにかく止まらずに走り続けてりゃ、よほど運が悪くなきゃ捕まらねぇはずだぁ!!」
「ム!でもそれ全部推測じゃないの!?」
「現に奴らはまだ現れてねぇだろうがぁ!!」
「今はまだね!!」
全員で、復讐者に見付からないようにひっそりと叫ぶという器用な芸を披露しながら、今できる全力で走る。
時折路地の隅に蹲っているホームレスらしき人影とスレ違う度に、悲鳴をあげられた。
「あと何分だぁ!?」
「あ、あと1分だよ!!」
「……来たぞ」
「!?」
最後尾を走るザンザスの声に、振り返ったスクアーロが顔を引き攣らせる。
後ろからは、猛スピードで復讐者が追い掛けてきていた。
マーモンが喉に張り付いたようなか細い悲鳴を上げる。
「カスザメ」
「くそっ!!先頭に行けザンザス!!」
スクアーロの言葉に従い、前に出たザンザスは、ヴァリアー達を先導して走る。
最後尾になったスクアーロは、懐に手を突っ込み、すぐに引き抜く。
その手には、どこにしまってあったのか、幾つかの手榴弾と、中に青や赤の炎を揺らめかせる大量の水晶を掴んでいた。
「食らえ!!」
「!!」
水晶をばらまき、遅れて、ピンを引き抜いた手榴弾を投げる。
狭い路地に、壁のように炎が燃え上がり、その隙間を縫って投げ込まれた手榴弾が、復讐者たちのマントを焦がした。
後ろを確かめる時間も惜しみ、爆発に背中を押されるようにして走るスクアーロ。
すぐに復讐者達は立ち上がり、爆炎を乗り越えてその背に手を伸ばすが……。
―― ティリリッ
『戦闘終了』
「なっ!あ……!」
その唐突な音に驚き、スクアーロは足を縺れさせて転ぶ。
その頭を掠めるようにして、復讐者の鎖が飛んできた。
転ばなければ脳天を貫かれていただろう。
幸運にも死を免れたスクアーロを、冷たい眼差しで見下ろした復讐者達は、名残惜しむ様子すらなく、あっという間に炎に包まれてその姿を消した。
「隊長!!大丈夫!?」
「ぎ、ギリギリで大丈夫だったぜ……」
ゼイゼイと肩を弾ませながら、吹き出す汗を拭って立ち上がったスクアーロをアーロが支える。
主を心配して取って返してきたらしいアーロだが、そのせいで怪我人達はコンクリートの上に投げ出されていた。
「……くそっ、復讐者の野郎共!」
「早く戻ろうスクアーロ。今の戦闘が3日目の分だってことは今日一日はゆっくり休めるんだから。今日は休んで、明日こそは……」
「……そうだなぁ」
もう一度アーロの背に怪我人達を乗せて、重い足を引きずりながら歩き出す。
暗いオーラを背負うスクアーロの背に、ザンザスがおもむろに蹴りを食らわせた。
「いっでぇぇえ!!!」
「ドカスが」
「な、何するんだいボス!?」
「沈んでんじゃねえ、気色わりぃ。さっさと帰るぞ」
スタスタと歩き出したザンザスを追って、背中を押さえてヨロヨロと歩くスクアーロを、珍しく仲間達全員が労るような視線で見ていたのだった。