リング争奪戦

「安全な場所へ!!おぬしに伝えたいことが!」
「ちょっ、何なの!?」

走って建物の裏に入っていこうとするガキどもの前に、降り立ち、再びオレは剣を構えた。

「ゔお゙ぉい!!もう鬼ごっこは終わりにしようや」
「ひいい!でたーーっ!!」

うるさいガキだ。
資料でしか見たことなかったが、実物は資料以上に馬鹿っぽく見える。

「で、何を伝えるって?」
「……聞いてたのか!!」
「聞こえたんだぁ!オレは耳がいいからなぁ。まぁいい、そろそろ答えてもらおうかぁ!!」

胸の前にブーメランを構えたバジルの、隙だらけの懐に入り込む。
鳩尾に向けて、最初の攻撃より力を込めて柄を叩き込んだ。

「がっ!」
「!!き……君!!」

ガラスを突き破って倒れ込むバジルを真っ青な顔で見た10代目候補。
ソイツに声をかけると、冷や汗を流しながらこちらに振り返る。

「ゔお゙ぉい、クソガキ……。てめぇ、沢田綱吉だなぁ?」
「ひっ!その、えと…あの……、」

まごまごと、ハッキリ言わねぇソイツに、イラついて舌打ちをする。
今ここで殺す気はねぇが、めんどくせぇな……。
万が一ではあるが、芽が出ない内に殺してしまった方が良いだろうか。

「早く、……っ!!」

早く答えろ、と言おうとした瞬間、頭上から大量のダイナマイトが落ちてきた。
横に飛んで避け、ダイナマイトを投げたであろう人物に叫んだ。

「チッ……、なんだぁ!?」

因みにその『なんだ』には人の話の邪魔をするとか何様だ、とか、そんな柔い攻撃でオレに楯突こうとか何考えてんだ、とかの様々な意味が込められている。
音と匂いで近づく前にすぐわかる。
あんなものじゃあ、さっきのバジルだって余裕で避けちまうだろう。

「その方に手をあげてみろ。ただじゃおかねえぞ」
「ま、そんなとこだ。相手になるぜ」

調子ぶっこいた面で現れたのは、二人の少年だった。
あの黒髪が持ってるのは剣、……いや、あれは日本刀か。
ダイナマイトを投げたのは、やはりあの銀髪センター分けだな。
噂程度に聞いたことのある、スモーキンボム、とかいうガキだろう。
弱っちぃ子供が、調子に乗りやがって。
殺されてぇのか?めんどくせぇ。

「ガキがぁ……、オレに敵うと思ってんのかぁ!?」

手加減すんのも、楽ではないのだ。
見た感じ、話にならない弱さだし、大体オレは夜通し手加減して戦い続けて来たのだ。
これ以上弱い奴の相手をするなんて、正直言ってかったりぃ。
……まあいい。
ついでに、こいつらの実力と傾向を見て、のびしろを確認しておくか。
まったくオレって奴は、本当に仕事熱心で呆れるぜ。

「行くぜっ!」

向かってきた黒髪の刀を受け止める。
力任せで技術も何もあったもんじゃない。

「剣技を習得してもねぇ奴が、オレに敵う訳ねえだろぉ!」
「そんなこと、やってみなきゃわかんねぇだろ!」
「今の一瞬で何もわからなかったのかぁ!?刀が軽いっつってんだぁ、ド素人がぁ!!」

刀をいなして、相手がバランスを崩したところを膝蹴りで沈ませる。
次に襲いかかってきた奴はダイナマイトを構えている銀髪。
火が火薬に届く前に、その全ての導火線を切り落とした。

「!!」

掌底で顎を叩き、倒す。

「ゔお゙ぉい、弱すぎるぞぉ!!剣を使うまでもねぇ!」

急所を突いたが、手加減は十分したから、まだ意識はあるだろう。
脳ミソを揺らすような攻撃もしたし、気分は最悪だろうがな。
オレは尚も、奴らを馬鹿にするような言葉を吐く。

「この程度で意気がってるとは笑えるなぁ!!『ただじゃおかねえぞ』だぁ?『相手になるぜ』だぁ?そういう言葉はなぁ、もっと強い奴が使うんだよ、軟弱なクソガキどもがぁ!!」

剣を高く振り上げる。
下にはダイナマイトを使うガキが倒れている。
さあ、動いてみろよ、沢田綱吉。
こいつらの動きは全部観察した。
後はお前だけなんだからな。

――ヒュッ! ギンッ!!

「……まだ動けたかバジル」

沢田は動かず、またもやオレの前にバジルが立っていた。
根性のある奴ぁ、嫌いじゃねえ。
だが、今用があるのはバジルではない。
荒い息でオレに立ち向かってくるバジルを、勢いよく蹴り飛ばした。

「うう……」
「ゔお゙ぉい、てめぇは大人しく、そこで寝てろぉ!!」

さて、そろそろ沢田綱吉を捕まえるか。
くるっと剣を回して、今度こそ動けないようにバジルの服を地面に縫い付けようと、剣を突き刺した……はずだった。

――ガッ!!
「復……活!!!!」

横から伸びてきた手に腕を捕まれ、動きを止められる。
殺気を感じなかったから、油断していた。
捕まれた腕を振り払い、先刻とはうって変わって凄まじい形相をした相手……沢田綱吉と向き合う。

「ロン毛!!!死ぬ気でお前を倒す!!!」
「……ゔお゙ぉい、そのグローブは」

資料にはグローブを着けて戦うなんて情報はなかった。
最近手に入れたのか?

「うおおお!!!……!?」

宣言通り、オレを倒さんと飛んできた正拳を受け止める。
まだ、素手でも対抗できるレベルだ。
そう、今はまだ……。

「よえぇぞ」

見たところ、沢田の身体は筋肉がほとんど付いていない。
ただの蹴りで吹っ飛ぶほど軽いし、早さも膂力も、オレにさえ及ばねえ。
だがもしこれを鍛えたら。
この勢いに、炎のパワーに耐えられる体を作れたのならば。

「こいつ、化けるな……」

表面では余裕を取り繕っていたものの、心中は複雑だ。
こいつを一言で現すなら、まさしくそれは『不安要素』、いや、『危険因子』とも言えるかもしれない。
今後どう化けるのか、予測がつかねぇ。
懲りずに向かってくる沢田を、仕込み火薬で追い払い考える。
いっそここで、殺した方がいいのではないか?
ジリジリと追い詰めながら、頭の一部を思考の海に沈める。
こいつの教育役は確か、いけ好かないアルコバレーノ、リボーンだったはず。
ならばこのグローブ以外にも、隠し玉があるかもしれない。

「ゔお゙らぁ!」
「ぐっ!……はっ!」
「ゔお゙ぉい、まだやる気かぁ!?」
「ひいいっ!!」

広場の様なところにぶっ飛ばした沢田は、突然人が変わったかのように怯えだした。
額に浮かんでいた炎が消えている。
9代目やザンザスと違って、こいつはリボーンの死ぬ気弾で死ぬ気モードを引き出されていたはず。
死ぬ気モードが解けたのか。

「……トドメだぁ」

ここで攻撃が当たったら、殺そう。
そう思って、仕込み火薬を放つ。
真っ直ぐ沢田へと向かっていったそれは、左側から飛んできたブーメランに防がれた。
……まだその時じゃねえ、のか。

「……チッ」

まぁ、いい。
もともと、ここでアイツらを殺しては、計画が破綻する。
今回はたっぷりと脅しをかけて、すぐに帰ろう。
煙の向こうで、バジルが沢田に何かを渡しているのが見えた。
恐らく偽のボンゴレリングだろう。
気配を消して忍び寄り、沢田からそれを取り上げた。

「なっ!いつの間に後ろに!!」
「ゔお゙ぉい、仮にも暗殺部隊だぞぉ。気配を消すくらい、出来て当たり前だぁ」

このガキ、オレのことをなんだと思っているのだ。
返せと喚くガキどもの声を無視して、中身を確認する。
中にはかなり精巧に作られたボンゴレリングの偽物が入っていた。
やっぱりな。

「それはお前達のものではない!!返せっ!」

こんな偽物はオレ達だっていらない。
熨斗をつけて返す、だったか?
とにかくオレが突っ返そうと口を開いたとき。

「あいかわらずだな、S・スクアーロ」

またもやオレの言葉は遮られた。
この声、確か……跳ね馬ディーノ、だったか?

「子供相手にムキになって、恥ずかしくねーのか?」

そういやぁ、バジルとの夜通しの戦闘中に、跳ね馬と門外顧問が空港に着いたっつー連絡があったかもしれない。
門外顧問はこの場には来てねーみたいだ。

「……オレのどこが、ムキになってんだぁ?」
「こんなに暴れまわっといて、ムキになってないってのか?」

熱くはなってたかも知れねーが別にムキにはなってなかったつもりなんだが、端からはそう見えたのか。
これ以上問答を続けるのも面倒だったから、オレはフン、と鼻をならして返事に変えた。

「スクアーロ、その趣味の悪い遊びをやめねーっていうんなら、オレが相手になるぜ」

同盟ファミリーであるキャバッローネのボスと戦うだと?
そんな印象悪いこと誰がするかってんだよ。

「お前と戦う気はねえ。別に今回は、コイツらを殺す気もねえしなぁ」
「……何?」

殺す気はないというオレの言葉に、跳ね馬の眉尻がピクリと上がる。
少し、隙が出来た。
オレは目の前のススキ色の頭を掴み上げる。

「だがなぁ!」
「ぎゃっ!」
「手を放せ!!」

掴み上げた沢田を、そのまま思いっきり、跳ね馬の方に投げる。

「おわっ!ツナ!?」
「次に来たときは容赦はしねえぞぉ!それまで、精々足掻けぇ」
「ま、まてっ!」

追いかけようとして崩れ落ちたバジルを鼻で笑い、じゃあなぁ、と吐き捨ててその場は引いた。
移動中に、家光を張っていた部下どもの話を聞く。
どうやら奴は、守護者の勧誘をしていたらしい。

「片目に眼帯をつけた女子中学生だぁ?」

また意味のわからない奴が増えた。
これ以上面倒事が増える前に、全部片して終わらせてしまいたいのにな。
イタリアに帰ったら報告して、準備を整えて、また直ぐにこちらへ発たなければ。
そういやぁ……、

「せっかく日本に来たってのに、日本食何にも食えなかったなぁ……」

隣を歩く部下の顔が、少し引き攣ったのは気のせいではないはず。
オレが日本食好きで何が悪いんだよ。
隊服の懐で、結局突っ返せなかったリングがカタンと鳴った。
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